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魔王の転生先は日本(ファンタジー)でした。  作者: くろきしま
01章 魔王様は劣等生
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第6話 魔王様は敗北の味を知る

 やたらと人が集まってるんだけど……。

 よく見たら別のクラスの子とか、窓越しに覗いたりしてるし……。


 これ、いわゆる晒し者ってやつですか?


 向かい合ってる小何とか君も顔が青ざめてる。

 勢いで事が大きくなりすぎて、時間差で冷静さを取り戻したといったところかな。


「それではこれより二人の決闘を始める」


 この山中先生、ノリノリである。

 僕はすかさず手を挙げて口を挟んだ。


「先生、これは試合では? 別に殺し合いをするわけではないでしょう?」


「おっと、そうだったな。私もこの空気に若干酔っていたようだ。すまない二人とも、準備はいいかな?」


 この空気を作ったのお前じゃい!! と言いたい。


「ルールはどうします? どちらかが先に1当てした方を勝ちとしますか?」


「……それだと君が不利ではないか?」


 僕としてはさっさと終わりにしたいんですが……。


「俺もっすね、むしろ比良坂君が有利の方が盛り上がるっすよ」


 おい、上がり下がりの話じゃねぇっすよ!? って口調移っちゃったわ。


「……じゃあ、ノックダウンで終了。1撃毎に1ポイントで、5ポイント先にとった方が勝ちって事で良い?」


「良いんじゃね? まぁ、それで比良坂君夢見れんなら?」


 フフンと鼻息荒く、ドヤ顔する小何とか君。

 こやつ、煽りおる。


「では始めるとしよう。二人とも少し離れて」


 僕と小何とか君は距離を取る。


 さて、僕に勝ちの目はあるのか?

 という疑問以前に、そもそも勝ちに拘るつもりはなかった。

 僕、300歳超えてるからね。


 この勝負、仮に勝ったとすると、不正だなんだと難癖を付けられるのは目に見えている。

 負けたとすると、既定路線過ぎるわけだが、それが返って小何とか君の評判を下げる事に繋がるかもしれない。


 日本において、イジメっ子は総じてイジメられるのだ。


 こんな大勢の前で僕を倒してイキッたが最後、彼は残りの学園生活を加害者という業を背負っていく事になるだろう。

 若い子の芽が潰える様はあまり見たくないものである。


 となると僕はそれなりの頑張りを見せる必要がある。


 魔法が使えない僕が、彼に何とか頑張って立ち向かった上で、『あいつ、無能のくせにガッツはあるな』的な評価を得つつ負ける。

 これなら全て丸く収まるだろう。

 うん、完璧なシナリオだ。


 とて、僕にも立ち向かえる手札が無いと話にならない。


 まずは身体強化。

 魔力で筋組織を補強する技術だ。

 これが出来ると、極めればアメコミ的ヒーローみたいな動きが再現できる。

 ……魔力を持っているなら大なり小なり皆出来るけどね。



 次に精神眼。

 魔力や精霊といったアストラル体を視認出来る力。

 精霊とより深いコミュニケーションを取るのに必要不可欠な力だ。

 これによって魔法がより強力なものになる。

 ……僕は魔法使えないけど。


 腰に下げてるキーホルダーの鈴が鳴るが、今は関係ない。

 失くさないようにポケットにしまう。


 ……さて、僕が16年かけて積み上げた手札はこの二つのみ。

 ま、やるだけやってみますか。


 対峙する小何とか君を見ると、その表情に緊張の色は見えていない。


「始め!!」


 山中先生の声と同時に小何とか君は動き、僕は少し遅れた。

 小何とか君の視界に回り込むように外側へ走る。


「あまい! ウィンドカッター!!」


 空中に飛んだ小何とか君は手刀で空間を薙いだ。

 空気の刃が斜め上から落ちてくる。


(空気というだけあって、結構早い……でも見えている!!)


 空気の刃といっても、魔力がしっかりと込められている。

 なら僕の精神眼で視認できるのも道理だ。

 僕がギリギリのところで躱すと、周囲がざわめく。


「へぇ? まぐれ的な? でもそんな何度も避られねぇべ?」


 地面に着地するまでに4度同じようにウィンドカッターを放つ。

 それを当たらないように丁寧に避けていく。

 小さな土煙が上がるが、それ以外に変化はなかった。


「まさか見えてるの?」


「精神眼持ってんのかよ。うわぁ〜宝の持ち腐れすぎるわ」


 何度も避ける僕を見て、察しの良い生徒は僕が精神眼を持っている事を見破ったようだ。


「いやいやいや、比良坂君マジ運振り切ってんねぇ」


 言葉とは裏腹に目が笑ってない。


「……ちょっち、本気だすわ」


「あっ馬鹿!!」


 僕はつい口走った。

 小何とか君が本気を出したからじゃない。

 ウィンドカッターを並行に打ち出したからだ。


 避ければ他の生徒に当たる!!


 咄嗟に僕は身体強化の強度を上げて右手でウィンドカッターを掴んだ。


 ボタボタと、赤黒い血が流れる。


「握りつぶした!? 俺のウィンドカッターを!?」


(ぐぅぅぅぅぅ痛い!!)


 彼の本気のウィンドカッターは僕の身体強化を上回ったらしい。

 怖くて手のひらが開けない。


「ちょ、おまっ、俺の魔法握るとか馬鹿じゃねぇの!? つかお前の方が馬鹿じゃん!!」


 痛すぎて言葉が出ない。


「うわっ、引くわー。マジあり得ないんですけど。ちょーし乗っちゃったのかよ」


 多分、小何とか君は僕を傷付けた罪悪感から、必死に言葉を出して精神の安定を図っているんだと思う。

 でもこの流れは非常に不味い。


「小島君ってAランクよね」


「ちょっと大人げなくね?」


「流血はちょっとやりすぎじゃねぇの?」


 痛みで止まっている場合じゃない!!

 とにかく僕がまだやれるってアピールしないと!!


 さっきより多めに魔力を回す。

 身体に巡らす魔力の膜をより厚くする。

 これで止血効果もあるからまだ動ける。

 ……痛みさえ我慢すれば。


 何でも無い風に右手を軽く振る。

 ピッと血が地面に飛ぶが、気にしてもいられない。


 振った右手を握りしめ、跳ぶ。

 小何とか君の後ろに回り込み、右手で彼の頬をペチッと軽く叩いた。


「……へ?」


 唖然とする小何とか君に僕は「これで僕も1ポイント。同点だね」と言った。


 どうよ!!

 この迫真の演技!!


 これで小何とか君の攻撃は思ったほどではなかったとアピールしつつ、僕もちゃっかりポイント取っちゃいましたアピールになった。

 後はなんか良い感じに……じゃれ合いつつ、負け……れば……。


 ……あれ?


 なんか、視界が……くらく……。


 身体の力が抜け、そのまま僕は崩れ落ちた。

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