第5話 魔王様の幼馴染
私は愛澤勇希、16歳高校一年生。
今教室で授業を受けているの。
数学って苦手だわ。
数っていうんだから0〜9で完結しなさいと強く言いたいわね。
綺麗に積み上がったパズルみたいなところは好きだけれど、唐突に仮定の話をしだすあたり、ね。
タブレットの隅に指でクマちゃんの絵を描いてみた。
なかなか可愛く出来て良い気分だったのに、隣のクラスがうるさくなってそんな気分が吹き飛んでしまった。
何やら『決闘だ!』と騒いでいる。
高校生にもなって馬鹿丸出しなんだから……。
ただ、そのクラスには一人だけ気になる男子がいた。
……断じて恋愛的な意味ではないと明言しておく。
校庭に隣のクラスが流れ、その中心にはその彼がいた。
思わず私は立ち上がった。
「おい! 愛澤!?」
先生が止めるのを無視して飛び出す。
止まるわけがない。
あの馬鹿げた騒ぎを止めないければと、それだけで頭が一杯なのだから。
私は外履きに履き替える事も忘れ、校庭に飛び出した。
決闘の中心、そこには魔法が使えない彼『比良坂 真代』がいた。
「アンタ達!! これは何の騒――」
止めようとした私の肩を後ろからガシッと掴まれた。
「やめとけ愛澤」
止めたのは金剛力也だった。
「ちょ、アンタ友達でしょ!? なんで止めないの!!」
振り向きざまに水月に一撃入れてやった。
「そんなの止める必要ないからに決まってんだろ。むしろ止められたら困る」
ほぼ反射的に金剛の脛を蹴っていた。
「何? 困るって? 馬鹿なの? 燃やすわよ?」
「真代が無能扱いされてんのが心底気に入らねぇんだよ」
こっちの攻撃を全く意に介していない金剛にイラつきを覚えるが、その言葉は理解出来るものだった。
「でも止めないと真代は下手すれば死ぬわよ!!」
確かにこの場をどうにか出来れば、真代が無能と呼ばれる事はなくなるだろう。
でもそれはどうにか出来ればの話だ。
事実として魔法が使えない真代には、この場をどうにか出来る力なんてあるはずもない。
「絶対に真代は死なねぇ」
当然とばかりに金剛は言う。
「……お前も皆と一緒だな」
「何がよ!」
「誰も真代の事を認めてない」
「アンタ何言って……」
私の言葉は最後まで続けられなかった。
大きな歓声が耳に届いたからだ。
つまり決着がついてしまったということ。
人だかりの中央を急いで観ると、呆然と立つ知らない男子と……。
血を流して地面に倒れている真代の姿だった。
「……アラ?」
そんな間抜けな声を出した金剛に、私は思いっきり顔面を殴りつけた。