第1話 魔王様(16)
この一つ前にプロローグがございます。
暗雲渦巻く魔王城の最奥で、熾烈極まる戦いの応酬が繰り広げられようとしていた。
『よくぞここまで来た。勇者マシロよ』
甲高い笑い声とともに、姿を現す魔王に主人公は息を飲んだ。
一歩、後ずさりしながらも、剣を構えて勇者マシロは吠える。
『魔王クチャラボラス!! 俺がこの世界を闇に染めたりはさせない』
『では、始めよう!! 世界の命運を決める戦いを!!』
グウィングウィンと視界が歪む。
異空間の中で存在しているのは、魔王と勇者の二人きり。
勇者マシロに仲間は最初からいなかった。
だが、一人でここまで来た。
世界に平和をもたらす、その一念で勇者マシロはここに立っている。
意を決してマシロは呪文を唱えた。
テレレレ。
勇者マシロはメガボルテックスを使った。
クリティカル! 9999999999999999999ダメージを与えた。
魔王が明滅し、徐々にその姿が崩れていく。
『ぐおぉぉおおお!! 我は滅ばん!! 必ず次の我が、世界を闇に包んでくれようぞ!!』
そう言い残し、魔王は滅び勇者マシロは王国に帰り、王女と結婚し幸せに暮らしました。
……からのスタッフロール。
「……なんだこのフリーゲーム、クソゲーじゃないか」
60時間費やした者の言葉である。
「真代ぉー、ご飯よぉー」
母上、真露さんの声が僕の耳に届いた。
パソコンの電源を落とし、制服に着替えてドアを開ける。
「おはよう母さん、おはよう悠」
食卓には既に妹の悠が朝食を食べていた。
「……ご馳走様でした、ママ行ってきます!!」
そう言うと悠は鞄を手にとってさっさと出て行ってしまった。
「もう! 悠ったら、お兄ちゃんに挨拶もしないで!!」
「いいんだよ母さん、悠も年齢的に難しい年頃なんだから」
「でもねぇ……」と母上は難しそうな顔をする。
悠が僕を嫌うのは思春期的な事だけが理由じゃないということを、母上は知っているからだ。
だが、それを解決することは難しい。
例えそれが家族であっても。
僕はその話題を避ける様に、テレビの電源を入れる。
丁度朝のニュースの時間だった。
『新世代が生まれて16年、今日で新世代保護法が施行されて15年が経ちました。高校生となった新世代に秩序ある理性を望む一方で、彼らを危険視する声が日々高まっており……』
気の落ち込む様な話題だった。
『新世代』ある時を境に特殊な力に目覚めた世代を、世間は誰ともなくそう僕達を呼び始めた。
特殊な力、魔力に。
僕達『始まりの新世代』は生まれながらに魔法が使える。
世界は未だ、僕達の存在に着地点を見出せずにいた。