第16話 魔王様の引きこもり生活1日目 -夜-
とんだ1日となってしまった。
帰りの車の中で七海先生から書類を受け取る。
珍しいことに紙媒体だ。
「『新世代』を取り込んだという事は活動拠点は三知之島に限定されますね」
現状での『新世代』の行動は強く規制されている。
海外渡航はおろか、この三知之島を出るのも本来は厳しい審査を受けなければならない。
「ねぇ七海先生。まだ不貞腐れてるんですか?」
「べっつにぃー未成年に先越されたとか思ってませんけどぅー」
「あれはただ戯れてただけですよ。電脳ジョーク」
「まさかねぇ、君が妻子持ちだったとはねぇ。……法律って何だっけ?」
不貞腐れつつも、七海先生はキャロルとアリスに対し物ではなく者として認識してくれている事実に嬉しく思う。
「何ニヤニヤしてんのぉ〜〜〜、勝ち組の余裕か!?」
「先生!? 自動運転だからって前ちゃんと見てください!! ちょ、こちょこちょはヤメて!!」
「既成事実をここで作って慰謝料ふんだくってあげるわ!!」
「未成年に手を出して捕まるのは先生なんですけどぉ!?」
野獣と化した七海先生から貞操を守りつつ、車はマンションの入り口まで帰ってきた。
「次からは余裕を持って行動してください」
「良いじゃない休みなんだし。かったぁ〜いのは言いっこなしよ」
ブレないなぁ。
「「……何してんの?」」
「勇希? と悠? お帰り二人とも。そっちこそ揃って珍しいね」
「「聞いてるのは私なんだけど?」」
ナゼハモるんです?
な、なんかいつもより怒ってない?
「巻口先生は何故ここに?」
目線だけ運転席に向ける勇希。
黒塗りの犯人みたいな視線の鋭さだ。
「う〜〜ん、マシロちゃんとデート?」
「「……明日学校に報告します」」
「ってのはジョーーダーーン☆ じゃ、マシロちゃん」
七海先生は車の操作をマニュアルに切り替えて、急ぎ走り去って行ってしまった。
「……あれは当分、結婚できそうにないな」
さて、部屋に戻ってネット麻雀でもやるか。
エレベーターに向かおうとしたところで肩をガシッと掴まれた。
「ねぇ真代、今のは何?」
「……七海先生が何でいたのかって話? さぁ? このマンションに親戚でもいるんじゃない?」
勇希の反対側から悠がスマホを僕に見せる。
バッチリ僕が車から降りているところが写っていた。
「……で? 親戚がなんだって?」
悠の心底侮蔑した目線が僕を射抜く。
「……はい、説明します」
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「「はぁ? アルバイト!?」」
「うん、先生の伝手で紹介してもらってたんだ。教員と生徒という関係だからあまり表沙汰に出来なくて」
僕は二人を自室に招いてそう弁解した。
……うん、嘘は言っていない。
僕の説明に、二人の雰囲気は和らいだ。
「でも、なんでアルバイトなんて? 欲しいゲームでもあるの?」
「そんなの将来のためだよ」
勇希の問いに僕はそう返した。
「いずれ自立しないといけない時は来るから、今の段階から準備しておかないとね」
「いくら何でも早すぎるでしょ!? 私たちまだ高一よ!?」
勇希は驚いた。
まぁ、普通はそうだよね。
でも僕の『新世代』としての需要はほぼ0に等しい。
今からでも遅いくらいだ。
「そうかな? でも確かに二人は『新世代』としては優秀だからその心配はないだろうね」
「……何の仕事?」
悠が珍しく訪ねてきた。
「情報処理だよ」
僕の返答に悠はフッと鼻で笑い。
「ツマンナ」と一言笑顔で吐き捨てた。
引きこもれませんでしたぁぁぁぁあ!!