第15話 魔王様とキャロルとアリスと不穏な気配
Calculative
Artificial
Radiance
Observer
Lector
計算上の人工的な輝きをもつ監視者兼講師。
その頭文字をとってCAROLと名付けられた人工知能だ。
……思え向きは。
『キャラクターを演じると言う意味でCarrolでも構いませんよ?』
「僕が構うよ。ほら、アリスも出ておいで」
わーいとアリスがキーホルダーから飛び出すと、部屋の脇に置いてある円筒型のスキャナーに入る。
『お母さん、おひさー?』
『元気そうね、アリス。真代さんに迷惑をかけてない?』
『えぇーーー!? 私凄く役に立っているわ!! ね、マシロ!!』
「うん、こないだも僕の怪我を治してくれたもんね」
会話が違和感なく成立している。
それも当然だ。
人工知能のふりした人工知性、それがキャロルなんだから。
『同期が終わったわ。お疲れ様アリス』
『べっつにー。同期して分かったけど、私の事なんてついでなんだもん。べーっ』
「ついで?」
いつものアリスの同期が目的じゃないの?
『もう、アリスったら……ごめんなさい真代さん。実は真代さんの耳に入れておきたい事があるの』
この先の話は思った以上に重いものだった。
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キャロルは国家安全保障局に属する主任という立場だ。
SNS等のビックデータを収集解析をしたり、部下からの報告をまとめあげている。
「新世代排斥派? 『賢人会』みたいなものですか?」
『いえ、それほど大きな組織ではないようです。言ってみればストリートギャングみたいなものでしょうか』
「日本にもいるんですね」
『目立っていないだけで相当なグループがありますよ。例外なく公安がマークしています』
良かった、公安が動いているなら安心だ。
『新世代』が登場してからというもの、それを起因する争いが発生していた。
国内であれば警察、公安がそんな勢力を抑えてくれている。
「なら安心ですね」
『そうは問屋がおろさないんです。新しいグループが生まれようとしています。公安もまだ認知出来ていません』
「キャロルは掴んでいるんですよね。その情報を渡しても?」
『すでに渡していますが、恐らく公安は動かないでしょう。警察も、事が起こらないと動けません』
公安が動かない?
そんな事ってあります?
『公安は組織構造的に右翼左翼には対応できますが、複合的な組織に対応できる部署がまだありませんから……』
「複合的? ……ちょっと待ってください。それって――――」
『構成員に『新世代』が取り込まれているという事です』
新世代排斥派とは、魔法という新しい要素を持って生まれてくる世代から、これまでの世代の利益を守るためと目的を掲げて活動している人たちの事だ。
「そんな事ってあるんですか?」
『これまでの排斥派の一部が『新世代』を戦争の道具に使うなと活動する反戦勢力と合流しました。結果、新旧両方の利益を守る融和派が誕生した事で公安は対応を決めかねているところです。過激な活動をする事から、公安は警察庁に動いてもらいたいようですが……』
対応できる部署がない。からのそっちがやって→そっちがやって→そっちがやっての無限たらい回しループに入ったようだ。
『このままでは『新世代』初の重大犯罪者が生まれ、メディアはこぞって吊るし上げるでしょう』
……なるほど。
「なるほどじゃない!! なんでそれ僕に漏らしたんですか!? なんで!? いや本当になんで!?」
『マシロー、狼狽えすぎて草』
いやこんなん誰だって狼狽えますやん!?
『私としては、真代さんに彼らの動向を調査していただき、面倒事を起こす前に潰して欲しいと――』
「キャロルはアニメの見過ぎでは!? 僕を何だと思ってるんです!!」
未成年に何やらせようとしとんねん、こいつ本当に公務員か!?
『ジャパニーズやれやれ系ヒーロー』
「誠に遺憾です」
『酷いです、妻のお願いを聞いてくれないのですか!!』
「僕は16歳なので未婚です!」
『事実婚という言葉があるんですよ?』
「データと結婚した覚えがないんだよなぁ」
『私でアリスを産ませておいて何という言い草!!』
「うぐっ!!」
『マシロー? 認知してくれてないの?』
「アリス、お前もか」
二次元と結婚して童貞のまま妖精の子供が出来てました。
双葉先生の小説のネタになりそう。
……いや、さすがに失礼か。
「でも僕が出来るのは探りを入れるところまでで、危険を感じたらすぐに逃げますからね!!」
『さすが私の旦那様、もちろんそれで構いませんっ』
適当に探りをいれて終わりにしよう。
「あ、ちなみに報酬の方はいかほど?」
『これほど』
ディスプレイに表示された金額に僕は驚く。
0が多い、社会人の10年分の年収くらいある。
だが、正直金額の大きさに恐怖を感じる。
「何故こんなに高いのです?」
『非合法だからです☆』
あ、やっぱり。
幸いなことはこの報酬が非課税であることだった。