第14話 魔王様の引きこもり生活1日目 -昼-
昼、メールに双葉先生からメッセージが届いた。
「え? 1冊分の文書データだこれ」
は、早くない?
プロの作家ってこんな速度で書いてるの?
さすが累計発行部数9000万部は伊達じゃない!!
「うわっ、そうそうこんな雰囲気だった!! うわーー懐かしいなぁ」
文章から醸し出す雰囲気が、まんま昔の感じだ。
これがプロの技術、恐るべし。
僕は夢中になって読んでいった。
1巻は僕が生まれて魔王に選ばれるまでのお話。
戦争で疲弊した土地や家族を守るために立ち上がるのがテーマだ。
「僕の記憶の垂れ流しみたいな文章とは比較にもならないね」
僕は双葉先生に『最高です』と返信しておいた。
そういえば、双葉先生は同じ学校の生徒なんだよね……。
同い年かな?
でも見覚えがないなぁ……。
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その頃。
「わひゃらひぃーーーー!?」
中等部のとあるクラスで奇声が上がった。
食事中だった生徒が何事かと声の方向をみる。
「あ、青葉!? 一体どうしたの?」
心配そうに声をかけたのはクラスメイトの比良坂悠だった。
椅子から転げ落ちた『二星 青葉』の親友だ。
「だ、大丈夫だよ。ちょっと嬉しいことがあっただけ」
「嬉しいと奇声あげるの? 大丈夫? 保健室行く?」
「あ、煽らないで悠ちゃん!?」
「煽る? 何いってるの? 保健室いくわよ」
そう言うと悠は青葉の手を取って教室を出る。
「え? え、えぇーーーー!?」
眼鏡をかけた如何にもな文学少女は、これ以上ないくらい目立っていたが、クラスのみんなは『あぁ、またか……』と目線を自分の弁当箱に戻していった。
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「んーーー、する事がない」
今は家に僕一人だ。
母上も仕事で出かけていて夜まで戻ってこない。
静かな家で僕は一人窓から空を見上げた。
学校のカリキュラムにそった生活をしていた弊害だろうか、何をしていいか分からなくなる。
……前世でも特に何もしていなかった件。
僕が自分で統治していたのは最初の100年くらいで、残りは皆が自分で判断して統治していた。
僕のところへは事後報告の伝達ぐらいしかなく、僕が何かを判断するのは稀だった。
……うへ、鬱になりそう。
気分を変えるためにゲーム機を起動する。
そこで、インターフォンが鳴った。
大手通販事業ジャングルからかな?
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「ねぇ! 大丈夫だから!! 頭おかしくなってないから!!」
「ダメよ。何かあってからじゃ遅いんだから。青葉メンタルよわよわだし、魔力に影響出たら大変なのよ?」
青葉は悠に引きづられるように保健室まで来た。
中等部と高等部の保健室は兼任だ。
後者も北側と南側で背中合わせに建っている。
「あれ? 鍵かかってるね?」
「ななちゃん居ないのかな?」
「ね、開いてないんだから仕方ないよ。教室に戻ろっ」
「えぇ、せっかくここまで来たのに……」
悠はガッカリした様子だが、青葉は安堵せずにはいられなかった。
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「やほほー☆」
「……学校はどうしたんですか、七海先生?」
玄関を開けたら七海先生がいた。
「いやんっ、プライベートではナナちゃんってよ、ん、で☆」
「学校へ連絡します」
スマホを取り出して学校への番号を呼び出す。
「やめて! お給金減らされちゃう!! 今期ボーナス期待できないから許してください!!」
「何やったんだアンタ」
本当になんで来たの?
「今日は『本職の』七海さんなのでした。比良坂真代様、霞ヶ関までご同行お願いします」
「……はい」
真顔でそう言われてしまうと、僕には断る事は出来ない。
七海先生の胸元には、国家安全保障局のバッチが着けられていた。
霞ヶ関、中央合同庁舎に国家安全保障局は入っている。
元々は内閣官房の預かりだった組織だが、近年総務省へ移籍となった。
地下駐車場からエレベーターにのって更に下へ下がる。
(どうでも良いけど、ここのエレベーターってなんでこう貧相なんだろう)
過去に見学させてもらった際に、エレベーターもそうだけど、通路なんて常時消灯していた。
一般人が見えないところでは爪に火を灯すような環境で仕事をしているようだ。
辛みがすごい。
エレベーターの数字がB-13と表示したところで開いた。
「巻口七海、比良坂真代両名出頭しました」
七海先生の真面目な声が響く。
……違和感がすごい。
『よく来てくれました。奥へどうぞ』
電子的な音声が流れ、ドアのロックが解除される。
二人で奥へ入っていくと、黒い円柱型の巨大なパソコンが一つ置いてあった。
『真代、ようこそ国家安全保障局へ』
「お久しぶりです、キャロル」
音声の正体、国家安全保障局の特別主任『キャロル』
日本で初めて誕生した、人工知性だ。
引きこもれると、いつから勘違いしていた。