第13話 魔王様の引きこもり生活1日目 -朝-
朝の4時、真代はランニングをしていた。
学校へ行かなくて良いという日に限って、目が覚めてしまうものである。
特にやる事が思い浮かばなかった真代は、とりあえず走ってみる事にした。
継続は力なりとはいうが、真代からしてみれば惰性でしかなく、惰性で続けた事で受ける恩恵も小さな物だと思っていた。
何事も無理なく適度に、しっかりと意思を持つ事こそが重要なのだ。
「と言いつつ惰性で走っている僕なのであった」
「何言ってるの? キモいんだけど」
「……何で勇希も走ってるの?」
隣を見ると勇希が僕と並走している。
いや、最初っから知ってたけどね。
「別に、私にとっては日課だから。アンタこそどうして走ってんの? 自宅謹慎中じゃない。馬鹿なの?」
「謹慎じゃないよ!? 療養だからね! 3日間は休んでろって言われてるんだから」
「今のアンタのどこが療養中なの? やっぱり馬鹿じゃない」
おっしゃる通りです。
でも良いじゃん。 別にどこも悪くないんだし。
僕は身体強化を強めて速度を上げる。
「じゃ、僕はこっちだから」
「ちょ、待ちなさいよ!!」
勇希も速度を上げて追いかけてくる。
……何で?
「なんで僕を追いかけてくるの?」
「追いかけてないわよ! 私の行く先にアンタがいるんでしょ!!」
待ちなさいよとは何だったのか。
僕は自分のペースを諦めて勇希に合わせる事にした。
「ねぇ、なんであんな決闘したの?」
「したくてしたんじゃないよ。気付けば引けないところまで流されてただけ」
「魔法使えないアンタは死んでもおかしくなかったのよ? ちゃんと考えてる?」
「大丈夫だよ。お互い人殺しになりたいわけじゃないんだから、事故にさえ気を付けてればね」
「アンタ、手酷く血を流してそれを言うわけ……」
勇希の声が冷たくなった気がした。
僕は全力で話をそらす事にした。
「あ、そうだ! 勇希の魔法見せてよ」
「え、何でよ。嫌よ疲れるもの」
「え、勇希って魔力少なかったっけ?」
「……魔力お化けのアンタから見たら少ないでしょうよ」
勇希はAランクだ。
ランクとは魔法の強さ、危険度を表している。
魔法が強いと言うことは、それだけ使う魔力も多いと言うことだ。
「僕の魔力量をなんで勇希が知ってるの?」
「汗ひとつ出さないで長時間の身体強化をしているんだから分かるわよ!!」
うっ、そういえば勇希は結構辛そうな顔をしている。
ドライブ感覚で走ってたせいで気にならなかった。
「ごめん、気付かなかった。そこの公園で休んでいこ」
小さな公園のベンチに腰を下ろす勇希に、僕は水を二本買って一本を渡した。
「ふぅ、冷たくて美味しい」
いつでも冷たくて綺麗な水が飲める文明に感謝を!!
ベンチで座っていた勇希が、こちらを見上げる。
「ねぇ、アンタって本当に魔法つかえないの?」
「使えないよ」
僕は即答した。
「ならどうしていつも平気な顔してられるの?」
「平気?」
勇希の意図は僕にも分かる。
平気かぁ……確かに。
「魔法が全てじゃない……から?」
「どういうこと?」
「魔法が現状使えないのは辛いけど、使えなくても実生活で困ることってそれほど無いんだよね」
スイッチ一つで部屋は明るくなるし、冷やしたり温めたり出来る。
移動手段に陸海空そろっているし、未成年は勉学に集中出来る環境が与えられている。
何でも揃っているこの世界で魔法ってそこまで必要なん? って、そりゃあなるよね。
「でも魔法は私たち『新世代』の個性よ。無視出来ないわ」
「どうせ無個性ですよ」
「あっ、ごめんなさい」
ジョーダンで返されずガチ謝罪が来たんだが。
「やだ、魔法見せて」
「そんなに見たいの?」
「見たいよ!」
魔法をゆっくり眺められる機会はそうない。
もしかしたら魔法を使う糸口が見つかるかもと期待せざるを得ない。
「……いいよ。見せてあげる。おいで『サラマンダー』」
指先から炎が溢れ手のひら大のトカゲに姿を変える。
精霊『サラマンダー』
四大精霊と称される火を司る精霊。
RPGでも花形の精霊だ。
「『スライトファイア』」
勇希のサラマンダーから小さな種火が打ち上がる。
僕はそれを精神眼で見ていた。
見事に精霊とコミュニケーションが取れている。
勇希とサラマンダーとの相性が特別良いのだろうか。
魔力の親和性の問題か。
魔力の流れが非常にスムーズなのが分かる。
僕とアリスでもこう上手くはいかない。
精神性が近しいのだろうか。
でもそれだと複数の精霊とコミュニケーションなんて取れなくなってしまう。
前世での精霊との違い。
四大精霊は四色精霊と内包している属性が違う、12天の概念支配を受けていないこの世界の精霊はどちらかといえば妖精に近い。
だが精霊であることは間違いなく、妖精であるアリスとは明確に存在が異なっている。
もしかしたら……。
「ね、ねぇ……いつまで眺めてんのよ!!」
「あ、あーーーー!! なんで消しちゃうんだよ勇希!!」
「維持するのも疲れるのよ!! お終いお終い!! 私これから学校の準備するんだからね!! 他の生徒に見つからないうちに引きこもってなさいよ!!」
一方的に捲し立てて勇希は走り帰っていった。
……別に隣同士なんだから一緒に帰って良くない?
「んーーーー。精霊、その在り方がやっぱりネックかぁ……」
もしも、一人につき一つの精霊としかコミュニケーションが取れないのであれば……。
僕はどの精霊ともコミュニケーションが取れないのかもしれない。
勇希の精霊を見て、僕はそう思った。
引きこもるとは言っていない。