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魔王の転生先は日本(ファンタジー)でした。  作者: くろきしま
01章 魔王様は劣等生
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第12話 比良坂真代という少年

 比良坂真代が書籍化のメールに目を丸くしていた頃。

 三知之島権蔵は日本酒を片手に、タブレットPCで書類を見ていた。


 内容は比良坂真代の診断書だ。

 彼には結果が3日掛かるとと言ったが、あれは嘘だ。

 小一時間あれば結果は出て、PDFにまとめるのもそう時間はかからない。


 権蔵は彼のパーソナルデータに触れ、思わず笑みがこぼれる。

 思い出し笑いだ。


 権蔵は金も権力も持っていた。

 そしてそれを己の利益ではなく、国や『新世代』のために惜しみなく使っている。


 それもあり、国内外で権蔵を支持する声は非常に大きい。

 政治家、官僚、民間企業、もはや国内で権蔵に意見出来る者はいない。

 権蔵が決めた事はそのまま結果に向かって進むのだ。


 だがそこに味気なさを権蔵は感じていた。

 権蔵は自分を全知だと思っていないし、持っている権力が全能では無い事も知っている。

 間違いがないように判断している一方で、多種多様な意見があって初めて最善の選択はできると権蔵は考えていた。


 故に権蔵にとって今日の出来事は実に刺激的な一幕であった。

 例えそれが無知故の反骨精神だとしても、権蔵には好ましいものである事には違いない。


「少々大人びた思考をしてはいるが、まだまだ未熟。先が楽しみな子だ」


 権蔵には真代が友達を守るために、必死に背伸びをしているように見えていた。


「魔法が使えない『新世代』……ありうるのか? ……ん?」


 権蔵が目に止めた項目は保有魔力量だ。

 保有とは謳っているが、実際には測定器に10秒間魔力を流し、その流れを数値化したものが保有魔力量として記載されている。

 彼と同学年の男子学生の平均値が25であるのに対し、彼の数値は――――


「20,000……だと!?」


 平均値の800倍とは測定器の故障を疑うレベルだ。

 だが病院側もその事は百も承知だろう。

 その上でこの書類を送ってきている。


 世界的に見ても飛び抜けた数値だ。


「これほどの量を持ちながら……魔法が使えない? そんな事があり得るのか?」


 魔力量が少なすぎて魔法が発動しないのはわかる。

 権蔵も某有名RPGを遊んだ事があったからだ。


 だが、魔力が多すぎて発動しないとはなんなのだ?

 魔力のない権蔵には皆目見当もつかない。


 もっと調べる必要があると権蔵は思う一方で、これが公表されていなくて良かったとも権蔵は安堵する。


 三知之島学園では魔力量は公表されていない。

 努力で魔力量が上がるならいいが、現状それすらも分かっていないのだ。


 もし、努力ではどうにもならなかったとしたら……。

 権蔵はその懸念にゾッとする。


「彼と、もう一度話をするべきか……」


 そこで思考を止めた時、書斎のドアが叩かれた。


「お爺様、お婆様がお呼びです」


 最愛の孫娘がやってきた。


「あぁ麗子や、じぃじに可愛い顔を見せておくれ」


「あらあら、嫌ですわお爺様ったら子供みたい。そういえば随分とお婆様腹を立てていましたけど、お爺様何かしました?」


 天下無双の権蔵といえども、孫に勝てる道理はなく見事にだらし無く破顔するのだったが、妻が腹を立てているという情報に顔を固め、次の瞬間には青く染めていた。


「……結婚記念日じゃった!! すまん麗子!! 儂は先に行く!!」


 齢80を越えたというのに脱兎のごとく駆けて行く権蔵を見て、つくづく年不相応な体力だと思う麗子である。


「……あら?」


 権蔵の代わりに戸締りをしようとしていた麗子は、付けっ放しのタブレットPCに気付いた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「くそ!! くそくそくそくそくそ!!」


 小島直人は裏路地にあるゲームセンターにいた。

 50円で遊べる筐体がそろっている穴場中の穴場だった。


 その中でも一世を風靡したEmperor of Butler 通称EOB。

 能力に覚醒したキャラクターがド派手な戦いを繰り広げる人気作だ。


 スコアランカーである小島はこの日ばかりは対戦に手中できていなかった。

 理由は明白である。


 比良坂真代との決闘である。

 小島はまるで自分がEOBの登場キャラクターかのようにテンションが上がっていたが、それが幻想だと今日思い知らされた。


 勝ったのに称賛は浴びれず、ギャラリーからは非難され、理事長からは謹慎をくらいそうになり、負かせたはずの比良坂に庇われた。


 どうしてこうなった。

 そんな思いが小島の中で大きくなっていく。


「誰が!! 単調な攻撃してたっての!! 滞空時間おかしいだろ!! 同時に別の魔法使って浮いてたっつの!! 凄いだろ!! 褒めろよ!! 気付けっての!! Aランクは伊達じゃない!!」


 それと同時に自分の魔法で傷ついた比良坂がフラッシュバックする。

 小島はまだ精神眼を持っていない。

 自分の放った空気の刃を何の躊躇もなく握りつぶした比良坂の表情は、小島のこれまでの人生で見たことがない類の表情だった。


 みんなが言ってたように比良坂が避けなかったのは、後ろのクラスメイトを守るため……。


「ちげーから!! 当たんねぇから!! 力込めた分射程なかったから!! そんな事もアイツら分からねぇのかよ!!」


 間違いなく、比良坂の右手はバックリ切れていた。

 血も派手に流していた事から決して浅くない傷だったはず、でも教室に戻ってきた時にはそんな形跡全くなかった。


 そこから考えられる事は少ない。


「……魔法を使えないフリをしてる? ……はっ、なんだそりゃありえねぇわ」


 馬鹿げた自分の考えに途端に萎えた小島は、今度こそゲームに集中し始める。


 New Challenger!!


「……レトロゲーで乱入って珍しいな」


 対戦相手は各品随一の人気キャラのウテナだ。

 あまりの人気にある日を境に突如ロリ化した逸話を持っている。


 強いか弱いかでいえば強い。

 だが人気のキャラクターである分、その対策はし尽くされていた。


「負けるわけにはいかねぇよなぁ!!」


 小島が使うのは主人公キャラの涼。

 こちらも人気のキャラではあるが、小島は強弱ではなく、主人公っていうだけで使い続けていた。

 主人公のキャラが自分の思い通りに動くと、自分が主人公になれた気がしたのから。


 この筐体は安く遊べる分、対戦では一発勝負の設定がされている。

 小島はそれでも負ける気がしなかった。

 ……序盤までは。


「くっそ、なんだこのウテナ!! 俺の動き読んでんのか!?」


 涼の攻撃を的確にガードしつつ、小さな隙を的確に攻めてくる。

 こちらの攻撃がたまに当たるものの、向こうのショボイ一撃が積み重なり体力ゲージが下回る。


 小島が焦れば焦るほど、プレイングは雑になりウテナの連撃がハマる。

 空中に打ち上げられ、未だ硬直が解けないところで小島は気付いた。


「あ、しまっ――」


 ウテナの技ゲージが限界まで上がっていた。

 序盤からの守りに徹した動きは、こちらのプレイングの分析と同時に技ゲージを溜める目的もあったのだ。


 容赦無くウテナの派手な技が炸裂する。

 モニター上にYou Loseの文字が表示された。


 小島は声も上がらない。

 気晴らしに来たゲームセンターでボコボコにされて、むしろ鬱屈した気持ちがさらに深まる結果となった。


「……帰って糞して寝るか」


 筐体から立ち上がって、帰ろうとしたところで向かいの筐体に座っていた者をみて小島は驚く。


「……山中先生!?」


「ん? もしかして今の涼使いは小島だったのか」


「うげっ、先生ウテナ使いっすか!? EOBプレイヤーってだけでも意外なのに」


「ふっ、私は学生時代をウテナに捧げた男だぞ」


 意外すぎる山中先生の一面に小島は共感すら覚えた。


「小島も相当やり込んでいるな。ガードしながらチマチマと攻撃するのが精一杯だった」


「何言ってるんすか。こっちの動き読みまくってゲージ溜めてたくせに」


「ふぅ、小島にはそう見えていたのか。ならば私は廃ゲーマーというところか?」


 額に汗を浮かべていた先生は脇に置いてあったペットボトルを一気に飲み干した。

 どうやら山中先生は本当に一杯一杯だったらしい。


「先生はどうしてここへ?」


「私だって気晴らしをしたい時はある。特に今日みたいな日はな」


 理事長から雷を落とされた事を思い出した小島は何も返せなかった。


「ふむ、小島はこの後暇か?」


「うぇ!? な、何でですか?」


「もう少し付き合え、CPU相手では味気なさすぎる」


 小島は逡巡したが、負けっぱなしも癪に障るので受けることにした。


「うっす。今度は負けないっすよ!」


「私のウテナへの愛情は軽くはないぞ?」


 二人は未成年が遊べる時間ギリギリまで対戦し続けた。

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