第11話 魔王様はラノベ作家になりますん
届いたメールに目を通す。
掻い摘んで要約して見た。
『お前文才からっきしだけど設定面白いからプロに書かせてみない? 原案者として名前も出すし、安いけど印税入るよ。権利関係はうちの会社になるけど別に良いよね?』
…………いいなコレ。
自分に文才がないのは知っていたし、プロに自分の人生描いてもらえるとか冷静に考えて最高やんけ!!
権利関係? かまへんかまへん。
儲かろうと思って始めたことじゃないしね。
「『ありがとうございます。前向きにお返事をさせていただければと存じます。尽きましては、一度話し合いの場を設けていただければ幸いです。その上でご了承の旨お伝えできれば幸いです』っと」
さて、張り切って自伝書いていきますか!!
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「お断りさせていただきます」
僕はこの話を無かった事にした。
「何でですか!? メールでは無茶苦茶乗り気だったじゃないですか!?」
あれから直ぐに返事があり、翌日その場を設けてもらう運びになった。
自宅からほど近い喫茶店で対面に座る二人は編集者さんと作家先生だ。
二人とも女性の方で、うち一人は僕と同じ制服を来ている。
「まず魔王様が誰だコイツってなってます。無理です」
「仕方ないじゃないですか!! だってこの魔王様キャラ弱いんですもん!!」
おっと、僕の心は硝子だぞ。
「魔王様は生涯独身です。なんで色欲魔のようになっているんですか? 不快です」
「エロが無いと売上に響きます!! むしろ魔王様のキャラより優先事項です!!」
マジかよ……。
そういえば、僕が呼んでいるラノベもやたらとエロい濡れ場があったなぁ。
とはいえ、これは僕にとっての自伝だ。
申し訳ないが妥協は出来ない。
やっぱりこの話は無かった事にしよう。
「すいません。似たような世界観で頑張ってください。ご活躍を楽しみにしています」
「ままま待ってください!!」
そう言って僕が席を立とうとするのを、制服を着た作家先生が止めた。
「お願いします! ボクに先生の作品を本にさせてください!! ずっと先生のファンだったんです!!」
「双葉先生……」
「次々先立っていく腹心たちに、取り残されたと感じた寂しさも! 世代交代で気付けば周りに友達が一人もいなかった辛さも!! 私は先生の作品に触れて心を揺さぶられたんです!!」
やめて!! 僕そんなに寂しがってないからね!!
僕は顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
「お願いします! 先生の作品を世に出す手助けをしたいんです!!」
「……条件があります」
はい、絆されました。
僕は昔から熱意のある人には弱いんです。
僕は席について二人に向き直した。
「一つ、魔王様はエロくありません。生涯独身でそのうえ女っ気がありませんでしたから」
「はい、不自然なエロは入れないようにします」
「二つ、魔王様は非常に理性的な方です。オラついたり、ましてイキッたりはしません」
「はい、魔王様は鬼畜受け。覚えました」
ん? 今何か不穏当な発言をしなかった?
「最後です。原稿を僕に読ませてください。看過できない事があればその時は改稿をお願いします」
「……それは」
うん、素人の意見を聞きたく無いという事はわかる。
でも、僕も譲る気はない。
「商業誌です。売れる為の本にしなければならないと僕も理解しているつもりです。なのでタイトルを変えたり、話を面白くするために膨らませたり盛ったりする事に異論はありません。大事なのは一つだけ、魔王様です」
「そ、それでしたら」
編集者と双葉先生から同意を得られた。
「良かった、双葉先生……|魔王様(僕)をよろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げた。
編集者の人は何とか話が落ち着いて安堵しているようだった。
あ、そうだった。
忘れるところだった。
僕は鞄から一冊の本を取り出した。
「あっ『黄昏時のシャングリラ』!?」
『黄昏時のシャングリラ』、累計発行部数9000万部の超絶ビックタイトル。
アニメ化とハリウッドで実写化したモンスター級の作品だ。
「双葉先生、デビュー作からファンでした。サインください」
こうして僕は作家デビューはせず、自伝本が出版される事になった。