第10話 魔王様は引きこもる
「……ダッサ」
その日の晩、家族会議になった。
事の顛末を話し、3日間の療養生活を申し渡されたところで、妹の悠から渾身の侮蔑の感情を込めて一言吐き捨てられた。
「悠!?」
「別に、こいつの人生に興味ないけど……あまり私の顔に泥を塗らないで」
「うん、ごめんね悠」
悠には僕が魔法を使えないせいで、随分と辛い目に遭わせてしまっている。
無能の妹というレッテルが、妹にこんな態度を取らせてしまっている事に申し訳なく思う。
「……チッ」
「こら!! 悠!!」
悠は母上の言葉を無視して自室に帰って行った。
「母さん、悠を責めないで。悪いのは僕なんだから」
「な、何言ってるの? 真代のどこに……」
母上は喋っていくうちに力尽きた。
それだけ僕が魔法を使えないという事実が重いという事に他ならない。
「悠は頑張ってるよ。僕の分まで……僕の無能さをものともしない程の力をつけて。強くて優しい自慢の妹だね」
「……はぁ。まぁ有給休暇だと思ってゆっくりしてなさい」
「うん、ありがとう母さん」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は自室に戻り、この3日間をどう過ごすかパソコンを前に考えていた。
事務管理用アプリ便利すぎかよ!!
前世で欲しかったわ。
「んーー。魔法発動の条件を探るのも煮詰まってるし、ぶっちゃけこの世界で魔法っていうほど重要じゃないんだよね」
転生したばかりの頃は、己の手足がもがれた気分だったが、現代社会において魔法は特になくて良い力である。
……だって科学があるもん。
文明発展を目指すからこそ、今は魔法に焦点が行きがちだが、いずれ魔法という技術成長は落ち着くはずだ。
その事はスマホやパソコンに触れる度に思い知らされる。
「たまには趣味に時間を使うのも悪くないかな?」
僕の趣味はもちろん漫画、アニメ、ゲームです。
この世界に生まれて本当に良かったと思えるね。
でも他にも一つ、隠してる趣味があります。
パソコンのエディターアプリと隠しフォルダーを立ち上げる。
多くのテキストファイル群。
それを管理するフォルダ名には――
『魔王マシュロゥ様の異世界統治日誌-みんな戦闘民族で困ってます-』
僕は『なろう作家』をやっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日、ライトノベルを読んでいたら作者のコメントで『なろうから読んでくださる方々〜』との一文があり、気になった僕は調べてみた。
簡単に言えばインディーズのラノベ作家(自称)となる。
そこで僕はピピンと来た。
前世での思い出をここに記していこうと。
要は自伝である。
別に誰も呼んでくれなくて良い。
電子の海でも良いから僕の人生を残したかった。
そんな思いで始めた作家ごっこだったが、意外とハマってしまった。
昔の事を思い出しながら書いた事もだが、単純に文字量が増えていく事に喜びを覚えたのだ。
気が付けば、投稿話数は800話に至り、総PV数は10,000を超えた。
……うん、ちょっと悲しい。
タイトルとかガチ目で考えた分、そんな思いも一入である。
テトゥンっとパソコンにメール届く。
ポップアップでなろう運営からのメールだとわかった。
(運営からもつまんないから投稿やめろとか言われたらどうしよう)
たまに感想コメントで言われてたりする。
おっと、僕の心はガラスだぞ?
だが、僕はメールを開いて自分を疑う事になる。
その件名は――。
『〇〇文庫からの書籍化について』