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魔王の転生先は日本(ファンタジー)でした。  作者: くろきしま
01章 魔王様は劣等生
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第9話 魔王様と学園理事長

「儂が三知之島権蔵だ」


無茶苦茶なまでに厳ついお爺さんがいた。

三知之島……この埋立地と同じ苗字だ。

それだけで、目の前の人がどれほどの権力を持っているのか分かる。


そして傍らには七海先生が立っている。

……まぁ流れに身を任せてみよう。


「話はこちらの七海女史から聞いた。山中教諭、何故こんな真似をした?」


権蔵は鋭い視線を山中先生に向ける。


「こんな真似? 事情を聞いていたのでしたら、必要な事だったとご理解いただけるとおもいますが?」


山中先生は表情を強張らせながらも、毅然とした態度を示した。

僕は心中で拍手を送る。


「実に安易な行動だったな。メディアに嗅ぎ付かれたらどう責任を取る? 生徒を晒し者にして国際世論に子供を振り回すのか? 保護者にはどう説明する。決闘まがいの事などして法治国家が揺らぐわ馬鹿者!!」


決闘まがいではなく、決闘そのものだったんですけど……。

胸中で呟きながら僕は山中先生を見る。

権蔵の意見に山中先生は反論出来なかった。


「次に小島直人君。君は1週間の謹慎処分とする。今日した事を冷静に考えなさい」


「は?」


思わず声に出た。

謹慎? 何故? 小何とか君が謹慎を受けちゃうと完全にクラスで孤立するじゃないか!!

この老人ガキはそんな事も考えられないの!?


頭に血がのぼるが、頑張って冷静さを取り戻そうとする。

が、どうやら時すでに遅しってやつだったようだ。


山中先生と小何とか君は目を丸くし、七海先生は手で顔を覆っている。


「比良坂真代君、何か言いたい事でもあるのかね?」


権蔵が人を殺しそうな程の目力で僕を睨む。

その目は反論を許さないと暗に圧をかけているね。


……年長者がそういう態度するの、良く無いんじゃないかなと僕は思うけどね。


でもここは、小何とか君をフォローしないと。

謹慎なんてさせないよ!!


「謹慎の必要性を感じません」


僕がそう返すと権蔵は目を細めた。

意見されたのが意外だったのかもしれない。


「被害者の君が何故そう思う? 聞けば彼は君を無能と呼んで進んで差別的な発言をしていたそうだが?」


「それのどこに問題があるのでしょうか? 僕は魔法が使えないので、彼の主張はある意味で正しい評価だと思います。それに調子に乗らない子供なんて気持ち悪いだけでしょう」


「ここは教育機関だ。間違った思想を持つ子供には教育者として是正する義務がある」


「是正? ここで謹慎なんかされれば、彼がクラスから孤立するのは明白でしょう。今後の成長の邪魔にしかなりません」


「ならば何もしない事を良しとするのか?」


「彼は僕に手傷を負わした事で強い罪悪感を抱いています。また、自分の扱う魔法の危険性も……それなら様子を見るというのも悪くないのではありませんか?」


権蔵は顎に手を置き、少し何かを考えた後、「観察処分か……悪く無い着地点だ」と言った。


「くれぐれも、公にしない方向でお願いします。この場も今後の教育方針における参考聴取という事にしてもらえると、僕たちも学業に専念できるので助かります」


「ふむ、それなら他の生徒たちにも影響は少ないか」


権蔵の一言で何となく察した。

あの決闘は生徒にとってショッキングな出来事だったのだと。

仮に今後決闘が横行しようものなら、この特別区の運営は難しいものになるに違いない。


「では、最後に君だ」


「へ?」


「へ? ではない。今日は早退し、指定の病院で診察を受ける事。また、3日間を療養期間として休みなさい」


権蔵は決定事項だと言わんばかりに席を立った。


「ちょ、僕はもう全開ですよ!? このまま授業を受けさせてください!!」


「この後の君の授業は魔法研究だったはずだ。魔法の使えない君には必要ない」


ちょ、この老人ガキ身も蓋もない事を言いやがりましたよ!?


「他者からの魔法をもろに浴びたのだ。どのような影響があるか調べる必要がある。診断結果も3日間はかかるだろう」


これ以上話すことはないと、権蔵はさっさと出て行ってしまった。

嘘でしょ、学生から授業取り上げて行ったよあの人……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おい、ヒラっち」


誰がヒラっちやねん!

廊下に出て、教室へ戻る途中で小何とか君に呼び止められた。


「別に俺は感謝なんかしねぇからな」


良いんじゃない? それも若さだよね。


「勝ったのは俺なんだからな!!」


「何か賭けてれば良かったね、小何とか君」


「誰が名探偵だどちくしょおおおおおおおおおお」


そう言って小何とか君は走ってどこかへ行ってしまった。

……当てもなく走るのも、情緒不安定になるのも若さ故だね。

ソースはドラマ。


「あれは君の追い討ちのせいじゃないかな」


「山中先生、人聞きが悪いです」


山中先生は珍しく笑うとすまないと付け加えて言葉を続けた。


「あの『三知之島権蔵』に意見するとは君は随分と豪胆な性格だったのだな。私は生きた心地はしなかったよ」


「僕が子供だからですよ。甘えたに過ぎません」


先生はダメですよ、上下関係があるんで。

僕は良いんです。子供なんで。

生意気が許されるのが子供の特権なのだから。


「フッ、子供でも逆らう相手は選ぶものだ」


「またとんでもない大物が理事長をしているものですよね」


「何だ、知っていたのか?」


そりゃあ知ってますよ。

僕たち『新世代』を守るために政治家に働き掛けて新世代保護法を国会に通し、元々は東京湾だった中央防波堤の埋立地を買い上げて、大規模拡張してこの特別区を作った人。


「私は君への認識を、更に改める必要があったようだ」


「先生の評価は怖過ぎて聞きたくありませんね」


「すまなかった。巻き込んでしまって」


山中先生は頭を下げた。


「私には彼が魔法の有無による優劣の価値観を見過ごせなかった。何としてでも正したかったのだ」


僕は何も言わなかった。

魔法の有無は否が応でも優劣を付けるものだからだ。

先生が見過ごせなかったのは教師としての矜持ではなく、魔法が使えない者の感情にすぎない……嫉妬でしかないのだ。


「私は君を評価していた。同じ魔法が使えない身、これから先の時代を担うべき人財は君のような人間なのだと。我々『旧世代』の希望になれるとね」


そんな評価されてたの全然気付きませんでしたが?

もう少しアピールしても良かったのに……。


「だが、私は間違っていた。それを君に気付かされたよ」


僕を置いて山中先生は歩き出した。


「君も十分に化け物だ」


その言葉を残して。



…………うん、変に持ち上げるんだもん。そんな事だろうとは思ってたよね。

僕はさっさと病院に行く事にした。

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