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魔王の転生先は日本(ファンタジー)でした。  作者: くろきしま
01章 魔王様は劣等生
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第0話 プロローグ

 雷鳴轟く城の最奥、玉座より高く位置する一室に、一人の老人が窓越しに世界を観ていた。

 御年300歳を迎えるこの老人の目には、見渡す限りの世界が灰色に映り、他に何をするでもなく只ぼんやりと眺めている。


 次第に遠くの方から足音が聞こえる。

 慌ただしい音のブレから、複数人がこちらに向かって来ているのが分かった。


『騒々しいですわ!』

『す、すまん。だがもう開戦直前で皆は既に中央広場に集まっている』


 開戦前には王自ら配下に激励を与えるのが、この国での慣例となっていた。


(どうやらワシを呼びに来たようじゃの)


 扉がゆっくりと開かれ、傍付きが入ってきた。

 長年、甲斐甲斐しくワシの世話をしてくれたが、残念ながら愛着はない。


 酷いと思われるかもしれないが、今日この場に至るまで、視線を交わしたことなど一度もなかった。

 心の距離が天と地ほどかけ離れていれば、仕方ないと諦めるしかない。


「魔王陛下、御準備が整いましてございます」

「……そうか」


 魔王。

 それがワシの称号じゃった。


 17歳時に即位し、今日で300歳を迎えた。

 ……誕生日を祝われなくなって久しい。


 廊下に出ると獣王騎士団長と百顔魔術師団長が両脇に立って出迎えた。

 ワシは何も語らず、そのまま歩み出す。

 二人が空を見つめたままワシが通り過ぎるのを待つと、背後両側から黙って付いてくるのが分かる。


 この場でも、ワシは誰とも視線を交わすことはなかった。


 赤い絨毯の上を歩く最中、ワシはこれまでの人生を振り返っていた。


 今でこそ魔王と呼ばれておるが、ワシは魔族の中で平民の生まれだった。

 ……間違えた。

 そもそも魔族に貴族階級なんぞなかった。


 荒廃した土地に追いやられ、誰もが平等に貧しかった。

 それを憂いた若者の中にワシがいて、比較的魔力が高かったワシが偶々皆を導いただけじゃった。


(今思えば、そこから魔王街道まっしぐらじゃったのぉ)


 土地を肥えさせれば、それを狙う国に目を付けられ、そこから血で血を洗う争いの始まりじゃった。

 元々の種族差別に加え、貧富の格差、宗教観、資源、争う種などそこら中にあった。


 一つの戦争がやっと終わったかと思えば、戦争によって土地は痩せ、漸く生活が安定したかと思えば次の争いが始まる。


 最初こそワシは力で応戦した。

 武力と魔力で立ち塞がる敵を粉微塵にしていったのじゃった。



 ……皆が目を合わせんようになった。

 魔王と呼ばれるようになったのはこの頃からじゃ。


 更に100年過ぎた頃から、魔族の中で貴族と自称する輩が出始めた。

 皆が納得しているならとワシはそれを許した。



 ……内乱が起こるようになった。

 外でも争い、内でも争い、城でも争う。


(この頃から既に嫌気は差していたのじゃろうな)


 両親が他界し、友もおらんようになったワシは、魔大陸を如何に肥えさせるかに心を砕くようになった。


 200歳を迎えた頃には、誰もワシに意見を求めんようになった。


 結果報告を聞き、頷くだけ。

 叙勲式では『ようやった。其方は祖国の宝よ』と語るだけ。

 誰も彼も視線は下。


 こうしてワシは傀儡と成り果てた。


 ……今これからどこかの国と戦さを始める。


 ワシの声が開戦の狼煙となる。

 ワシの足は遂に終着点へたどり着いた。


『魔王マシュロゥ陛下、御入場』


 その言葉の後に中央広場を見渡せる踊り場へ出た。

 見渡す限りの同胞が跪いており、喧騒な音はどこにもない。

 皆、ワシの声を待っている。


 彼らの心情など手に取るように分かる。


「さっさと終われよ」

「はやく暴れてぇ」

「お飾りの魔王なんて何の役にも立たねぇのに」

「老害」


 ……こんなところだろう。


 ワシの言葉は決められている。


「誉れある我が国民よ、存分に猛るが良い。我らの敵を蹂躙し、その血肉を我に捧げるのだ」


 ……ワシが考えたわけじゃない。

 敵って誰じゃ? 蹂躙してどうする? これ以上領土を広げても管理なぞ出来るわけないじゃろぅに。


 枯れたはずの熱が、ヘソの奥に僅かに帯びる。

 業を煮やした獣王騎士団長が小さな声で話しかける。


「……陛下、皆に御身のお言葉を」


 久しく聞かない言葉が、ワシの熱を更に高める。


「……ぃゃじゃ」


 久しぶりの返答を、ワシは震えて満足にできなかった。

 獣王騎士団長が動揺するのがわかる。

 ワシも思うように声が出せず動揺した。


 ワシは意を決して手を挙げた。

 動揺した勢いでヤケになっていたのだ。


「其方ら、そこまで争いたいか」


 思ったより声が平坦だった。

 周囲に動揺が走る。


 そりゃそうじゃ、予定していた言葉と違うからの。


「元々この魔大陸は土地が痩せていた……其方ら若い世代は知らん者もいるじゃろう。今やこの大陸は花は芽吹き、鳥は歌い、実りある土地となった」


 中央広場に集まっていた兵たちが一人、二人と顔をあげる。


「だというのに何故まだ争う。迫害されたことが憎いか? この土地を狙う賊が憎いか? かつてワシは融和の道を模索した」


 ざわりと僅かに音がする。


「じゃがその道は早々に諦めた。其方らも、敵国も争うことを求めたからじゃ」


 周囲から安堵の息が漏れるのが分かる。


「今日ワシは300歳という節目を迎えた。そこでワシは其方らに送る言葉を考えた、心して聞くが良い」


 顔を上げていた者達がすぐさま伏せる。

 この者達に、ワシはどんな顔をしていたのかのぅ。


「勝手にするが良い。勝手に暴れろ。勝手に争え。醜く永遠と地獄の世を好き勝手に続けてろ」


 一度流れ出した言葉はワシ自身止められなかった。


「ワシの意など誰も耳を貸さなんだ。ワシもお前らの事など知らぬ。勝手にやって勝手に滅びよ」


 ワシは両手を天に掲げる。

 そこから幾重にも魔法陣が一つの球体と成した。


 周囲は唖然とした表情で仰ぎ見る。


 ワシはそこに身を投じる。

 ここにきて、漸く皆と目がしっかり交わった気がした。


「付き合いきれぬ。ワシは一足先に滅びる故、後は好きにすると良い」


 ワシが作った魔法陣は転生の陣。

 何もする事の無かったワシが手慰みで作ったものじゃった。


 この世界ではないどこかへ。


 願わくば、争いのない平和な世界へ。


 ワシはこうして全てを投げ捨て、自ら死を選んだ。

現代劇を描きたくて始めました。

よろしくお付き合いください。

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