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18と28のメランコリア  作者: 星 雪花
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モスグリーン


 オリオン座が頭上でまたたくのを眺めながら歩いていると、道路のかたわらに、一台の車が停まった。

 モスグリーンの軽。やよいちゃんだ。


「自転車はどうしたの?」


 窓を開けて、やよいちゃんは言った。片手でハンドルを軽く握ったまま。


「今日帰ろうと思ったらパンクしてて、時間ないから歩いて塾に行ったの。今はその帰り」


「お疲れさま。隣に乗ったら?」


 私はありがたく、助手席に乗りこんだ。

 やよいちゃんの車は久しぶりだ。


「塾なんて行くんだね」


 私のカバン——色んなノートやテキストが入っている——を横目に、やよいちゃんは感心するように言う。


「受験生だから。いちおう」


 家では気が散ってしまって集中できないけれど、塾に行けば勉強するしかない。宿題をそこで済ませることもあった。


「それ、新作?」


 やよいちゃんの耳元で揺れるピアスを見て聞いた。

 華奢な金色のくさり。


「そう。今日できたばかり」


 やよいちゃんの作るアクセサリーは、なんとなく、やよいちゃんに似ていると思う。ダッシュボードの上に、ハードカバーの本が置いてあった。青色と、薄い赤と白色でできた縞模様の表紙。


「それ、今読んでるの」


 私が手に取ったのを見て、やよいちゃんは言った。

 赤信号。ゆっくり停まる軽。


「冷たい水の中の小さな太陽」


 私はタイトルを口にする。隣で、やよいちゃんのほほ笑む気配がした。


「ときどき、そんなふうになれたらいいと思うの」


「そんなふうに?」


「冷たい水の中の小さな太陽みたいに」


 切り変わる青色の信号に従って、やよいちゃんはゆるやかにアクセルを踏む。窓の外で流れていく沈んだ街並みと、等間隔の電灯。


「どちらかというと」


 私は外を眺めながら言った。本をそっと、元の場所に戻す。


「やよいちゃんは、小さな花みたいだと思う。荒野にひっそりと、ひとりで咲いている花」


 劇中で流れる「戦場のメリークリスマス」の旋律が、胸の奥で立ちのぼる。いつも思い浮かべてしまう風景。やよいちゃんは、「荒野に咲く花かー」と面白そうに言ってから、


「比喩がきれいすぎるね」


 と、笑った。

 耳元のくさりが揺れて、星みたいにきらめいた。



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