第2話 これも現実・・・
「・・・ここは何処なの?・・・私達、部屋に居たよ・・ね・・」
うーむ、何て説明したものか悩むところだが・・・何も言わない訳にもいかないし、取り敢えず優先順位を教えるしかないか。後は落ち着いてからだな。
「此処が何処かはまだ分からない。取り敢えず服を着替えてから、あの森付近を目指そう」
そう言ってから背嚢を開き夕梨の靴と下着と服を取り出す。俺は元々、部屋でアーミーパンツとタンクトップだったからブーツとシャツを取り出し身に着ける。
夕梨は戸惑い気味ながらもノロノロとパジャマを脱ぎ始めたが、人が居ないとは言え遮蔽物も無い屋外で裸になるのに抵抗が有るようだ。なので、シーツを取り出し頭から被せて持っていてやる。
準備をしておいて良かった。何故こんな物が有るのかと言うと、今までの転生・転移経験を元に万が一を考えて最低限の物をバックパックに用意しておいたら、夕梨が何なのコレ?と聞いてきたので災害用のモノだと適当に答えたら、それなら!と言って自分の服と下着を数着と靴、調味料と用意し始めたので・・・俺も調子に乗って、いや、夕梨が居るなら装備を充実させないと不味いかと思い直してシーツに毛布、ハンマーと鋸、折り畳みのシャベルに紐、ピアノ線、蝋燭、オイル、調理器具、太陽電池式LEDライト、などなど・・・
結構な重量になってしまったが、やけに夕梨の物が多い様な・・・ま、女だから仕方ないか。
と、夕梨が着替え終わった。長袖Tシャツにマキシ丈のワンピースとハイカットのスニーカー。
フツーにこれだけで可愛いが肌の露出も抑えてあるので良しとしよう。髪の毛は崩して後ろで一つに括りお揃いのキャップを被せて終わり。
俺はシャツを羽織りブーツを履いて完了。シーツを戻し腰から吊る為のバンドを刀に着けて背嚢を背負う。
「さ、夕梨。行こうか」
「・・・うん・・・森に何か有るの?」
「行ってみないと分からないけど、まずは水源と継続的な食糧の確保と雨露寒さを凌ぐ場所が居る。野ざらしで野営を続ける訳にもいかないしな」
「・・・水と食べ物・・・って事?」
「そうだ。飲料水は重要だからな。他にも、料理や洗濯。魚も居れば御の字だろうな」
「・・・零ってさ・・・何でも知ってるし手馴れてるね・・・私は・・・混乱してて・・・何が何だか分からないよ・・・グス・・・」
「いや、俺もパニクったけど、夕梨も見えただろ?兎に角お前を守らないとって冷静に務めただけだ」
いや、嘘です。慣れてます。ごめんなさい。
「・・・グス・・・もう・・・わかん・なくてグス・・・怖いよぉ・・・」
まあ、そうだよな。先ずは気持ちを切り替えさせないとな。
俺が立ち止まると、夕梨も泣きながら止まる。正面から優しく抱き締めて、そのまま時間が過ぎて落ち着くのを待つ
暫くして泣き止んだが、まだ身体は強張っていたのでそのままで話掛ける。
「夕梨・・・このまま音に耳を傾けてごらん?」
「・・・・・・・・・風の音?・・・草の靡く音・・・遠くで鳥の鳴き声・・・」
「そうだね・・・ゆっくり、周りを見てごらん」
そう言うと、本当にゆっくり・・・恐々といった感じで俺に抱き着いたまま周りの景色を眺めはじめて、次第にうっすらと驚嘆の声が漏れる。
そう。あの俺達が住んでいた場所では見れない絶景が広がっている。
空を見上げれば、雲1つ無い真っ青が広がり、辺り一面は綺麗な緑色の絨毯の様な草原。進む向こうにはうっそうと茂る森、奥に高い山々が聳え中腹辺りからは雪化粧が施されている。
「・・・うわぁ・・・凄い大自然・・・きれい・・・」
夕梨が目を輝かせて見入っているので暫く待ってあげる。
随分気持ちが持ち直したのを見計らって、手を繋ぎ直して出発する。
腕時計を見ると歩き始めて1時間30分経過していた。夕梨は少し息が上がっているようだし休むか。
持ってきたペットボトルの水を交互に飲みながら30分程休憩して空を見上げると、太陽は少し傾いた程度だから本日分の時間はまだ有るか。
腰を上げて夕梨の手を取り歩き始める。
大分、森に近付いたがまだまだだ。そこからもう1時間程歩くとチラホラ花が増えてきた。
色取り取りの草花が増えてきて見た目にも華やかだし気分も上がる。夕梨を見たら楽しそうに鼻歌交じりで口元も綻んでいる。
漸く花草原の終わり。森に面した場所が見えて来た。
向かって右側の森に面した向こうを見ると白い花?が1面に見える場所が有るのでそちらを目指す。
近付くと、やはり。水芭蕉に似た花だった。湿原だから近くに川か湧き水が有るはず!
夕梨の手を引き湿原に近づいて腰を落ち着ける場所を探す。
「夕梨はここに座って待っててくれ。俺は水源を探す。何か有れば大きな声を出すんだよ?」
「・・・わかった・・・気をつけてね?」
背嚢と刀を置いてシャベルとジャングルナイフを手に湿原の森側へ歩く。
すると直ぐに見つかった。チョロチョロと流れる水道が。辿って行くと森に入って直ぐに小さな川が流れていて水量も有るし澄んだ綺麗な水だ。
恐らく山からの水源なんだろう。増水時を考えても大きな川じゃないのが好ましい。魚は期待出来ないが。
周りを良く見ると鬱蒼と茂る木々の足元は腐葉土とコケがびっしりで、その下は石でゴロゴロしているようだ。しかも石の隙間からも水が染み出している。
中々の好環境なので今晩の寝床を決めなくては。
夕梨の元に戻る途中で草原と湿原と森の境目が断層違いで高低差のある場所を見つけたので、軽くシャベルで掘ってみる。何とかなりそうだ。
夕梨の元へ戻ってから一緒にさっきの場所へ行き、穴を掘る。夕梨には近くで枯草と枯れ木集めを頼む。
何とか最低限の穴を掘り終わり、石を集めて釜土を作る。
火を起こして調理器具から鍋を出し、水を張って沸かす。夕梨に火の番をして貰う間に枯れ木を更に集めて次々に燃やし炭にしてから広げる。
草原で草を適当に刈って来てすみの上に撒いて燻す。虫や雑菌、匂いもある程度は飛ぶので干し草代わりにシーツ下に敷く。
取り敢えず燻す段取りが終わったので晩飯の準備に取り掛かる。
沸かしたお湯の半分で身体を拭いて身綺麗にする。残りでお茶と米を炊く。
今日は寝る時に転移して半日以上歩いているから夕梨も相当疲れただろうから、簡単に済ませる。
缶詰めをおかずにして簡単な夕飯だ。さっと食べ終わった後に寝床の準備をして夕梨がいつでも寝れる様に整える。
不安そうな夕梨には悪いがやるべき事も有るので、穴から出て空を見上げる。
「夕梨、出ておいで?」
「・・・うん・・・」
小さく返事をして夕梨がノロノロと出て来て、俺と同じ様に空を見上げる。
「・・・うわぁ・・・綺麗な星空!・・・宝石で埋め尽くしたみたい・・・あっ!月が大きい!2つ有るよ!!・・・」
やはりそうだった。この景色に見覚えが有る。
過去にこの世界に生きていた事が有る。だけど時間軸と正確に同じ世界かは微妙だろうから、まずは地球と同じか検証する為に星座を詠む。
記憶ではほぼ一緒だから北極星を見る。有るな。
一応、方位磁石で北を確認してから印に枝を2本離して打ち込む。
毎日ここで確認すれば北極星が動くか確認出来るから、まずはこれで良し。
双眼鏡を取り出し近い星雲や銀河を探す・・・む?アンドロメダがデカい?もう1度確認する。やはり間違い無いから少なくとも地球の平行世界な場合、18億年以上は前って事は無いな。氷河期だったし・・・ま、明日以降も確認は必要か。
暫く二人で黙ったまま、美しい星々の競演に見入る。ふと、横を見ると夕梨が星空を見上げている。
美しくも儚げなその姿を眺めながら彼女を守ってあげないと、と思う。
「さ、夕梨・・・身体も冷えるし中に入ろう」
夕梨の腰を抱き中に入って靴を脱ぎシーツの上に横になり毛布を掛けて彼女を抱き寄せる。
「夕梨、眠たいだろうけど少し話があるんだ。今回の事についてなんだけど・・・夕梨も薄々気付いてると思うけど、ここは俺達が居た地球じゃない。星空を見ても分かったろ?じゃあ何なのかって事だけど、そこまでは俺も分からない。だけど多分地球だ・・・並行世界のね。凄く昔なんだけど、あの月には見覚えが有るんだ・・・多分、その時よりも何十憶年も後だと思うが文明が有るか人が居るかは分からない」
「・・・え?・・・地球・・なの?並行世界って・・・来た事有るの?どうやって?・・・あの黒いの何だろう・・・・私達どうなるの・・・かな?」
「ああ、並行世界の地球だ。俺達が居た宇宙とは違う時間が経過した一つの可能性の世界。でも現実だ・・・昔来た時は・・・俺はね、秘密にしてたんだけど何度も死んで生まれ変わったり、違う世界に飛ばされながら生きて来たんだ。2000年は越えてるはず。その中で1度来た事が有るんだ」
「・・・じゃあ、死ぬまでここ・・・かも知れないの?・・・っていうかどう言う事なの?2000年って・・・」
「それは分からない。死ぬまでか、また転移するのかは。後、あの黒いのも分からないんだ。初めてのパターンだし・・・俺を狙ったのか夕梨だったのかも不明だ。それに・・・俺が何処の誰でこんな何千年も彷徨ってるのかの意味も分からない」
「・・・何も・・分からないんだね・・・」
「ごめんな・・・分かってるのは、おれは夕梨が大切で大好きって事だ。で、ここに2人が居て生きて行ける可能性が有る。後は追々かな・・・」
「・・・そだね・・私も零が大好きだから零が何者でもいい。着いて行くもん」
そう言って腕の中でおれにしがみついてくる。
「ありがとな。明日以降、少しづつ色んな話をしよう。おやすみ夕梨」
「・・・うん・・・おやすみなさい・・・」
色々有った1日が漸く終わった。長い1日だったが問題は山積みだよな。
柔らかい感触が腕の中に有る。よく知ってる感触・・・しかも夕梨は寝る時にブラを着けないのでやんわらかさが大変な事になってる・・・柔らかくて大きいなぁ・・・って、揉んでる場合じゃない!
「眠いが起きるか・・・やっぱ夢じゃなくて現実だよなー」
可愛い夕梨の寝顔を眺める。
「・・・すー・・・すー・・・」
良く寝ているみたいだし、そっと寝床を抜け出して顔を洗いに行く。
ついでに昨日仕掛けた網を上げると魚が5尾掛かっていたので、2尾のハラワタを取り鱗を取って戻る。
火を起こしてから、トイレ代わりを少し離れた場所に決めて見えない位置に穴を掘り、周りを葉の付いた枝を何本か衝立と屋根の様に被せる。
湯を沸かして夕梨の洗顔用と食事用に分けて、粉末のコーンスープを作り具材は乾パンを入れて戻す。
魚は鉄串に刺して塩を振り焼く。
夕梨の気分を解す為にも花を幾つか摘んでおくのも忘れない。
時計を見ると9時前だった。
良く寝ているな。そりゃあんな事があれば誰だって驚くし疲れるよな。
まぁ、起きてくるまでに色々考えようか・・・まずは食料だな。穀物はすぐに無理だろうから、魚や鳥獣の狩りがメインで野草と果物だろうな。
それから住居か。木材は何とかなるとして、石と・・・セメントがあればなぁ。石灰岩か・・・
お?石と言えば岩塩か?そうそう簡単には見つからないかも知れないけど、山で断層も有るし可能性はあるから根気良く探すか。
風呂とトイレも何とかしないと夕梨が困るよなぁ。あ、紙をどーする?夕梨が少し背嚢に入れてたけどすぐに無くなるから葉っぱで代用しかないか。材料さえ有れば和紙似の紙は作れるけど直ぐには現実的じゃあ無いよな。風呂は水が有るからセメントが作れれば何とでもなるな。
一番は季節?の予測だな。冬が来るまでに住居を作って食料と薪の備蓄だ。服は布が作れない以上毛皮を入手するしか無いからやはり狩りが大事だな!
刃物は有るから弓、槍、罠。砥石もいるし・・・あ!大事な事を忘れてた!昔にこの世界に飛ばされた時は魔法が存在する世界だった。何よりもこの空気。日本に住んでた時の地球とは微妙にちがう違和感・・・魔素が存在するはず。
モノは試しに夕梨が起きるまでやってみるか・・・
「えーっと、どんな感じだったっけ?・・・身体の中の魔力を循環させるイメージで・・・お?熱くなってきた!よし、で指先から火の玉を出す感じで・・・」
ゴゥワッ!! 「・・・・・・・・・・」
いや、デカ過ぎでしょ。使えるのは嬉しい誤算だけど加減が必要か・・・
慎重に、ライターのイメージでチョロチョロと・・・おっ点いた!で、小さくしたり大きくしたりと。
中々に出来たから他を試そう。水、風、土それぞれやってみよう。
結論から言うと出来た。それなり以上に・・・少し疲れたけど。
なので手始めに穴と排水路を作り石の基礎を作る。その上に石の小屋を作り夕梨が寝ている穴と繋げて石で部屋を作っていく。
小屋の中に入り、台所を仕上げる。間仕切りを作って其々部屋を作り排水路の上に風呂窯とトイレを作る。
風呂は窯炊きにも出来るけど、俺が火の魔法で温度を上げた方が早いだろうな。トイレも水洗にして、風呂とトイレと炊事場の水路管を作る。これは川から水路を伸ばしてきて屋根から流せるようにした。
外に出て、排水路を離れた所まで延長して、そこに大きな穴を掘り沈殿槽のように何層か作って汚水だけが先へ流れる具合にして蓋をした。
土を元にテーブルとイス、土鍋や大皿を作り中へ運び、炊事場の釜土と暖炉を仕上げたらクタクタになったがやり切った感はハンパねぇ!
時間を見ると昼前なんですが・・・夕梨お嬢様はいつまで眠り姫なんだろうか?
寝かしてあげようとも考えたけど、食材が無駄になるのも勿体無いし優しくキスで起こしてあげましょう。
「ゆうり・・・おはよう」
夕梨の横に腰を下ろし、頬に軽くキスする。
うにゅうにゅ言いながら俺に抱き着いて来てモゾモゾやってる姿がカワイイ。
「・・・おは・・にょう・・・ふえ?やっぱり・・・夢かぁ・・・・・・・・・え?夢じゃない!でも何かやっぱりおかしい?」
・・・ん・・・なんか音が聞こえる・・・誰か横に?・・・零だよね?あっ・・・ほっぺにちゅーしてくれたぁ・・・何だかそれだけで嬉しくなっちゃうな・・・呼んでるし起きなきゃ・・・零に抱き着いて感触を確かめて・・・匂いも零だぁ・・・なんだか爽やかな匂いなんだよね・・・大好きな匂い・・・さて、起きますか・・・・体を起こして周りを見る。石?で出来たベッドと部屋・・・昨日と違うよ?・・・やっぱり夢かなぁ?・・・・記憶がハッキリし出して意識が覚醒してきた・・・・あれ?
「・・・おはよぅ・・れい。何だか寝る前と様子が違うみたい・・・」
「ああ、少し作り変えてね。なるべく過ごし易いように・・・さ、向こうへ行こう」
ぼ~ぜんとしている私の手を引っ張て行く零。
あれ?昨日は掘った横穴だったよね?・・・床も壁も天井も石になってて部屋と廊下になってる・・・どうなってるんだろう?幾つかの部屋を過ぎた先に広い部屋になっててテーブルとイスも・・・火は点いて無いけど暖炉も有る。あの奥は炊事場かな?と、言うかいつの間にこんな事になってるの?
「・・・れい・・・あの・・ここは?何か・・・石のおうちみたいだけど・・・また、違う世界?」
「まずは顔でも拭いて、はい。夕梨が寝ている間に色々考えてる内に何となく出来そうだったからさ・・・勿論、あのままの世界で移動してないよ」
「・・・あ、うん・・・そうなんだ・・・」
零に手渡された蒸しタオルで顔を拭いてイスに座る・・・何だか昨日から驚きの連続で零の話にも追い付けてなくて・・・ボンヤリしちゃって・・・あ、コーンスープだ。ありがとうね・・・お皿?石の器?に焼き魚が乗ってる・・・どうしたの、これ?・・・え?川で取れたの?スゴイね零は。新鮮なお魚って美味しいよね・・・いただきまーす。うん、美味しい・・・あー暖かいスープも落ち着くなぁ。
ちょっと現実逃避して美味しく朝?昼ご飯を頂いたけど・・・ご飯の支度ありがとうね。
で、家らしくて安心だけど・・・ちゃんと聞いておかないとだよね?
「・・・ごちそう様でした・・・あ、あのね?この石のおうちはどうしたの?・・・昨日の転生?だっけ・・・そうだし、日本に住んでた頃もだけど・・・零って不思議な事が・・・多いもん・・・もう、2人っきりなんだし・・・ちゃんと知っておかないとね?・・ダメだと思うの・・・その・・・ふ、ふ、ふ、夫婦!・・・なん・・だし・・・・きゅぅん」
言っちゃった・・・夫婦って、言っちゃった・・・でもでも!2人きりなんだからイイよね?あー恥ずかしいですぅ。
表現力の無さに打ちひしがれてます・・・