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代盗屋  作者: 柿種みずき
第1章 代盗屋:コローレ
2/2

訪ねた依頼人


大きな音と一緒に、舞う埃と「いってー……」という少年の声。

少年は床から体を起こす。


「ごほっ、ごほっ」


顔を上げ、左には先ほどまで自分が寝ていた茶色のソファ。

体を起こそうとし、右側にある机に片手を乗せようとするが、資料がたくさんあり、片手を置くスペースすらない。少年は小さく息を吐き、左側のソファに片手を乗せ、立ち上がる。


グッと体を伸ばし、部屋を見渡した。


「あーらら……」


両側は全て本棚で埋まり、本棚の中も本、下には何枚も束ねられた紙が重なって置かれていた。

机も資料が散らばっていて、食事なんてできる状態ではない。


「これじゃ、来た客も帰っちまうな……」


少年はそう呟き、後ろの頭を掻く。

「しょーがねー」と言って、奥の窓を開け、掃除を始めた。







机の上を片し、せめて客を迎えることができるくらいには綺麗にした。


「こんなもんか。つっても、他の資料は、捨てるわけにはいかねーし……。けど、保管できるところもないんだよなあ」


頬を少し掻きながら、ソファに座ると、ノックが二回。

その音に首を傾げる。


「……幻聴か?」


そんなことを呟くと、もう一度ノックが二回。

幻聴ではなさそうだ。


少年は「はーいはーい」と言いながら、扉を開ける。

そこには、緑色のフードを深くかぶった、自分よりも20センチほど低い人が立っていた。


「えーと、どんなご用で?」


「……ここは、代盗屋ですか?」


高く優しい声は、明らかに女の声だった。

少女の言葉に、少年は口角を上げる。


「中へどうぞ、お嬢さん」


少年はそう言って、少女を部屋へと入れた。




「悪いね、汚いところで。ソファにどうぞ」


「……はい」


少女は手前のソファに座り、少年はテーブルを挟んで奥のソファに腰を下ろした。


「コーヒー切らしてるんだ。すまんね」


「いえ……。何か、お調べ物を?」


「んーまあね。仕事柄、知識はあった方がいいからさ」


「……はあ」


「ところで、そのフードはずっと外さないつもりかい?」


少年の言葉に、少女の方が跳ね上がる。

そして、少女はフードでさらに顔を覆った。


「……依頼は、なんでも受けるわけじゃない。俺が決める。内容でも決めるし、依頼人の態度でも決める。顔を見せない依頼人の頼みごとは、聞くわけにはいかないな」


唯一見える少女の口は、ぎゅっと紡がれていて。

「わか、り、ました……」と、か細い声をだした。

そして、ゆっくりとフードを外す。


フードから現れたのは、一つに纏められた金髪の髪、整った顔、そして鋭い耳。


「……お嬢さん、エルフだったのか」


「……はい。目立ち、ますので……」


今、エルフといえば、迫害の対象だ。

長く鋭い耳、強力な魔法、長寿であること、それ以外はほぼ人類と同じだ。だからこそ、人類は自分たちと少しだけ違う種族であるエルフを、除け者にし、嫌う。

今では影で、丈夫で長寿なエルフは、富豪の奴隷として扱われている。


「安心しな、あんたを売ろうなんて思ってないから。それに、俺も同じ化け物だしね」


「え……」


「俺は、ぎん。お嬢さんは?」


「……ハク、です」


「ハクさん、か。じゃあ、依頼を聞こうかな」


そうニッと笑う銀に、ハクは先ほどまで強張っていた表情が少しだけ緩まった。

そして、ゆっくりと話し始めた。



「……一週間前、私の家に人類が襲いに来ました。そいつは、金目のものが目当てで、私の父の形見である腕時計を持って行きました」


ハクは、下を向きながら言葉を続ける。


「私の魔法は効かず、抵抗も虚しく……持って行かれました」


「アビリタ持ちか」


「ええ、防御系でした」


「そりゃまた、相性が悪いな」


肩をすくめる銀に、ハクは視線を逸らし呟く。「何も……できませんでした」

膝の上で、ぎゅっと強く握られる拳。


「……翌日、街を歩いていたら、その腕時計が骨董屋で売られていたんです。店主に、何度も頭を下げました。私のだから返して欲しい、と。けれど……」


「……ま、ダメだろうな」


「欲しいなら金を払えと。お金は……とても、払える金額ではありませんでした」


震えている声、目にはうっすらと涙が溜まっていた。

ハクは立ち上がり、銀の目をまっすぐと見つめる。


「噂であなたのことを聞き、必死に調べて、ここに来たんです! お願いします! 父の腕時計を……っ、骨董屋から、盗んでください……っ!」


そう言って、ハクは体を九十度に曲げた。

頭を下げるハクを見て、銀はゆっくりと息を吐き、体をソファへと預ける。


「断る」


「どうして……っ!」


「あんたが働いて稼げばいいだろ? こんな社会でも、エルフを優しく雇ってくれるところならあるはずだ」


「でも……っ、もしも他の人に渡ったら……っ。一刻も早く、取り戻したいんです……!」


「……」


「……私が、エルフ……だから、ですか……?」


「違う。……あんたが、本当に欲しいと思っているように見えないからだ」


「なんで……!」


「話は終わりだ。悪いけど、帰ってくれ」


そう言って銀は立ち上がり、ドアを開ける。

ハクはぎゅっと唇を噛み締め、「……話を聞いていただき、ありがとうございました」とか細い声で言い、扉をくぐる。そんなハクの背中を見て、銀はため息をひとつこぼした。







ハクが部屋を出て行って、数分後。

ドアのノックが二回聞こえた。


「どーぞ」


銀はソファに座って本を読みながら声をかけると、扉が勢い良く開いた。


「やー! やー!」


扉を開けたのは、紫色のマントを羽織り、グレーのワカメ頭をした男。

見知った顔だった。


くろかよ……」


「んー? なんか元気ないねー? 何かあったのかい?」


「別に」


「それより銀、そろそろ家賃払ってよ〜」


「払いたくても金がない」


「なんで? 依頼こないの?」


「情報だしてないしな」


「ふうん」と言いながら、黒は銀の向かい側にあるソファに座る。

そして、ニッと笑う黒に、銀はため息を一つ。


「こらこら銀く〜ん、嘘はいけないな〜。さっきここに、来たんだろう? お客さん」


「……ほんとお前の能力はたちが悪い」


「やだなあ。僕はこれで有名占い師になってるんだよ?」


「……触ったものの記憶や情報がわかるんだから、当たり前だろ」


「それで? 銀くんはさっきまでいたエルフの依頼を受けのかい?」


「断った」


「えー? エルフの本読んでるのにー?」


「……嫌な奴だな、お前」


「お褒めにあずかり光栄だ」



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