カラオケボックス
「初めましてー」
「初めまして!久しぶり、莉奈ちゃん!」
「げ、元気いいですね、巧さん」
待ち合わせの後、近くのカラオケボックスに入った一行は、向かい合わせに席についた。
「よし!じゃあ、自己紹介いこう!誰から行く?誰から行く?」
「落ち着けって巧。今日のお前、なんか気持ち悪いぞ」
巧とは対照的な響人は実に冷静だった。
「じゃあ、そんなこと言うお前からいこうか!」
「え、僕から?」
「そう。響人君、君から行きなさい」
「んー、蔵下響人っていいます。高三です」
「足りない足りない!趣味とかは?」
「んー、人助け?」
その返答に女子二人がクスリと笑う。
「それ、趣味っていうのかよ。まあいいや!じゃあ、次は俺!えー、山田巧、ピッチピチの高校三年生です!趣味は高校生活を満喫すること!特技はバク転!好きな食べ物はいちご!そして好きなタイプは莉奈ちゃんみたいな人です!!」
沈黙。
しばらく続く沈黙。
誰も反応しようとはしない。そして、そんな沈黙を作り出した巧は、目を丸くしていた。
「じゃ、じゃあ、次は莉奈ちゃん?いこうか」
そんな状況を察し、響人が莉奈に話を振った。
「あ、はい。えーと松山莉奈です。高一です。趣味はーカラオケかな。宜しくお願いします」
莉奈の自己紹介が終わっても、巧はまだ静止画を続けたままだった。
「うん、ありがとう。じゃあ最後に―――――」
響人は瑞葉に視線を移す。
「あ、はい。私ですね」
「うん、お願いしてもいいかな?名前だけとかでもいいからさ」
「あ、はい。私は瀧崎瑞葉って言います。趣味は―――――」
「えっ?」
不意に響人が声を出して、それを遮る。わずかに驚きの表情を見せたがそれをすぐに隠すように平静を装った。
「え、いや、あの、何か変でしたか?」
「あ、あぁ。いや、なんでもない、大丈夫だよ」
「よかったです。じゃあ、改めて。私は―――――」
――そうか。この子が……こんな偶然もあるもんだな。
瑞葉の自己紹介を聞きながら、響人は感慨深く記憶を辿っていた。
「―――――です。宜しくお願いします」
「わー、よしよし!これでみんなの自己紹介は終わりだね!じゃあ早速俺の美声を―――――ん?」
突如、何事もなかったように巧は静止画から動画に戻った。事故をなかったことにでもしたいと言わんばかりに。
しかし、三人の視線が巧に集まり、それを良しとしなかった。三人ともども、先程の巧のように目を丸めてる。
「どうしたのーみんな!テンション低いぞー!よし、じゃあ一発目はみんなの気分が上がる曲をチョイスしようかなー」
もう三人ともが見なかったことにした。色々なことを。