心の奥底
が。
不意に、動く。
誰もが結末を迎えたことを、事態が収束したことを感じ、安堵していた時だった。
それに反応できるものはいなかった。
全員の予想を超えていたのだろう。
油断していた。ここにいる誰もが。そしてなおかつ、誰も理解できていなかったのだ。
彼の闇を。
そう、不意に、響人が動いたのだ。
響人は須藤に向かい、駆けた。途中、視線を落とすこともなく、床に散らばった須藤の金属の残骸を拾い上げる。
響人はその残骸を握り締め、突進した。
そこで漸く、皆がその変化に気づけたのだ。
「なっ…!」
「響人さん!!」
言葉に反応することもない。須藤は未だにその状況に気づきもしない。
響人は粉うことなく、躊躇うことなく、その憎しみの刃を須藤へと突き立てた。
「がっ…」
背を刺された須藤から、血が溢れ出す。
「はぁはぁはぁ……」
息を切らしながらも、響人はその破片に更に力を籠める。
鈴沢、仙波は傍観を決め込んでいるのか、動く気配すらない。遅れること数秒、瀧崎と新堂が止めに入った。
「何してるんですか!?響人さん」
「やめるんだ、響人君!!」
二人の制止に響人は抵抗することもなく、須藤はその場に倒れた。
「なんで…」
響人の両手は血で真っ赤に濡れている。
「響人君、こんなことをして何になる。こんなことを彼女が望むと思うか?君の知ってる彼女は、こうしてほしいと思っているのか?それに、須藤はこれから正式に裁かれる。こんなことをしなくても後悔させられるほどの罰が待っているんだ」
「なにが、だよ…」
誰にも聞こえないほどか細く小さい声で響人は呟く。
「復讐なんて、何も生まない。こんなことをしたって彼女は帰ってはこないんだ。君もそれはわかっているだろう?」
諭すように、瀧崎は言葉を並べ立てた。しかし、響人は言葉を返すこともなく、瀧崎の目を見ることもなく、瀧崎の胸倉に血に濡れた手で、掴みかかった。
「あんたに何がわかるんだ…」
「なん、だと…?」
響人は眉を顰める瀧崎をはっきりと見据えた。
「何も失ってないあんたに、何がわかるっていうんだ!!!!!」
「なっ…」
「復讐が何も生まないなんて、わかってる!キョウコがこんなこと望まないなんて、わかってる!!あんたなんかに言われなくても、僕はそんなこと全てわかってんだよ!!!!」
「ひ、響人さん…」
新堂は、響人に強いと言ったあの時を酷く後悔した。
「でも、それでも、僕はこうしないと、ダメなんだ、ダメだったんだ。もう狂ってしまいそうなんだよ…」
ぼろぼろと涙を零す響人はうなだれるように顔を伏せた。
「こんな力いらなかったんだよぉ…キョウコがいればそれでよかったんだ…僕だって、僕だって…僕だって、助ける側なんかじゃなく、あんたたちみたいに助けられる側が良かった…」
瀧崎にはもう、掛ける言葉を見つけることもできなかった。
「なんでだよ…なんで…」
響人はその言葉を最後に、気を失った。




