響人の力
響人が短く挑発をすると、須藤は挑発に乗ったわけではないが、駆けだした。そしてその勢いのまま、右腕を振り上げ、響人に向けて振り下ろす。
が、それを響人は軽々と避けた。剣は地面を軽く抉っただけに留まった。しかし、須藤の猛攻は終わらない。
すぐに剣を振り払い、響人を狙うが、響人はそれを片足で踏みつけるだけで制した。
須藤の表情が変わる。
「なっ…!」
その隙を見逃さず、響人は須藤の顔面に拳を突き立てる。綺麗に頬を捉え、須藤は後ろへ倒れた。
しかし、須藤の頬は金属で覆われていて、無傷だった。
「どうした?こんなもんじゃないはずだろ?」
「クックック…これは面白い。少し甘く見すぎていたようだ」
須藤は立ち上がり、構え、駆けだした。その表情からは余裕の二文字はいまだに消えてはいない。
須藤は何度も斬り掛かり、しかし響人はそれを避けていった。須藤の動きが徐々に早くなり、響人がそれに対応できなくなったところで、剣が右腕を掠めた。
響人はその危機から、大きく後ろへ跳ぶことで、脱した。
響人は着地するとともに、駆け出し、須藤の許へ飛び込んだ。その速さは常人を凌ぐほどの速さだったのだ。
響人は勢いのまま、須藤に殴り掛かる。須藤もまた、それに対応し盾を構えるが、響人はそれを意に介さず、盾ごと殴り飛ばした。
須藤は立ったまま、有り得ないほど後方へと飛ばされた。
「痛い、な。だけど、あいつの痛みに比べたらあああああ!!」
響人は追いかけるように前方に跳び、その勢い任せに殴りかかる。須藤はそれを簡単に盾で受け止めるが、それでも響人は両の拳で畳み掛けた。
響人が須藤を圧倒していくが、須藤は全身どこを殴られたとしても、そこは必ず金属で覆われ、須藤に直接被弾させるまでには至らない。
無傷のままの須藤に比べ、響人の拳から出血が激しくても、手から骨がむき出しになっても、それでもその手を止めることはなかった。
「うぜえ」
その一言で須藤はその盾を振り払い、響人を吹き飛ばした。響人は受け身を取れず、瑞葉たちの許へ転がっていった。
「ぐっ…」
響人はゆっくりと立ち上がり、やはり、須藤を見据えた。
「響人君、君は一体…」
「ゆーくん、すごい…」
瑞葉と瀧崎はただただ、呆気にとられるしかできなかった。
「僕も、僕もそう思っていたんです。人を癒すことのできる力だと思っていたんです。でも、違った。僕の力は肉体への干渉だった。それに気づけたのは、奇しくもキョウコが死んだ、あの日でした」
「そうだったのか…だから、自分自身を限界まで引き出せるということか」
「そういうことです。だから、僕は大丈夫です」
響人は笑顔を見せたが、力無く笑っていることに変わりはない。
――まだ、まだ、足りない…!
「ハァァァアアアアアア!!」
叫びを上げた響人の両手はすぐに元の姿を取り戻した。
「叫んだくらいで強くなれるなら、誰も苦労しないぞ?」
皮肉を言う須藤の表情は依然変わりない。
響人は駆けた。先ほどよりも更に速く。
須藤の反応速度さえを越え、迫る。しかし、寸前でなんとか盾を構えた。
響人は勢いのまま、更に体を回転させ、力を乗せた。そして、その拳は須藤の盾をも貫き、須藤に一撃を加えた。
須藤の体はくの字に曲がり、そのまま後方へ吹き飛ばされた。須藤の表情に初めて、余裕以外の、苦痛の表情が浮かんだ。
「まだだ。あいつの苦しみはこんなもんじゃなかった」
須藤はその痛みよりも、耐え難い怒りに本性を曝け出した。
「くそがっ!!調子に乗るのもいい加減しろっ!!このクソガキがっっ!!」
言葉を吐き捨てた須藤の両腕が姿を変えていく。そして、それは銃身へと変貌していったのだった。
「クソガキが!!殺してやる、てめえだけは絶対に殺してやる!!!」
両の銃口が響人へ向けられ、いくつもの銃弾が放たれた。
響人はそれを避けながら、ゆっくりと確かに、須藤の許へ歩を進めた。銃弾が止まって見えているのか、そう思わせるほどの鮮やかに響人は避けていた。
「クソが!クソが!!クソがっっ!!」
怒り任せに銃弾を放ち続ける須藤だが、それは無駄な足掻きでしかなかった。響人はゆっくりと迫り、お互いの間合いまで辿り着いた。
響人は跳んだ。須藤は視界から響人を失い、しかし、すぐに視界の上にいる響人を銃口と共に捉えた。
眼前に迫る響人の方が刹那早く、須藤が銃弾を放つより先に、響人は落下する勢いに任せ、踏みつけるように蹴りを入れた。
「がはっ…!!」
須藤は痛みと衝撃を受けた。腹部を覆っていたはずの金属も意味をなさず、痛恨と言えるほどの痛みだった。
須藤は血反吐を言葉とともに吐き捨てる。
「このくそがああああああ!!」
「諦めるのはお前の方だ。お前に勝ち目はない」
響人は背を向け、瑞葉たちの許へ歩を向ける。
「ゆーくん、こんなに強かったの?」
「響人君にこんな力があったとは…」
圧倒され、ただの傍観者となった二人は、それを眺めることしかしていなかった。
「今、助けます」
響人は二人の許に着くと、まず瑞葉の鎖を外した。
「なめんじゃねええええええええええ!!!」
立ち上がった須藤は、咆哮を見せ、響人はそれに振り返った。
「クックック…もういい。遊びは終わりだ。てめえのようなクソガキにこれを使いたくはなかったが、仕方ない。クックック…」




