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救出作戦

「それからの彼は、ずっと死に場所を探しているように見えたよ…」

 瀧崎がそう()(くく)ると、二人の反応はまるで対照的な反応を示していた。

 瑞葉は神妙(しんみょう)な面持ちで、思案し続けるのに対し、新堂は開いた口が(ふさ)がらないといった様子で驚き、本当に口を開けていた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あの、あの…課長」

「どうした?美那」

 尋ねられ、新堂は狼狽(うろた)える。自分から切り出したはずなのだが。

「ああ、えっと、その、い、い、いえ。何を聞いたらいいか…」

「なんでも聞いてくれ。もう隠すことはない」

「鈴沢先輩は全てを知っていたんですか?」

「あぁ、もちろんだ」

――私に何も言わなかった…知ってるなら教えてくれてもいいのに。

 尊敬(そんけい)しない先輩の隠し事に新堂は(わず)かに()ねた。

「あ、あと!」

「なんだ?」

「その、瀧崎課長。どうして、先輩が集めた証拠を須藤さんに突き付けなかったんですか?それをしていれば、もしかしたら、もう須藤さんは…」

 その後の言葉を、新堂は()けた。

「それでもよかったが、まだ、その時じゃなかった。謙也が必死に集めてくれた唯一(ゆいいつ)の証拠を須藤に握りつぶさせるわけには行かなかったんだ。だからこそ、時を待った」

「でも、出しておいた方が良かったかもしれませんよ、課長」

 いつの間にか、そこに立っていたのは鈴沢だった。

「先輩?!いるならいるって言ってくださいよ!」

「いやいや、大事な話を遮るのは悪いなって。これでも気遣(きづか)ったんだぞ?」

「らしくないことしないでください」

 後輩に冷たくあしらわれても、鈴沢は全く意に介さない。

「で、どうした謙也?」

「あー実は報告ついでに(あぶら)()ってるこいつを連れ戻しに」

 鈴沢は新堂の頭に手を乗せる。が、すぐに新堂がその手を振り払った。

「やめてください。油なんて売ってませんよ。大事な話聞いてたんです」

「で、なんですけど課長」

「あぁ、報告だな」

「ええ。新堂から聞いているかと思いますが、観覧者での件です。監視(かんし)カメラの映像の解析(かいせき)が終わりまして、二人の人影の正体が判明(はんめい)しました。一人は須藤、もう一人は須藤の腹心の部下の発現者でした。そして、事故の原因もその部下の能力によるものかと思われます」

 今更(いまさら)、驚くことでもないでしょうが、と鈴沢は付け加えた。

「やはり、というか、わかっていたことだな」

 瀧崎も鈴沢に共感し、納得の表情を浮かべる。

「それじゃあ、こいつもらっていきますね」

 鈴沢は新堂の頭に、()りずに手を乗せた。しかし、今度は新堂の振り払う手が来る前に離し、新堂の抵抗(ていこう)(くう)を切った。

「もう、やめてくださいそれ。嫌いです、それ」

 言葉を返すこともなく、鈴沢は出口へと向かう。

「お前の仕事、溜まってるから、早く帰らないと今日中に帰れなくなるぞー」

 背を向けたまま、そう言い残し鈴沢は出て行った。

「えっ?!それは嫌です!先輩手伝ってくださいよー」

 新堂は鈴沢の言葉を聞き、慌ててその後を追いかけた。その間も、ずっと表情の変わらない瑞葉は何かを思案し続けている。

「瑞葉…?」

 父の言葉を聞いてか聞かずか、瑞葉は立ち上がった。勢い余って、座っていた椅子が転倒するが、瑞葉はまるで気に留めなかった。

「どうした、瑞葉?」

「私、思うの。知らないことは罪だってことに。ううん、今そう感じた。泣いてばかりいて、誰かの助けをただ待ってるだけで何もしようとしなかった。悲しみに暮れることが正しいと思わなかったけど、ゆーくんは失っても、それでも、戦ってる」

 間を置いて、瑞葉は続ける。

「私決めた…ゆーくんを助ける。ううん、私が助けなきゃ…」

「ダメだ」

 瀧崎は娘の決意を一蹴(いっしゅう)した。

「お父さんが何を言っても、私はやめないよ」

 瑞葉の決意はそれでも固く、()らぐことはなかった。

「瑞葉…お前…」

「私ね、お父さんがダメっていうのもわかってたけど、今の私があるのも、お父さんが救われたのも、全部ゆーくんのおかげだよ。それなのに、何も知らない顔して、普通の生活に戻れっていうの?私にはそんなことできない、考えられないよそんなの」

 瀧崎がその決意を止めることは、もうしなかった。

「どうしても、瑞葉だけは巻き込みたくなかったが、そこまで言うなら覚悟(かくご)はできているんだろうな?」

「覚悟も何も、私は一人でもやるよ」

 その表情に、瀧崎は瑞葉の成長を感じ、しかし、大人になっていくことで自分の手を離れていくんだな、という感傷(かんしょう)をどこかで感じていた。

「で、どうすればいいの?」

「そうだな。今、響人君は無名機関の本部の地下五階にある研究部門の施設(しせつ)幽閉(ゆうへい)されているだろう。そこは研究部門の施設だから、警備は手薄(てうす)だ。響人君の能力に危険性はないから、そこにいるのだが、それでも前回俺が逃がしたせいで警備は厳重になっている可能性が高い。協力者は誰もいない。あそこからはできるだけ人のいない通路(つうろ)を選択していくしかない。それだけだ」

「それで本当に大丈夫なの?」

「それはわからないが、あまり時間に猶予(ゆうよ)はない。響人君の(あつか)いが決まってしまえば、別の場所に移されるだろう。それがどこに移されたとしても、俺の知る限り脱出するのは非常(ひじょう)困難(こんなん)になる」

「そっか…もう正面(しょうめん)突破(とっぱ)でやるしかないんだね」

「そういうことになるな。だが、前回も使ったルートであれば、何とかできると思っている」



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