瀧崎瑞葉
「ねぇねぇ瑞葉、これからって帰るだけ?」
「え、うん。特に用事もないし、今日は帰ろうかなって思ってたよ」
学校からの帰り道、その言葉を聞いて、悪友の莉奈は嬉しそうに笑みをこぼした。
「よし!決まり!瑞葉、カラオカ行こっ!」
「え?えぇ?私、今金欠だよお…」
「そーなの?でも大丈夫!お金払うの私たちじゃないし」
「え、なんかいやな予感がする…」
「大丈夫、大丈夫!ちょっと先輩が二人ほどいるだけだからさ」
「えーまさか、男の先輩?」
「もっちろーん。実はね、この前学校でナンパされちゃって。えへへ」
「え、えー!莉奈また?」
「またって、私が悪いわけじゃないしー。ね、いこ?イケメンだったからその先輩とのチャンスを潰したくないのよー」
「んー…」
「ほら、瑞葉はただただ歌ってればそれでいいからさ」
「莉奈、私が歌下手なの知ってるでしょ?」
「うっ、いや、瑞葉が音痴なの忘れてた…」
「だからやっぱり――――」
「待って、お願い!一生のお願い!!瑞葉はほんとついてくるだけでいいから」
「まったく…何回一生のお願いを聞けば済むんだか」
「うううー。お願い瑞葉―」
「わかったわよ。だけどちょっとだけね?お母さんに連絡しとかなきゃ」
「うんうん!それでいい、ちょっとでいい、来てくれるだけでいい!」
「莉奈…必死すぎ」
「そんなことないよぉ」
「お父さんには…黙っておこう。うん、それがいい」
「瑞葉のお父さん、瑞葉にぞっこんだもんねー」
「え、そうかな?普通だと思うけど」
「全然普通じゃないって。うちなんかお父さんと話すこともないよ」
「え、うそ。私、普通にお父さん大好きだけどなあ…」
「瑞葉は反抗期ってなかったんだね、お父さんきっと喜んでるよ」
「そうなのかなあ。それが当たり前だからなあ」
「まあそれは置いといて。待たせちゃ悪いし、早くいくよ!」
先を行く女子高生、莉奈は長い茶髪を揺らせながら、見えてしまいそうなほどのミニスカートだった。
それを追う女子高生、瀧崎瑞葉は肩にかかる程度の髪に大きな目、しかし、それを目立たせることのない整った顔立ちだった。規定通りに着用する制服と、その容姿が彼女をお嬢様たらしめているのだろう。決して、家が裕福というわけではないのだが。
高校二年になったばかりでナンパされたという莉奈に瑞葉は飽き飽きしながら、しかしいつものことのようにその後をついていくのだった。