過去、シアワセの形
半年後。
「ゆうくん、また見つけてきちゃった」
「…ん?」
キョウコが帰宅直後にそう切り出した。新しい生活を始めてから、その目的、人を救うということもこなし続けていた。
特に決め事があったわけではないが、キョウコはどうしても彼を手伝いたいと言ってきかなかったので、今のような状態になった。キョウコは一度こうと決めたら絶対に曲げない頑固なところがあったのを勇人もよく理解はしていた。
救うべき対象を探してはそれを勇人の許へ持ち込み、その後二人でその場へ赴くというものだった。勇人の力を誰よりも理解しているキョウコは、その対象に素性を明かさないことを徹底していた。
勇人もキョウコも生活のためにバイトをしていたが、その目的のためにはやはり掛け持ちはおろか、週に働く期間も制限していて、貧乏生活は相変わらずだった。
それでも、二人は文句を言うことなく、喧嘩をすることも一度もなかった。
「なんか、最近ペース早いな」
「なんていうか、ほっとけなくて、ね」
「まあ、その気持ちは僕も同じだよ」
「うん……」
「どうした、キョウコ?」
「ゆうくん、嫌じゃない…?」
キョウコの表情がすぐれない。
「何が、だ?」
「この生活…」
キョウコはやはりまだ含みがあるような言い方をした。
「言いたいことあるならはっきり言ってくれていいよ?」
「わ、私はね、ゆうくんがどう思っているか知りたい…」
「らしくないよ?」
「だ、だって!全然お金ないし、私たち今って遊びたい年頃じゃん…そもそもこうやっていろんな人を救おうって言い出したの、私―――――」
「それは違う」
勇人がはっきりとキョウコの言葉を否定した。
「キョウコ、これは二人で決めたんだ。いっぱい二人で考えて、いっぱい二人で話し合って、それで決めたんだから、どっちが言い出したとか関係ない」
「で、でも!」
キョウコはうずくまり、顔を隠した。
「私怖いの、ゆうくんがいなくなっちゃうのが、急に怖くなったの。私にはできること少ないし、やっぱり誰かを救うのはゆうくんだし、そのゆうくんが誰かを助けるのやめるって言い出したら私までいらなくなっちゃうとか思うと…」
勇人はただただ、キョウコの言葉に耳を傾けていた。
「だからね、ゆうくんがもし普通がいいとか前の生活に戻りたいとか、そう思ってるなら無理しないでね…私のせいでゆうくんが我慢するなんて耐えられないよ」
勇人はキョウコを抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だよ、キョウコ」
「でも、でも…不安でたまらないの…私、ゆうくんいなくなったらどうにかなっちゃいそうで…」
「僕はいなくなったりしない。嫌になったりもしない。キョウコがいる限り、僕はずっとそばにいる。キョウコの望みは僕の望みなんだ。だから、もうそんなこと言うな」
「ゆうくん、ゆうくんんん…」
顔を上げたキョウコは子供のように泣きじゃくっている。勇人はその涙を拭い、唇を重ねた。
唇を離すと、キョウコの涙は止まっていた。勇人はおもむろに棚から何かを取り出した。
「ゆうくん?」
「これ」
勇人は差し出したケースをゆっくりと開いた。そこには、指輪が二つ並んでいた。
「これ、どうしたの…?」
「キョウコ、言ってたろ?結婚指輪ほしいって。渡すタイミングなくてさ」
勇人は少し照れ臭そうにそっぽを向いて、頭を掻きむしる。
「嘘…でも、そんなお金…」
「期待しないでくれよ。すごい安物だけど、ちゃんとした店で買ったんだ。でも小遣い貯めて何とかって感じだったけどね」
せっかく泣き止んだキョウコだったが、今度は嬉しくて泣き出してしまった。小遣いとはいっても、本当にささやかで、それを丸々貯金しなければ買えない、ということにすぐに気づいたからだろう。
「ゆうくんのばかあ!こんな時にそんなもの出すのずるいよお」
「へへ。左手貸して」
おもむろに勇人がキョウコの左手を取り、片方の指輪を嵌めた。
「まだ結婚できないけど、でも形だけでもな?」
「ゆうくん、大好き…」
「ああ、愛してるよ」
二人はもう一度、唇を重ねた。
―――――――――――――――
ふと目を覚ますと、そこは見覚えのある光景だった。
「なんでこんな夢…」
一面のみがガラス張りになっていて、残りは白い無機質に囲まれた部屋。全体的に簡素な造りをしていて、部屋内にも、ベッド、洗面台、そして机と椅子という最低限で殺風景な部屋だった。
客人を迎え入れる、といった雰囲気ではないことは確かだ。
そのベッドで寝ていた響人は起き上がり、二年前にも見た光景に目をやるが、その時から変わり映えしない部屋の作りに嫌気がさしたのか、今の状況を把握したのか、再びベッドに体を預けた。
「キョウコ…ごめんな。キョウコ…」
そう呟いて、目を閉じた。その目からは一筋の涙が零れた。




