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過去、決意の冬

 中学三年の冬。

学校では各々(おのおの)が進路(しんろ)を決め、卒業を(ひか)えていた。二人といえば、相変わらずで、しかし、順調にお互いの気持ちを育んでいた。

そんな時、キョウコが勇人に切り出した話は進路についてだったが、突拍子(とっぴょうし)もないものだった。

高校へは進学しない。

それがキョウコの答えだった。もちろん、勇人には反対された。しかし、キョウコが出した答えの理由を聞いた勇人がもう反対することはなかった。

そんな二人が意思を固め、キョウコの実家を見上げていた。

「大丈夫?ゆうくん」

「大丈夫だよ、キョウコ。僕は決めたんだ」

 確かな決意を胸に、二人は家へと入っていった。(まね)かれざる客、といった面持(おもも)ちで両親に出迎えられ、勇人はそれに(おび)えながらも腰を下ろした。

「で、話というのは?」

 切り出したのはキョウコの父親だった。

「僕は、進学はしないつもりです。そして、キョウコと一緒に暮らしたい。それを了承(りょうしょう)していただきたく、今日は来ました」

「ふむ。何故だ?何故、今キョウコと一緒に暮らす必要がある?」

 威圧的(いあつてき)なキョウコの父に勇人は折れそうな心を、それでも(ふる)い立たせた。

「それは、まずこれを証明しなければなりません」

「?? なんだ?」

「お父さん、以前から持病(じびょう)をお持ちでしたよね?糖尿病(とうにょうびょう)心臓病(しんぞうびょう)を」

「あぁ、しかしそれが何の関係がある」

「手を、貸していただけませんか?」

 話が見えないまま、その手を差し出した。それを勇人が受け取ると、静かに目を閉じる。数秒後、ゆっくりと目を開けた。

「これでもう大丈夫です」

 はっきりと言い切る勇人にキョウコの父はまるで話を理解できなかった。

「今度、病院で検査(けんさ)してみてください。きっと持病は完治していて、健康体そのものですよ」

「何を言っている?」

「確認していただかないことには何の証明にもなりませんが、僕は人の(やまい)を治す不思議な力を持っているようなんです」

「その話を信じるか信じないか置いておこう。それがなぜキョウコとの同棲(どうせい)につながるのだ?」

「僕はこの力を使って、いろんな人を助けたい。僕には不治(ふじ)の病さえも治してしまえるその力がある。そのためにも今の場所を離れなくてはならないことにもなりかねない。ですが、一人でそれはできるとは思えないんです。キョウコと一緒じゃないなんて、考えられないんです。そして、いずれは結婚しようと思っています」

「私も、ゆうくんと離れられるとは思えない」

 キョウコの父は本来であれば、怒鳴(どな)()らしてやりたいところだったが、二人の断固(だんこ)たる決意に少し気圧(けお)されていた。

「しかし、まだ子供のお前たちが生活していけるとは思えないが?」

「それは…」

 勇人は口籠(くちごも)るが、キョウコがすかさずその援護した。

「わかってる。人より辛い生き方を選んでるのはわかってるし、二人でいっぱい話し合った。これから先、乗り越えなきゃいけないことが山ほどあるだろうけど、それでも私はゆうくんから離れない、離れたくない」

 その言葉を聞いて、ずっと(だま)っていたキョウコの母がとうとう口を開いた。

「貴方たちの考えてるほど世間は簡単じゃないのよ!生活するってことがどれだけ大変か、私たちのおかげで何不自由なく暮らしていけていることをわかってるの、キョウコ!」

「お母さん。わかってる、わかってるつもりだよ。私は二人に感謝してるよ…」

「あんたは何もわかってないわよ!!だからそんなことを簡単に言えるのよ!!」

「そんなことない!私は、本当に感謝してるし、どんなに辛くても、ゆうくんと一緒ならちゃんと頑張れる!!」

「もう!そんなに言うなら好きにしなさい!!!私は知らないわ!!」

 キョウコの父の気持ちを代弁(だいべん)するかのように怒鳴り散らして、母は部屋を出ていってしまった。そのおかげか、キョウコの父は冷静になることができた。

「母さんの気持ちもわかってやってくれ。君らを苦しめたくて言っているわけではないんだ」

「もちろん、わかっています」

「社会というのは本当に辛い。それでも、君らの意志は変わらないんだな?」

「お父さん。私たちはそれでも決めたの」

「はい。キョウコさんは必ず僕が守ります」

 結局はキョウコの父が折れ、二人は何とか了承してもらえることとなった。

「母さんには私から言っておこう」

「ありがとうございます」


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