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過去、始まりの春

 中学二年に上がる頃には勇人はその自身の力を確信していた。

「ゆうとー、まだ帰らないのー?」

 勇人の名を呼ぶその子は長い髪の毛を垂らし、教室の扉から顔だけを覗かせている。

「待てって、キョウコ。今帰る準備してるだろ。せかすなよ」

 キョウコと呼ばれた子は実に楽しそうだ。キョウコはその容姿から学校でも人気者ではあった。

素早く準備を終わらせ、勇人はキョウコの(もと)へ駆け寄った。

「さ、帰ろうぜ」

 そうして、学校を後にした二人は、いつものようにくだらない話に花を咲かせていた。キョウコは勇人の幼馴染(おさななじみ)であり、勇人の周りで唯一(ゆいいつ)その力を知る存在で、良き理解者(りかいしゃ)でもあった。

「でさー、里美ったらその告白オッケーしちゃったんだってー。早すぎない?」

「そうか?早い奴は早いだろ」

「でもなんか羨ましくなっちゃった。彼氏とかいたら、それはそれで部活とか以外にも楽しみができるのかなあなんて」

 空を仰いだキョウコは楽しそうに話すが、勇人の表情は暗い。

「……………なよ」

「えっ?」

 あまりに小さいその声にキョウコは聞き直した。

「他の奴となんか付き合うなよ」

「…………へっ?」

 あまりに意外だったのか、キョウコは気の抜けた阿呆(あほう)な声を()らした。

「だから!他の奴となんか付き合うんじゃなくて、俺と付き合えって言ったの!」

 言いたいことを言いたいだけ言い、勇人は恥ずかしさのあまり走って逃げた。呆然(ぼうぜん)と立ち()くすキョウコはそれを(なが)めているだけだった。

「……………って、ええーーーーー!?!?」

 (ようや)く何を言われたのか理解はしたが、勇人は(すで)にキョウコの視界の奥にいた。

「ちょっと待ってよーーー!!」

 全速力で追いかけるキョウコは普段から部活で(きた)えた足のおかげで、帰宅部(きたくぶ)の勇人に軽々と追いついた。

「ちょっと待ってって!」

 キョウコは勇人の腕を(つか)む。

「やだ」

「ずるいよ!逃げるのなんて反則!!」

「だってさ…」

 勇人は()(くさ)そうに視線を合わせようとしない。

「今のって、今のって、あれだよね?」

「……あれってなんだよ」

「告白ってやつだよね?」

「……うん」

「私のこと好きってこと?」

「……そうじゃなきゃ言わないだろ」

「ふふふ」

 キョウコは嬉しそうに無邪気(むじゃき)に笑った。

「……な、なんだよ」

 キョウコは勇人から手を離すと、深く頭を下げた。

(よろ)しくお願いします」

「えっ?本当?」

 疑う勇人に顔を上げたキョウコは実に不機嫌そうだ。

「本当だよ。こんな時に(うそ)()いてどうするの」

「え、じゃあ…」

「今日からゆうとの彼女にならせていただきます」

「そ、そっか。宜しく」

 そっけない態度を取りはしたが、キョウコから見えないように後ろで隠した(こぶし)で小さくガッツポーズを作った。

「よし、じゃあ帰ろうー!」

 キョウコは手を握り、駆けだした。

「ちょ、待てよ。走る必要あるのかよ」

「なんとなくー!ところでいつから好きだったのー?」

「そんなこと恥ずかしくて言えるかー!」



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