表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

奇跡の結果


 二人とも緊張感から解放されたことでか、瑞葉は再び父のベッドの横に腰掛けると、すぐに父に覆いかぶさるように眠っていた。

 新堂も壁に背を預け、腕を組んでいるが、目は瞑っていて、睡眠をとっているようにも見える。

 そのまま、二人は朝を迎えた。朝の日差しに誰よりも早く起きたのは、瑞葉でも新堂でもなく、瀧崎の父だった。

 意識をぼやけさせながら、体を起こした。壁に(もた)れかかる新堂を見て、僅かな驚きを見せるが、事故の記憶もはっきりとしているためか、なんとなくの想像はついた。

「ふむ…」

 考えるように顎に手を当て、何かを思案する。そこで瑞葉の腫れぼったい両目に気づく。三日三晩泣き通した後遺症(こういしょう)だろうが、それでも愛らしい寝顔をしていた。

「瑞葉…」

 実に穏やかな表情で瀧崎は瑞葉の頭を撫でた。

「無事でよかった。瑞葉…」

 家族の中でも、自分自身より大切にしてきた娘の姿を見て、何より安堵(あんど)した。

新堂もゆっくりと目を開けると、起き上がっていた課長を目の前にして、感涙した。

「課長!!」

 すぐに駆け寄る新堂だったが、瀧崎は人差し指を口元に当てた。

「美那、しーっ、ほら」

 瀧崎は小声で新堂を(さと)し、その口元の指を下に向けた。

「あっ、申し訳ありません、課長」

「こんな時でも堅いんだな、お前」

 嬉しそうに瀧崎は言葉を紡いだ。

「あ、いえ。そんなことは…」

 からかっているわけではないのだが、たじろぐ新堂を見ている瀧崎は楽しそうだった。

「あ、課長」

「なんだ?」

「私、ちょっと報告してきます。またあとで戻ります」

「そうか。わかった」

 新堂は物音を立てぬよう、病室を後にした。気を使った新堂の甲斐(かい)(むな)しく、瑞葉が目を覚ました。

「ん、んー」

 瑞葉は起き上がると、体を伸ばし、そこで漸く目を開けた。涙で何度も願った奇跡が、そこにはあった。

「お父さん、お父さん!お父さん!!」

 何度も呼ぶ父に瑞葉は抱きついた。

「おぉ。瑞葉、大丈夫か?」

「お父さん、お父さん、お父さん…お父さんんんん」

「よしよし。瑞葉、心配かけてごめんな」

「よかった…私、お父さん死んじゃうんじゃないかって、もう目覚めないんじゃないかって、すごく怖くて…これ、夢じゃないよね…?」

「あぁ。確かに俺はここにいる」

 しばらく抱き合っていた親子だったが、瑞葉が満足したのか、瀧崎から離れた。

「私ね、お父さんにいっぱい聞きたいことあるの」

「ああ。それは俺も同じだ。だがその前に、腹減らないか?」

「うん。減った。いっぱいお腹減った。ここ何日もまともに食べてないから…」

「そうか。とりあえず、飯にしよう!」



 瀧崎の提案(ていあん)で、病院の食堂へと向かったのだが、その途中で医師に見つかり、そこからいろいろな検査が行われた。

 医師はその検査の結果を目の当たりにして、有り得ない、こんなこと、有り得ないと何度も呟いていたという。それもその筈だ。検査の結果は全て正常、まったくの健康体であると証明していたのだ。

 そうして、すべての検査を終えたのが昼頃で、瑞葉も父のことを待っていたため、結局飯にありつけたのは昼食だった。

「なんで俺だけ病院食なんだよ…健康体だぞ?」

「お父さん、文句言わないの」

「俺もお前の手料理が食べたいよ…」

「あら、いつもは美味しいとも言わないで黙って食べてるじゃない」

 皮肉で返したのは瑞葉の母、つまり瀧崎の妻だった。

 瀧崎が目覚めた後、すぐに母へ連絡がいき、しかし、すぐに駆けつけることはなく、瑞葉のお弁当まで作ってから、この病室を訪れていたのだった。まるで、こうなることをわかってたかのように。

「なあ、瑞葉。おかずひとつくれないか?」

「え、やだ」

「なー、頼むよー。病院食、全然味薄くて口に合わん」

「でも、お父さんまだ病人扱いだもん。それで我慢しなさい」

 まるで母のような口ぶりで瑞葉は瀧崎を一蹴した。それでも瀧崎はめげない。

「タコさんウインナー一つだけでいいから」

「だーめ」

「じゃ、じゃあ卵焼きでも」

「だめったらだめ」

 瀧崎は肩を落とし、それ以上は何も言わず、病院食の箸を進めた。

「あら、もうこんな時間じゃない」

 不意に母が時計に目をやった。

「私、午後からお茶会の予定があるからこれで帰るわね」

「えーお母さんもう帰るのー?」

「まあ、お父さんのことだもの。もう大丈夫でしょ」

「なんだ。あんまり心配してなかったのか?あんな状態だったってのに」

「心配っていうより、どこかで私は貴方が死ぬはずないって思ってたもの」

 長年連()()った相手だからこその(かん)なのだろうか。

「じゃあ、二人とも仲良くするのよ」

 母は荷物(にもつ)をまとめると、そそくさと病室を後にした。それとすれ違うように新堂が病室を訪れた。二人はすれ違いざまに軽く会釈(えしゃく)をしていた。

「おお、美那。何か土産でも買ってきてくれたか?それがこの病院食がよ―――」

 病院食がいかに人の口に合わないかを延々(えんえん)と力説(りきせつ)する瀧崎に安心したのと同時に新堂は(そん)をした気分でもあった。

「もう、そんなに元気なんですね…なんだか、心配する必要もなかったのかもしれませんね」

 新堂は呆れたように()(いき)()いた。

 結局、散々(さんざん)文句(もんく)を言い散らかした瀧崎だったが、その病院食をぺろりと完食した。それと(ほとん)ど同じくして、瑞葉も母の弁当を食べきった。

「ふう。ちょっと足りないが、まあいい」

「文句ばっかり、お父さん」

 (はし)をおいた瀧崎は、その表情を自ら切り替えた。

「で、だ。俺の寝てる間に何があった?自分が重傷(じゅうしょう)だってことはさっき医師から聞いたが」

「あ、はい。報告させていただきます」

「私もお父さんに聞きたいこと―――」

「瑞葉、後にしてくれ」

 瀧崎の先ほどまでの雰囲気はどこかへ消えていた。

「ですが、その前に…課長。瑞葉さんが同席していて構わないのですか?」

「あぁ、いい。話せ」

「わかりました。えーではまず、事故の件から。観覧車については整備(せいび)不良(ふりょう)とのことで、警察の方では事故として処理(しょり)されていましたが、不自然な点がいくつかありました。ですが、まだその点に関しては調査中(ちょうさちゅう)のため、完了(かんりょう)次第(しだい)報告(ほうこく)させていただきます」

「ちなみにどんな点だ?」

「えー、ほとんどが細かいことなので無関係の可能性は否定できませんが、一点はその当時の監視カメラの映像で、観覧者が落ちてくるのに逃げ(まど)う人々の中で終始(しゅうし)微動(びどう)だにしない人影が二つ確認できました。現在、映像は解析中(かいせきちゅう)になります。もう一点は、整備不良とされている箇所(かしょ)ですが、何か人為的(じんいてき)な傷のようなものがありました。それが落下の直接的な原因ではないかもしれませんが」

「…なるほど」

「はい。そして、昨日のことです。上層本部の方が掴んだ情報により、奇跡の囀り、皆沢勇人の行動を(とら)えることができたといわれました。それは課長の襲撃(しゅうげき)、襲撃と呼んでいいものかはわかりませんが、その可能性が浮上してきました」

 淡々と新堂は報告を続けるが、それを瀧崎が制した。

「その、情報元は?」

「情報元は不明ですが、リークされたと情報を持ち込んだのは須藤さんです」

「そうか。続けてくれ」

「はい、そして昨夜。警備を()いたのですが、どこからともなく彼は現れました。そして、彼は課長に力を(ほどこ)し、そのまま抵抗することなく捕獲(ほかく)いたしました」

「………それは確かに皆沢(みなさわ)勇人(ゆうと)だったのか?」

「課長の健康状態から見ても、本部の方での確認でも間違いなく、皆沢勇人その人でした」

 瀧崎はそれ以上何かを言うことはなく、その両手で顔を(おお)い、(うつむ)いた。

――何てことだ…

――一度ならず、二度までも彼に命を救われたというのか…

「課長…?」

「お父さん…?」

 二人の呼びかけにも応答しない。

――俺は、俺は、彼になんと謝ればいいのだろう……

 しばらく考え込むが、おもむろに顔を上げた。

「すまない。美那、他には何かあるか?」

「えー、今現在ですが、彼は本部の地下五階の研究部門の施設に保護しています。しかし、依然何かを話す様子はなく、部隊課に引き継ぎをいたしました」

「そうか。わかった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ