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私がこの世界をファンタジーにする! ~異世界宗教勧誘紀行~ 作者:真鳴 れいせ

第三章 私と精霊

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第五十四話 田舎に死者の賑わい

 クルトの手に引かれて館を出ると朝から村中の大人が動き出している。よく見るとこんなに寒いのに水汲みや洗濯をしている主婦の姿があり、桶からはほんのりと白い湯気が立っていてそれで察してしまった。クルト自身は真冬にお湯が使える環境を全く疑問に思っていないようで、立ち止まっては凝視する私を不思議そうな顔で見上げていた。

「クルトと歳の近い子はいないの?」
「みんな赤ちゃんばっかり! 外に出せないからダメだって」

 この村は若夫婦が一組もいないのに村の子供は一桁年齢ばかりなんてここでは結婚が遅くなる事情や風習でもあるのか。それとも単に子供に恵まれなかった家が多いだけか。デリケートな話題だし子供が詳しく知ってるはずもないので口を噤んでおいた。
 村の隅でクルトを相手に遊ぶのは簡単だった。私にはウーヴァ村での経験があるしクルトは他に遊ぶ相手がいなかったので初めて知る遊びも多い。何を教えても喜んでくれるから教え甲斐がある。日が高く昇る頃には私の体力を引き換えにして尊敬の眼差しを向けてくるクルトができあがっていた。

「はぁ……、クルト君。もう、ちょっと、休、もう……」
「えー? まだあそぶ!」

 子供の体力は一体どうなっているんだ。強化された私でも敵わない無尽蔵と言える体力に私は既に息も絶え絶えだ。更に走り出しそうなクルトを引きずりながら石に腰かけ、膝上に座らせるとようやくおとなしくなってくれた。

「フィノさんすごいね! お話も遊びもたくさん知ってる!」

 きらきらした瞳がとても眩しい。こんなに懐いてくれるのは嬉しいけど、今夜には石も手に入るのだしもうすぐ私はここを去る予定だ。別れの時に少なからず悲しませてしまうのが心苦しい。

「赤ちゃん達が大きくなったらクルト君が教えてあげるといいよ」
「うん!」

 その後はまだ遊び足りない彼に付き合いつつ、空腹を知らせる腹の音が鳴り出したのをきっかけに館へ戻る。そこにドリスさんが待ち構えていて私からクルトを引き剥がすように手を取って自分の方へ引き寄せた。そのあからさまな態度にクルトも感じるものがあるのか私と母親を困ったように交互に見ている。こうまでされると苦笑しか出ない。

「遊んでただけですから安心してください。クルト君とてもいい子でしたから」

 ね、とクルトに答えを促すと満面の笑みを浮かべて肯定してくれた。母親としては子供の前であまり冷たい態度を取るのは見せたくないのだろう、ドリスさんも改めて文句をつけるような事はしなかった。

「ありがとうございます助かりました。この後は昼寝の時間ですからもう大丈夫です」
「ええー! フィノさんともっと遊びたい!」
「駄目よ。お昼寝しておかないと夜に起きていられないでしょう」
「……はぁい。フィノさんまた夜にね!」

 ドリスさんに言い含められて落ち込んだと思えばすぐに顔を上げてパタパタと駆け出して行った。子供は本当に切り替えが早い。

「あの、夜って火石を迎える為の行事ですか? 余所者の私がいる訳にはいきませんよね」

 クルトは当然のように私がいるものと考えていたけど村の総意としてはどうなのか不明だ。まぁ、駄目と言われても気になるからこっそり見るつもりではあるんだけどね。ただ私の予想とは大きく外れて、ドリスさんが首を振って否定の意を返す。

「いえ、フィノさんにも是非参加してもらおうと思っていました」

 嫌々でもなく当然のように言われた事が逆に怪しく見える。

「行事ってどんなことをするんですか? 私も何かお手伝いすることってあります?」
「石を手に入れてきた人を労って迎える、ただの宴会のようなものですよ。お手伝いも十分人手が足りていますからお気遣いなく」

 探りを入れたらやんわりとした拒否。話通りなら隠すようなものでもないのに。隠したいなら隠したいで私に参加を許す理由が分からない。

「さぁ、いつまでもこんな場所で話をするものではありません。お部屋に食事を運びますから夜までごゆっくり」

 やっぱり食事は個室のままで、笑顔のまま背中を押されて部屋に押し込まれた。部屋の中で一人になるとごろりと寝床に寝転がる。考え事をする時はこの体勢が一番楽だ。
 結局午前中はクルトの相手だけで終わったので、午後からはもっとしっかり外の様子を見ておきたい。……明るい所で見るとやっぱり生活の色々な所で恩恵を受けているのが分かりやすかった。日常の火を使う所もガスコンロみたいに簡単に火が出せたりするのだろうか。魔法のアイテムでは定番なアレだ。
 あとはどんなものがあるだろう、昔読んだ物語の記憶を脳内から引っ張り出してみる。
 火を自在に使えるなら温度調節だってできるはず、鍛冶製鉄や焼き物なんか最適だ。あとはゴミ処理? 高温で燃やしてしまえば場所も取らない。

「……結構色々あるなぁ」

 確かにこれだけ恩恵があると火を頼り、崇めたくなるのもよく分かる。直接会えるのならヴェルト様みたいに存在が危ぶまれることもなくて信仰が消える事もないだろう。他の場所では信仰されてないのはそれが理由だ、多分。
 考えている内にノックの音が響いた。予告通りにドリスさんが昼食を運んできてくれて皿を並べていく。毎回何か言われてたけど今回は特に何も言わずに立ち去った。
 用意された昼食は今までと比べてちょっと変わっていた。丸い形のおまんじゅうっぽい物の表面が焼かれて、一口齧れば中にはチーズが入っている。もちもちした食感は小麦粉を使って芋餅に仕立ててあるんだろう、ほんのり芋の甘味のある生地にまろやかなチーズの塩気が合わさってボリュームも満点だ。割と質素で簡単な食事ばかりの印象だったこの村の料理で、一番美味しい食事だと断言できた。

「もう残りの食事全部これでいいや」

 初日の夕飯の塩辛スープはもうこりごりだ。思い出すだけで喉が渇いてくる。ただ今夜の宴会であれくらいの塩味料理が出されたらと思うとちょっとだけげんなりとした。早いペースで全てを食べ終えると午後からまた村の調査に乗り出す。
 畑の世話を誰がしているのかと目線をやれば、何人かの男の人が農具を持って村の奥へ向かっているのを見た。こっそりやっているつもりだろうけど結構な人数が移動していたから目立つ。私が見ているのに気づくと露骨に嫌な顔をしてるので知らぬ振りで慌てて顔を逸らした。私が奥へ向かおうとすれば近くにいた村人が「あっちは危ない」と引き留めてくるのも分かりやすい。仕方がないのでそっちは諦めた。

「うーん、まだ行ってないところは……」

 きょろきょろと辺りを見回すけど家並や井戸以外にめぼしいものは何もない。諦めて戻ろうかと考えた時、村の外れに木の板が何本も立てられた一角を見つけた。柵にしては意味を成さない並びに疑問を感じたのもあるし、他に得られる情報が無いのもあって足を運んでみる。

「あからさまに怪しい……これも火の精霊関係?」

 木の板は数十本以上が所狭しと並んでいる。板が腐って朽ちかけたものから比較的近年に立てられたものまで、時代は様々だ。その中のまだ割ときれいなものをよく見ると何か文字が刻まれているのが分かった。前に必死で覚えたこの世界の文字、あの苦労が無駄にならなかった事にまずは安堵してそこから記憶の糸を辿り一つ一つ読み解いてく。

「えと……ビアンカ、こっちのはフリッツ……人名だよね」

 朽ちたものにも恐らく同じように名前が書かれているんだろう。粗末で寂しいけれどもしかしたらこれは村の墓なのかもしれない。板に名前を書くなんてそれくらいしか思いつかない。それが正解だとしたらこの足元に沢山の遺体が埋まっているのだと気付いて思わずその場を飛びのいた。

「踏んじゃってごめんなさい! 悪気はないんです!」

 立ったまま頭を下げて心からの謝罪をした。

≪一体何に向かって詫びている≫
「それは勿論死んだ人にですよ。墓を踏み荒らしちゃったんですから……」

 日本人としてはやっぱり墓とか死者を粗末に扱うのは祟られそうで怖い。だけどヴェルト様には全く理解できないようだ。

≪死者は何も出来ぬ。魂は新たな肉体へ宿り古い肉体は朽ち果てる、以前の肉体の眠る場所が荒らされようと気付く筈も無いし気付いたとて何が出来ようか≫
「こっちの世界じゃそうでも、私のいたところじゃ違うから気持ちの問題です!」

 神相手に日本の死生観を語ってもしょうがないから一言で切って捨てる。ヴェルト様もそれ以上何も言わずに分かったような分かってないような返事をしていた。
 結局他には新たな発見もなく、諦めて村長の館へ戻る。中に入ったら村長さんとその息子ロビンさんも仕事を終えたのか帰ってきた。

「あ、お疲れ様です」
「ただいま。散歩でもしていたのかね」
「はい、少しだけ」
「何もない村だから退屈だっただろう。今夜は村の行事もあるし、明日には石の取引もできるのでもうしばらく辛抱しててくれないか」

 おかしなところなんて何もない会話だけど村長さんと話している間、横で私をじっと見てくるロビンさんが正直気味が悪くて早々に会話を終わらせて帰りたかった。何というか、前にこんな視線を感じたような……

「じゃあ、それまで休んでますね! またあとで声を掛けてください!」

 無理矢理話を打ち切って部屋に逃げ込み、その後はまとわりつくような不快感を忘れたくて暗くなるまで寝床でゴロゴロと過ごした。
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