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異文化交流

 歓迎されている雰囲気はまるでなかった、元々物語でもエルフは人間嫌いで排他的な立ち位置な事が多い気がする、たしかにありえない長命の種族の目から見ればたかだか100年くらいで死んでしまう人間は虫けらくらいに感じるのかも知れない、そんな事も考えてしまった。

 昨晩村と言うか集落というか、家という概念からはかなり離れた住居であった、大木の洞や枝の上を住みかとしているようであり、登れと言われても絶対に無理としか言いようのない場所での生活であった暗い中でこれ以上は無理と判断したようで木の根元で一晩明かすように指示された、毛布はなかったが藁が用意され一応最低限の礼儀のつもりなのかもしれないが、現代日本で寝具として藁を出されたら、間違いなく人権問題に発展するだろうと思われた。


 夜が明けると、木の上に登るのは不可能と判断したのか、少し開けた所に連れて行かれそこで待期を命令された、しばらく待つと何人ものエルフが現れ適当に座り出した、椅子が整然と並ぶ日本の感覚ではありえないような適当にそこらの岩や地面に座り出し、並ぶような感覚さえない、外見ではどう見ても20代位にしか見えず長老と言われる存在が誰なのかまるで分らなかった。


「あなた達はどこから来たのですか?」


 一人のエルフが口を開いた、特に隠す事はないと考えていたので正直に語る事にした。


「日本という国です、たぶん異世界という事になると思います」


「たぶん、とはどういうことですか?」


「方角は正確にはわかりませんが、昨晩襲撃を受けたところから一日歩いたところにこの世界とは趣の異なる商店があると思います、そこに立ち寄っていた際にどういう訳か気付いたらこの森に商店ごと来ていたという次第です」


 質問しているエルフの言葉は丁寧だが表情は無表情でその表情から感情はまるで感じ取れなく、信じているのか、胡散臭く感じているのか、まるで分らなかった。


「では、お引き取りを、帰り道は案内しますのでどうぞ」


 それだけ言うとまたゾロゾロと興味を無くしたように皆立ち去って行ってしまった。後に残された3人は呆然としてしまうしかなく、もっと厳しい取り調べとか尋問があると思っていただけに、その対応はあまりにも軽いものであった。

 促され先導されるように森の中を移動して行く中、盛んに情報収集を行おうとしたが、それはいよいよ文化の形態の違いなのか、案外似た形態なのかという事について考えさせられるようなものであった。

 森の中エルフのテリトリーと人との間には不可侵の協約が出来ており、その不可侵の協約は厳しいものではあるけれど余所からの旅人が知らずに破る事もあり得る、その場合早急に森の外にお帰り願う、それが全てであるとの事だった。たしかに3人は狩をしていた様子もなく、密猟者にも見えずエルフの部落を攻撃しに来た尖兵にも見えないのであれば『面倒な連中はとっとと帰ってくれ』というだけで、それ以上はないという事のようであった。

 この話から3人は少なくとも人と呼ばれる自分達に似た存在はいる事が確認でき、しかもエルフなどという存在がいることから、ここが確実に自分達のいる世界と異なる世界である事を実感した。しかし、人についての質問は「人の事はよく分からない、興味もない」の一点張りで案内役のエルフはそれ以上の回答を出そうとはしなかった。


「この道を進めば人のいる所に着く」


 それだけ言うと案内のエルフはあっさりと礼を聞くまでもなくあっさりと引き返してしまった。

 少し立派な獣道、そんな印象の道であったが、少なくとも人の往来がある形跡のある場所に辿り着けた事に3人は少し安堵し、道を歩きながらでも少ないながら会話が行われた。


「排他的ではあるみたいですけど、なぜ送ってくれたんでしょうね?」


「森から出て行けって言っても、道が分らなければ延々と森の中を彷徨う事になるだろ?自分の家の庭を知らない奴が延々とうろうろされるより、玄関口まで送って行ってもう来るなって事だと思うよ」


 日本に不法入国したのもチケットを買わせて強制的に飛行機に乗せて国に返すそのやり方と似ていなくもないと、考えると彼らの行動もそれほど違和感がない、武装テロリストではなく、自分達の現状は明らかに難民のように見えるのも分らなくはない。


「あなたの見解では言葉が理解でき、自然と喋れたのはどう説明するの?」


 今まで質問をするのは主に慎一であり、聞いているのかいないのか、加奈子は相槌すら打たない事が多かった、しかしこの時は珍しく加奈子が質問をしてきた。加奈子にとって慎一がする質問は非常にどうでもいいものが多いように感じられ話に入って行くのも面倒だと感じていたし、分り切った事を聞くなという質問も多かった、しかし、言語についてはどうしても気にかかる問題だと感じてしまった、脳の中に蓄積された知識によって人は言語を操っている、しかしエルフの喋って言語は加奈子が知るどの言語とも違った、それでも理解できてしまった、その異常な事は自分の身体に起こった異常としてどうしても気にかかる所だった。


「憶測だが体の内部をかき回されるような不快感と同時に頭に何本も針を突き刺さるような痛みを感じなかったかな?あれで記憶のメモリーに言語知識が無理やりのように書き込まれた、みたいな事じゃないのかな?脳学者とかじゃないんで分からないけどね」


 雅夫は滅多に質問しない加奈子が何故質問をしたのか大凡おおよそ理解していた、自分の身体に起きた異変には極めて敏感な女であるだけに、知らないはずの言語を自由に扱えるとう事実に不安を感じ、なにかに縋りつきたいとの思いから、憶測でもいいので解答を欲したのであろうと。

 極めて自分本位の女らしいと思ったが、それで加奈子の質問だけ無視するのも慎一の質問に答えた直後だけに不自然であると思い一応自分なりの解答を示す事にした。




 道は続きまだ森からの脱出にも成功していないが、3人は根底は同じでも少しずつ違う事を考えていた、それは今後3人で行動するかどうかという点であった。


 加奈子はここまで、慎一を社会経験のないお子様と見ていた、雅夫を社会の落伍者と見ていた、人の住む世界なら文化レベルが現代日本より大きく劣っていても交渉術やコミュニケーション能力でこの二人より上であるとはっきり思っていた、しかもいざとなれば自分にはありえないくらいの力が備わったのだからそれを利用していくらでも強気の交渉ができると踏んでいた、しかしこれからまるで違う文化形態、社会体制の場所に行くなら毒見役ともいうべき存在はいた方がいいとも思うようになって来ていた、事実エルフとの交渉はほとんど雅夫がやり、自分は見ているだけの側面があった、観察しつつ見るべきものを見て行けばいいので、切るのはもう少し先にしよう、そんな事を考え出していた。


 雅夫はどう生きるのかについて考えていた、まず報酬が得られるような仕事をこんな訳の分からない連中にさせるとは思えず、誰でもいいなどと言う仕事は、基本低賃金の重労働と相場が決まっている、自分のチート能力を生かすという事はそれを暴露するという事で場合によっては身を危険にさらす事になりかねない、加奈子は自分の力を使い皆をなんとかしようなどとは絶対に思わないであろう、そう考えるとこの力は汎用性という点で大いに劣っているため、生きるため、糧を得るための手段はどうするべきであろうか?それについて思いを巡らせていた。


 慎一はチート能力について悩んでいた、いままでの雅夫の仮説が正しいのであれば、あの身体の中を一度ドロドロに溶かし再構築するような感触はチート能力のためのものという事になる、そうなれば自分にも何らかの能力が備わっている可能性が高いであろうに、今のところ色々試したがすべて空振りであった。

 頭を整理して考えるとチート能力と言われる能力には色々な系統があるように思われた、まずは加奈子のように身体能力を向上させるような能力、地味だが非常に汎用性が高いように思われる、次に魔法のような無を有に変えるような能力、ミダス王が全てを金にかえたように元素を変えるという化学の根本を否定するような能力は定番であり魅力的だがやはり空振りだった。他にも試したいが試しづらいカテゴリーがあった『対人』というカテゴリーだ相手を自分の意のままに操ったり、気に入らない相手を念じるだけで殺すなどの能力だったが、まず意のままに操るという能力に関しては少なくとも頭で念じるだけでは効果はなかった、さり気なく口に出してもやはり効果はなかったが、名前を告げ命令すれば聞くのかもれない等の、色々な制約もあるかもしれないだけに十分な実験が出来ているとは思えなかった、殺すような能力は現在の2人のどちらかに試すのはリスクが高すぎて絶対に避けたいために試せず、もし機会があれば試したいが、安全な場所でさりげなく試す機会などはたしてあるのだろうか?そんな自分のまだ目覚めておらず、本当にあるのかどうかも分からない能力について真剣に悩んでいた。

 



 2時間ほど歩き、日の感じからして正午近くになるとやっとの事で森からの脱出に成功し開けた平野部へと出た、見渡す平野部はかなり先々まで見通す事が出来たがまだ人家と言えるような物は見えず、人工物とおぼしき物も何もなかった。森を抜けた先の平野部に村や集落のようなものを期待していただけに少し落胆の色も見せたが、それでも道を歩いて行けばいつか村や町のような所に着くのではないだろうか?そんな思いからそこまで落ち込むこともなかった。 

 さらに1時間ほど進んだ時3人の目には立ち昇る煙が見えてきた、その煙が人為的な物であり、暖炉や炊煙など何であるかは分からなかったが、人の気配をその煙のもとに感じる事はできた。


「どうしますか?」


 雅夫のその質問は加奈子に向けられたものであった、彼女もこの事態が何を意味しているのか知っていた。


「駆けつけて恩を売るのが正解でしょうね」


 雅夫の質問に加奈子は答えたが、別の可能性について考えていないのを雅夫は理解した、まだ建物の影も見えないうちから煙が見えるという事は、かなり大規模な火災、もしくは襲撃を受けるて火災が発生しているという可能性が考えられた、しかし、襲撃を行っているのが盗賊、現代で言うならばゲリラなどであれば話は早いのだが、軍隊である可能性もある、そうなった場合、下手したらお尋ね者として指名手配を受ける可能性すらあった。彼女の現代人的な思考では村を襲う存在=盗賊、ゲリラ、山賊、そういった固定観念が出来ているようであったが、中世の軍隊など山賊より質が悪かったと言われるだけに、今村を襲っている存在がどういう存在であるのかを見極めなければ今後に支障をきたすという点までは理解できていなかった。

 しかし、あえて注意はしなくても本人のやる気を削ぐのは得策ではないと見過ごす事にした、もし軍隊であったとしてもその軍隊の敵対する側につけばいいことだし、場合によっては他人のふりをすればいいと思っていた。

 慎一には二人のそんな思考や考えは読めていなかったし、理解も追い付いていなかったが、あの煙が戦闘によって生じたものである可能性が高いという事は理解でき、ここまでひたすらサバイバルであった状況が大きく変わるのではないか?そんな期待に胸を高鳴らせていた。

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