第七話
~3ヶ月後~
フェアとの出会いから随分と経つがあの日以来``一度も目を覚まさない``。
あの後混乱する私の目の前に現れた銀糸の様に煌びやかなプラチナブロンドの髪をサイドポニーの様な形で左肩に垂らし、鮮やかな見るものすべてを虜にするような紅玉のような瞳。陶磁器の様に真っ白な肌と華奢な手足を包み込むようにフリルのあしらわれた膝丈のメイド服にその身を包み、背中から2対2の4枚の妖精特有の半透明な羽が生えた15~16歳くらいの少女が恐らく何か強力な魔術を使った影響なのか服が光の粒子となって消滅してしまい、気絶する様に倒れてしまったフェアをそっと支えながらどこから取り出したのか真っ白なローブを着せていた。
「お初にお目にかかります。私はフェア様の侍女兼契約妖精を務めておりますクラリスと申します。
突然目の前に現れた私に驚いていると思いますが僭越ながら一言言わせて頂きたく思いますがよろしいでしょうか?」
クラリスと名乗った彼女は目を細め、今にも射殺さんばかりの鋭い目つきと女性にしては低めの声で丁寧でありながら言葉の端々に威圧感が感じられる。
「な、何でしょうか?」
「今、フェア様がお使いになった貴女方で言うところの魔術は``本来なら``今のフェア様がお使いになることは出来ず、その代償にお支払いしたモノをご存知でそのように助けてくださった命の恩人にお礼の一言も言わないのが今の人間たちなのでしょうか?」
「っ!?」
突然黒い何かに襲われ、見たこともない魔術や突然現れた彼女の事ですっかり助けて貰ったことを忘れていた私は何も言えずに言葉に詰まらせてしまった。
「どうやら何時の時代も人間と言うモノは自分さえ良ければそれで良いのですね。貴女のような者が居るから私は【人間界】にフェア様を留める反対だったのですがあの方に言われてしまっては仕方がありませんがやはり納得できませんね。それに....」
貴族の家に生まれたものとして人間の醜さ等の黒い部分を知っているのと自分自身の混乱していたとはいえお礼の一言も出てこなかった事に何も言えずに俯き、爪が掌に食い込んで血が流れていることも気にせず強く握りしめた。
「闇に囚われていた妖精獣のこの子はどうやらそこの人間とは違いしっかりと助けて貰った事を理解し、涙を流してながら心配しているところを見るとこの子の方がずっと賢いと言えますね。」
彼女は先ほどの黒い塊だった額に宝石を宿す白兎を抱きかかえ、容赦なく私に言葉の刃を突きつける。
まるで人間に恨みがあり、嫌悪感を抱いているかのようにすら感じる程に....
「さてと...そろそろこの場所を離れてフェア様がしっかりと安全に過ごせる場所を見つけなければいけませんね。まあ、その辺にいる妖精にでも聞けば安全な場所の一つや二つ教えてもらえるでしょう。」
私に言葉の刃で切りつけた彼女はフェアとフェアのお腹の上で丸まった白兎をお姫様抱っこの様に抱きかかえると私が入ってきた入口へと歩みを進め始めた。
(....ここで声をかけなければ、私からお礼を言いださなければ一生後悔することになる気がするわね)
「あ、あの...よろしければ私の屋敷にある離れをお使いになりませんか? 命の恩人に何もお礼の言葉も言わないなんて貴女に言われて幾ら混乱してたとは言え、何も言えなかった私が言えた義理ではないですが、今から探すよりも離れなら基本的には殆ど誰も近寄りませんし、定期的に掃除に来る侍女が居るくらいなので一から探すよりは早いと思います。」
必死に震える声と身体を何とか抑えながら声を絞り出した。
正直さっきまであんな事を言っていた妖精相手に提案するのはどうかとは思ったけれど助けてくれた命の恩人にお礼も言わずにこのままさよならはなんだかあいつ等の様で凄く嫌だった。
「ふむ....確かに一理ありますが今頃どの口が言うのか理解に苦しみますが現状、私の知る世界がどの程度変わったか分からない以上はフェア様の事を考えますとその方が良さそうですね。」
こうして人間嫌いな妖精と正体不明な白兎に私の命の恩人が私の住む屋敷の離れに住むことになりました。
ーまさかこの出会いがこの世界に大きな影響を与えるとは知らずに。
少々駆け足ですが次回からはフェアの使った魔法の代償と溺愛や過保護タグが判明出来るように頑張りたいと思います。
少しだけキャラ紹介です。ネタバレ等苦手な方はお読みになられない事をオススメします。
今回登場したクラリスさんは過去の主人公に深く関わりがあるキーキャラクターである事が過去にあったため極度の人間不信&生理的に嫌悪していますが主人公に対しては激甘で第一に考えるのでしっかりと(?)優先順位を決めて行動していますが、何かやらかしてしまうと途端に毒舌&ネチネチと嫌味なキャラになる予定です。