第六話
4/22 お手数ですが第五話に一部お話を追加しましたのでご確認後に第六話をお読みになられることをお勧めいたします。
突然起こった不思議で幻想的な光景に私は言葉を失い、唖然とすることしか出来なかった。思わず泣いてしまっていたけれど気が付くとフェアに優しく頭を撫でられていて、撫でるのをやめたと思ったら目の前で私が持ってきた【ケーニッヒ】から七色に輝く蝶が舞い踊り、気が付くと【ケーニッヒ】はヘッドドレスへと姿が変わり、七色の蝶は四つ葉のクローバーを模したデザインの指輪へと姿が変わっていたのにも驚いたけれど.....
(どうしてフェアの背中にまるで【妖精のような七色の羽】が生えているの?)
精巧なオートマタのような外見と羽が合わさりただでさえ幻想的な雰囲気だったのが更にこれでもかと言うほどに神秘性を引き上げ、正直夢であって欲しいと思う反面、夢でないのならフェアと名乗る少女をこのまま家に持ち帰って私だけの物にしてしまいたい欲望が渦巻く。
(なんでこんな気持ちになってしまったのかしら?)
私は高まる胸の鼓動を押さえながら目の前の光景が今だに信じられずに唯々茫然とするしかなかった。
この時私は茫然し、自分の事ばかりに意識を向けていたことを後悔することになる。
なぜなら......私の後ろに迫る悪意の塊ともいうべきモノに全くと言って良い程気がつかなかったのだから。
ーとりあえず伝えたい事も色々とあるのだけれどしばらくは力の使い過ぎで眠らないといけないから後の事はクラリスという名前のまあ、フェア専属侍女兼ボディーガード兼契約獣に任せるから他にも聞きたい事や気になる事があればクラリスにお願いね? それと貴方は魔法が使えるけれど間違っても今は使ったりしたらダメよ? 折角少しだけだけれど感情と記憶を取り戻すきっかけになりそうなのに魔法を使えばその負担でまた、しばらくの間は感情も記憶も戻りにくくなったしまうから....ー
メールは私の事を凄く心配してくれているのが伝わってくる。本当はメールの言葉に従った方がいいはずなのだけれどでも、私はきっと目の前で知り合いや友人や家族とかが危なくなった時は迷わず使ってしまうと思う。どうしてこんな事を今、考えているのかはリリィの後ろに迫る黒い悪意の塊のような見ていて気分が悪くなるモノが神殿の入り口からこっちに向かってきているのだから。
『メールが心配してくれてるのが伝わってきてなんだか胸の奥からじんわりと温かい何かが滲みだしてくる不思議で心地よい感覚があるけれど...ごめんなさい。そのお願いは叶えられそうにない』
メールが何か焦って叫んでいるような気がするけれど今はあの悪意の塊をどうにかしないといけない。でも、私には魔法が使えたとしてもその魔法をどう扱えばいいのか記憶にない、けれど感覚が覚えているのか自然と右手を悪意の塊へと向け、悪意を浄化する光をイメージする。
(右手に周囲から何かが集まる感覚と身体の中から温かい何かが抜けていく感覚。きっと集まっているのが魔法を使うための物で身体から抜けていくものがメールの言っていた戻りにくくなるってのはきっと【わずかに残る感情】が【魔法を無理矢理使う代償】に少しずつ抜け落ちているからなんだ...)
私はその事を理解し、同時に自分がどんどん失い始めているのを怖くて、辛くて、とても冷たくなって行く気持ち悪さに吐き気とめまいを覚えるけれど....
「今は...そんな...事を言ってる暇はない...の!!」
唇を強く噛みしめ、口の端から血が流れようとも無理矢理気持ち悪さとめまいをねじ伏せながら右手に意識を集中する。
目の前でリリィが顔を真っ青にし、目を見開きながら涙を流し、何かを叫んでいるけれど私は優しく安心させる様に微笑み、頭の中に思い浮かんだ言葉を紡ぐ。
「浄化!!」
右手から淡く、美しい七色の光があふれると七色の光が悪意の塊と交りながら黒い靄の塊のような物が少しずつ消えて行き、黒い霧を浄化した七色の光と同じ宝石のような物を額につけた処女雪の様に白い兎の姿へと変貌する。
(無事に守れたね....でも...少し....眠く..な...)
浄化した事で元の姿へと戻ることの出来たと思われる兎とリリィに怪我をさせることなく無事に助けられたをの確認し、ゆっくりと瞼が下がりながら身体から力が抜けて倒れそうになるところを誰かに支えられたのを最後に私は深い眠りについた。