第四話
私は今、信じられない光景を目にしている。
「.....ッ!?」
急に目が眩む程の七色に輝く光がケーニッヒからあふれ出し、やっと光が消えたと思ったら...
「あれは....どう見ても...棺...よ...ね?」
目の前には神殿の中とは思えない程床一面が花畑広がり、花畑の中心に真っ白な棺が置かれ、奥には恐らく女神の像とその女神と美しい少女が微笑みあう光景のステンドグラスが奥の壁にはめ込まれている。
「ど、どうしてこんな所に棺と女神様みたいな像が....」
余りにも非現実的な光景の連続で脳の処理が追いつかず、目の前に浮いていたケーニッヒが棺に向かってゆっくりと案内するかの様に飛んでいく後を追って自然と足が動き出した。
「これを開けろって言うのかしら?」
ケーニッヒが棺の上へと移動すると棺の蓋の上でくるくると回り、まるで蓋を開けろと言わんばかりに回り続ける。
「と、とりあえず開けるしかなさそうね」
本当はこんな事したらいけないと思うのだけれど驚きの連続で冷静な判断がつかず、とりあえず考えることをやめて蓋に手をかけ、ゆっくりとずらしていく。
「......人形? いや、オートマタかしら?」
棺に納められていたのはステンドグラスから漏れる光に照らされ、七色の光を放つ腰のあたりまで伸ばされた美しいプラチナブロンドに雪の様に白く、最高級品の白磁器の様に滑らかな肌、精巧なオートマタよりも幼さは残るが美しくこの世の物とは思えない程整った10歳前後と思われる容姿に華奢な手足の少女が白を基調としながらも黒いフリルや一部金色の細工が施されたゴシックチックな騎士服風のドレスに身を包んで横たわっていた。
「夢じゃないわよね?」
余りにも目の前の光景が信じられず、棺の中の少女を見つめながら熱の籠った感嘆のため息まじりに呟くことしか出来なかった。
「.....ッ!?」
「...?」
少女を眺めているとゆっくりと目が開かれ、瞼の奥に隠されていたどこまでも済んだ青空のようでありながら深海よりも深い海の様な色の碧眼と全てを見据えるようにどこまでも透き通る黄金色の宝石のような金眼の異なる二色の眼が不思議そうな表情を浮かべながら少女が私を見据える。
「.......」
同性でありながら余りの美しさに声を出すことも忘れ、ぼーっと眺めることしか出来ずに立ちすくんでいると....
「...貴女..は...だれ?」
長い間声を出していなかったせいなのか掠れてはいるが美しい鈴の音のような少女特有の可愛らしい声で話しかけられてしまった。
「っ...わ、私はエルフ族のリリィ。リリィ・ケーニギンよ」
何とか声を振り絞りながら少しつっかえながらも質問に答えられたことに安堵した。
「....私は...フェア....フェア・ツヴァイフェルト」
「そ、それじゃあツヴァイフェルトさん。ここがどこでどうして棺の中に入っていたのかわかるかしら?」
「....わからない」
どうやらフェア・ツヴァイフェルトと名乗る少女が嘘をついていないのならわからないみたいだ。
「嘘はついていないようね....それじゃあ質問を変えますけれど貴女はどうやってここに来たのかしら?」
「.....名前以外に何も思い出せないからわからない」
「えっ!? そ、それは大変じゃない!?」
「......?」
何が大変なのかわかっていないようで不思議そうな顔でこちらを見つめている。
「貴女はどう見ても10歳前後のそれも女の子なのよ? こんな所で記憶もなく一人で居るだなんてご両親とかが探していたりするかもしれないのよ?」
「....何となくだけれど....私のお父様やお母様は居ないような気がする」
そう答えた目の前の少女をよく見ると綺麗な輝きを放つ瞳には光がない。
私はこの目を知っている。この目は想像もつかない絶望や生きる気力すらも奪われてしまった者の目。
(こんなに幼い少女がそもそも棺のような物の中で誰にも気がつかれるはずのない場所に寝ていたことといい、明らかに普通じゃないわ)
頭の中で今の状況を冷静に考え、結論が出た時に私はどうしようもない程不安に駆られ、心配になった。
(この子はこの後どうするの?私が迂闊に好奇心に任せてここに来なければこの子はあのままずっと眠りについていたかもしれない。もしかしたらあの目や棺を見る限りこの子はここを死に場所に選んだのかもしれないのに私は自分の事ばかり考えて首を突っ込んでしまったのよね?これじゃあ自分勝手なアイツらと同じじゃない....)