第三話
ー何処からか声が聞こえるー
「...なさい....また...のせいで....本当に...なさい」
ー涙声混じりの悲痛と後悔満ちた感じだけれど何処か温かくて、懐かしくて、澄んだ鈴の音のような綺麗なのにお母さんに抱かれているような安心感のある声ー
「今度こそは....ないように....選んだのに....本当にごめんなさい」
ーどうして泣いているのか私には分からないー
ーでも、声の主が誰だかは分からないけれどその声を聞くたびに凄く悲しくなるー
「.....ッ!?」
ーだから私は何も見えないし、声も出せなければ身体も動かないけれどせめて笑って居て欲しいから....届かないかもしれないけれど笑いかけるー
「2度も貴女(貴方)には私のせいで惨く、残酷な運命へと導いてしまった私には貴女(貴方)に笑顔を向けて貰う資格なんてないのよ」
ー声の主は目を開けることが出来ないから見ることは出来ないけれどきっと涙でぐちゃぐちゃな顔をしながら悲痛な趣きで自分を責めているんだろうなぁって事は何となく分かる気がするー
「もしも...もしもだけれど...もう一度だけ私にチャンスを貰えるのなら....今度こそは貴女(貴方)を幸せにしてあげられると思うけれど...2度も裏切ってしまった私の事なんて信じられないわよね?」
ーそんな事ない! よく覚えてはいないけれどこの人はずっと私の事を大切に守ってくれて、思って居てくれたに違いないー
ーだってそうじゃなければこんなに辛そうに語り掛けたり、謝ることなんてないはずだからー
「そうよね...貴女(貴方)はいつも誰にでも優しく、気高く、美しく生きてきたものね」
「そんな貴女(貴方)だから私は選んだのよね....決めました!!」
ー声に出してないけれど私の思いは伝わってくれたみたいで良かったー
ーこの人は泣いている顔よりもきっとニコニコ陽だまりのような温かい笑顔の方が似合うはずだからいつも笑って居て欲しいー
「今度こそは貴女(貴方)に沢山の仲間や様々なモノに愛されるように私の全てを使ってでも実現して見せます!! だから心も記憶もボロボロな状態な貴女(貴方)には少しの間辛い思いをさせてしまうかもしれないけれど、今度こそはきっと何とかしてみせるからお寝坊さんな貴女(貴方)を起こしにきた白馬の王子様じゃなくて古の森に住まうまだ、幼さの残るエルフの少女なのがちょっと残念かもしれないわね♪」
ー声の主は冗談ぽく言ってるけれどきっと意地悪な笑みを浮かべてクスクス笑って居る気がするー
「でも、安心して。 このエルフの少女は最後まで貴女(貴方)や精霊達の味方で居てくれた一族の末へだからきっとボロボロになって一部失ってしまった心と記憶...それに名前も取り戻すきっかけになるはずよ」
ー心と記憶...それに私の名前...確かに私が誰でここでどうして寝ているのかも思い出せないー
「だから今は名がない貴女(貴方)には仮の名前を与えます」
「本当はこんな名を与えたくはないのだけれど...名はその人を表すとも言うから私が迂闊には付けられないのよ」
ー言葉の端々に苦々しい思いを滲ませては居るけれどそれは私を気遣ってくれているのが分かるからどんな名でも私は気にしない気がするー
「貴女(貴方)は今日からこの世界の精霊語でフェア・ツヴァイフェルト。 絶望した者って意味なのだけれどまさしく私と貴女(貴方)を意味する言葉よね」
ーきっと皮肉交じりな笑みを浮かべ、今にも泣きそうな顔をしている気がするー
ーどうしてそんな名になってしまうのかはきっとなくしてしまった記憶とボロボロの心のせいだとは薄々何となくだけれどわかるー
ーでも、今は心あたりがないから今にも泣き出しそうなこの人にどう接してあげれば良いのか分からないのがなんだか凄く悲しいー
「あっ....そ、そんな泣きそうにならないで!! 私は大丈夫だからフェアはゆっくりと取り戻していけばいいのよ」
ー泣きそうだった私を優しく抱き締めて、頭を撫でてくれているー
ー温かくて、凄く安心できるほど気持ちが良いー
「フェアはどんなに変わっても甘えん坊『 』なのね♪」
ー今、聞き取れない部分があった気がするけれど....きっとそれが失ってしまった私の本当の名前だってことは直感的に理解できるー
「さてと....名残惜しいけれどそろそろ一度お別れしないといけないわ」
ーお別れって言葉が凄く寂しくて、いつの間にか目じりから涙が頬を伝うー
「一度お別れだけれどまたすぐに会えるし、今度は常に私を傍で感じられるようにしてあげるからお喋りは出来ないけれど安心でしょ?」
ーその言葉の意味するところは分からないけれど自然と頬が吊り上がり、笑顔になって途端に安心感が胸を温かく包み込んだ事だけは理解できたー
「それじゃあ行ってらっしゃい♪ 私の可愛い『 』」
ーその言葉を最後に意識が暗転したー