第二話
その日私は妙な胸騒ぎを覚えた..。
なんだか良い出会いがありそうでありながら、同時になんだかとても胸を締め付けられる感覚。
「でも、だからと言ってこんな森の奥までに来る必要はないわよねぇ」
私の家は代々アルトゥール王国建国以来、ずっとお抱えの魔導具製作を受け持つ家柄なのだけれど....
「こんな【精霊の森】とか名前負けしている何もない森の中に朝、気分が良かったからってだけで態々素材を探しに来るなんてばかみたい」
口ではそう言いながらも鬱蒼と茂る茂みをかき分け、至る所に張り巡らされ、まるで侵入者を拒むかのような普段は絶対に足を踏み入れない道なき道を進む。
「そういえばこの道なき道の先ってどうなっているのかしら?」
代々子から子へと受け継ぎ、少しずつ書き足されていった【精霊の森】と呼ばれる広大な森の地図を見なるも、何故か入り口からほんの30分もかからずに偶然見つけたわき道は『何も無いかの様に書かれている』のだ。
(絶対に怪しいわ! こんな入口のすぐ傍と言えるような所なのに地図に掛かれていないなんて!)
「なんて思ってきては見たけれど....何もなさそうねぇ」
もう、3時間近く歩き続けているが今だに茂みから抜け出せていない。
「やっぱり最近出来た獣道とかだったのかなぁ」
「このままだと日が暮れちゃいそうだし....もう少しだけ進んで引き返さないと暗くなってしまうわね」
お昼頃に森に入ったため日が傾き始め、徐々に暗くなり始めている。
闇に支配された森の中を歩くのはいくら魔物や魔獣が少ない【精霊の森】とは言っても危険には変わりない。
「そもそも【精霊の森】なんて呼ばれてはいるけれど、精霊なんて遥か昔に姿を隠してるのだからただの目ぼしい物のない森のはずなんだけれど....」
幼い頃に今は亡き母様に寝物語で教えて貰った精霊のお話を思い出し、ずっとこの森がそう呼ばれていることが不思議で仕方がなかった。
母様のお話では...
『今から遠い昔、それまで精霊と私たちは共に手を取り合いながら生活をしていたのよ?』
『でも、そんなある時に突然真っ黒な霧が現れ、精霊達を次々に包み込んで消えてしまったの』
『そしてそれを見た他の精霊達は【これを来る日の為に残します。我らが主があのモノたちを消し去るまでしばしのお別れです。】と言い残すとこれを残し、全ての精霊はその日以来一度も姿を表すことがないまま今に至るのよ』
『だから何時か訪れるその来る日までリリィもこれを受け継いだのなら肌身離さずに持ち歩くのよ?』
と、手のひらに収まるぐらいのサイズでいながら透明感のある美しい純白のグリップ、剣の鍔のようなデザインで居ながら美しい白を引き立てるように施された白銀の装飾と鍔の中央と柄にはめ込まれた光の加減で様々な色を見せる宝石。鍔のような物があるのに刀身のない事から短杖の様に見えるそれをレッグポーチから取り出した。
「色々と文献とか解析魔法で調べてみたけれど名前しか分からなかったのよね」
【精霊宝具:ケーニッヒ】と呼ばれる謎の宝具。何故こんな物があるのか?・魔導宝具だとしてどうしておとぎ話に出てくる精霊の名を持つのか?・どう起動し、どんな効果があるのか?その一切が不明で材質も当然解析不明だった謎の物体。
「まあ、分からない事を今更気にしても仕方ないわね。とっとと森を抜けてしまいましょう」
独りごとを呟きながら更に数時間道なき道を進んでいるといつの間にか少し前に見た時にはなかったはずの蔦と蔓に覆われ、隙間から所々に罅が入っているが古さを感じさせない程白い柱に囲まれた神殿のような建物の前に着いていた。
「あれ? さっきまではこんな建物はなかったはずなのに...」
疑問に思いながらもきっと疲れていて気のせいだと自分に言い聞かせ、神殿へと近づいていく。
「ん~...折角だから調べるついでに安全そうなら中で休憩しても良かったんだけれど...中に入れそうもないわね」
神殿の入り口だと思われる場所は扉のような物はあれど取っ手のような物がなく、まるで何かを拒むかのように佇んでいる。
「でも、ここだけぽっかりと空いているのよねぇ」
扉と思われる場所の丁度真ん中あたりにぽっかりと穴が開き、何かを納めることが出来そうな形状をしていることとその穴の形状に心当たりのある物をレッグポーチから取り出した。
「やっぱりそれしか考えられないわよね?」
少し考え、意を決して【精霊宝具:ケーニッヒ】をはめ込むとまばゆい七色の光があたり一面を照らし、【精霊宝具:ケーニッヒ】が扉の中央で浮いた状態で扉が左右に内側に向かって開かれる。