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「詩歌! 久しぶりだな!」

「久しぶり、アルスさん。スミレちゃんは元気?」

「おう! お前にもらった薬のおかげであれ以来風邪一つねえ。ほんと助かったよ」

「そう。じゃあよかった」

「レンゲの奴も会いたがってたから、後で顔だすよう言っとくよ。宿、いつものとこだろ?」

「うん、その予定」

「分かった。じゃあ後でな」

「今後ともご贔屓に」

 村に入るなり話しかけられた。その後も、村人と会う度に声を交わしている。

 どうやら詩歌は、この村では結構有名人のようだ。

 村長宅にて挨拶を済ませ商売の許可をもらい、この村唯一の集会場、というかただの広場へとたどり着くと、そこにはすでに結構な人数が集まっていた。

「お待たせ」

 そう言って荷物を広げると、一斉に人が群がってきた。

「あ! ちょっと待って」

 あわてて手を振る詩歌。

「えっと、商売の前にみんなに伝えておきたいことがあって」

 値上げかー? それともとうとう結婚するのかー? なんて野次をあたふたと否定しながら、

「はい、この子。レイン。わたしの一番弟子です」

 我関せずで見ていた僕を得意満面で紹介した。

「はい、レイン。挨拶して」

「え!? えーと…レインです。よろしくお願いします」

 突然振られても反応に困る。せめて前もって言っておいて欲しい。僕はこういうのに慣れていないのだ。

 案の定、それだけかー! なんて野次をもらう。こうなった自棄だ。開き直るしかない。

「それだけです。悪しからず」

「レインはね、とても賢い子なのです。わたしが教えたことすぐ覚えちゃうんだから。自慢の弟子なのです」

「そういうこと、らしいですよ?」

 何やら詩歌が一所懸命応援演説をしてくれたのでありがたく乗っからせてもらう。

「どういうことだよ?」

「意外と賢いらしい弟子一号ってことで」

「なんじゃそら? 自画自賛か謙遜かはっきりしろや!」

 一斉に笑い出す村人たち。どうやら上手く乗り切ったらしい。

「さて、じゃあ改めて。みんなお待たせ。何か入り用なものはある?」

 ほどよく場が和んだところで、詩歌は商売の開始を宣言した。


 詩歌の商売のやり方は一風変わっていた。といっても僕も商人について詳しい訳ではないので、あくまで僕が思い描く一般的な商人像と比べて、ということだが。

 例えばこんなやりとりがあった。


「ごめんね詩歌ちゃん。今、ちょっと余裕なくて。悪いんだけどこれでいい?」

 そう言って差し出されたのは数枚の銅貨。これでは一番安い薬すら買えない。

 にもかかわらず、

「うん、いいよ。薬はいつものやつでいい?」

「ありがとう、助かるよ。今度余裕のあるときは余分に支払うから」

 あっさりと了承してしまう。


 こんなやりとりもあった。

「おう、詩歌。この前鹿が捕れてな。干し肉にしたからついでに貰ってくれや。あと冬場に作った干し柿とばあさんが作った干しぶどうも」

 ごっそりと差し出される食料の山。

「ありがとう。食べ物なくなっちゃってるから助かるよ。でもいいの、こんなに?」

 そう詩歌が言うように、彼が提示した食料はついでというには多すぎた。

「いいんだよ。この前負けてくれたろ? その礼だ」

「じゃあありがたく」


 さらには、

「詩歌。うちに泊まってくんだろ? そしたらいつもみたいに宿代代わりに――」

「了解。はい、酔い止めと酔い覚まし。あとは胃薬と頭痛薬かな?」

「サンキュー」

「お酒はほどほどにね」

「そいつは客に言ってくれ」


 要するに、何でもありだった。現金だろうと物々だろうとそれらの合わせ技だろうとOK。対価が薬代を下回っても上回っても関係なし。後払いも先払いも認めている。詰まるところまともに稼ぐ気がないのだろう。それを象徴するようなやりとりも目にした。


「お姉ちゃん。お母さんがお熱なの」

 涙目で語る五歳くらいの少女。

「そう。それは大変だね。帰ってこのお薬飲ませてあげて」

「…………」

 差し出された小壺を、しかし少女は受け取ろうとしない。

 きつく唇を噛み締め、両手を身体のわきに置いたまま拳を振るわせている。

「どうしたの?」

 優しく問いかける詩歌。

「お金が、ないの」

 震える声で少女はそう言い、必死で言葉を紡いだ。

「お願い、お姉ちゃん! お金は、わたしが大きくなったら必ず払うからっ! だからお母さんを助けて!」

「ねえ、ユズリハちゃん」

 詩歌は少女の手を取り、小壺を握らせる。

「お金は、いらない。その代わり、わたしの名前、覚えてくれないかな? わたしはね、詩歌っていうの」

「それだけで、いいの?」

 手の中の小壺と詩歌の顔とを交互に見やる少女。

「うん」

 少女の顔が輝いた。

「ありがと! おね…詩歌!」

「うん、どういたしまして」


 後で親に請求するのかと思いきや、そんな素振りもまったく見せない。確認してみたところ、元々薬草なんてただで手に入れたものだからね、と笑っていた。

「そもそもわたしは似非薬師なんだから、代金も適当でいいんだよ」

 とのこと。謙遜なのか本音なのか。

 もっとも、そんなやり方をしているものだから、客からの評判はすこぶるいい。

「おかげさまで大抵の村では受け入れて貰えるし、いろいろよくしてもらえるし、そっちの方がよっぽどありがたいよ」

 まあ、確かにそうだろう。専属の薬師が店を構える街では、商売どころか入れてすら貰えなかったこともあったらしい。世知辛い世の中だ。

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