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「……これが、二年前の真実だ」
呆然と立ち尽くすカトリーヌに向けて言う。
「詩歌は――カトリーナはあなたを守るために殺したんだ。徹頭徹尾、ただそれだけのために」
「今更…」
もれ出る声。
「今更信じられるか! そんなことを!!」
「ふざけるな! これが現実だ! 目を逸らすな! 逃げるなっ!!」
思わず声を荒げる。
以前、詩歌は言った。
どんなに辛いことでも、起きてしまった以上それはもう仕方のないこと。だったら、目を逸らさず、事実を見据え、逃げ出さず、取れうる限りの最善を探るしかない、と。実際、詩歌はそのように生きていたと思う。
にもかかわらず、こいつは……!
「……あんた、ほんとに詩歌の妹かよ」
ほとんど詰問するような声で問う。
「あんな奴、姉であるものか」
「このっ! ……」
再び声を荒げかけ、気付く。カトリーヌの声に、いつものような力強さがないことを。
本当は、もう彼女にも分かっていたのだろう。詩歌が、カトリーナが、彼女の姉が、何故あのようなことをしたのかを。
それは徹底して妹の為で。でもそれを認めたくなくて。でも認めるしかなくて。
そんなぐちゃぐちゃになった感情が、漏れ出たあの言葉だったのだろう。
ならもう、僕がやることはない。
僕の復讐は済んだ。
「僕はもう行く。あんたは、勝手にすればいい」
真実を知って、詩歌の想いを知って、その上でどう動くのか。それは、僕のあずかり知るところではない。
詩歌はきっと、怒るだろうな。
でもこれが、僕なりの復讐でありけじめだ。
カトリーヌはうなだれたまま。
何かを求めるように、縋るように、その手が伸ばされ――
その横を、僕は何も言わずに通り抜ける。
その時、微かに声が聞こえた。
「…………リーナ、姉さん」
涙が一筋、彼女のほおを伝い落ちた。
彼女はこの先、どう生きていくのだろう。
伸ばされた手は、何を求めていたのだろうか。
――ああ、そういえば。
思い出す。
詩歌がよく、歌っていた歌を。
それでも、奇跡を願って
それでも、奇跡を望んで
それでも、奇跡にすがって
精一杯に、この手を伸ばす
その先には
その伸ばした手の先には――
奇跡など無いと、知ってはいても
そしてふと、思う。
詩歌の手は、奇跡に届いたのだろうか?
カトリーヌの手は、奇跡を掴めるのだろうか?
でも――
そんなものではなく、二人が手を取り合える日が来ればよかったのに、と。
御愛読ありがとうございました。




