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 ふと姉に呼ばれた気がして、目が覚めた。

「……リーナお姉ちゃん?」

 隣を見ると、姉の姿がない。

 最近ようやく傷が癒えたばかりだというのに、どこへ行ったのだろう。

 わずかに温もりの残る布団は、姉が抜け出してからそう時間が経ってはいないことを教えていた。

「……」

 目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。

 家の中に、人の気配が感じられなかった。

 では、両親も出かけているのだろう。

 でも、こんな真夜中に?

 嫌な予感がした。

 それを裏付けるように、集会場の辺りで複数の魔力が膨れ上がるのを感じた。

「――――!!」

 跳ね起きる。

 膨れ上がった魔力の中でも一際強い力――あれは、姉の魔力だ。

 いても立ってもいられず、家を飛び出した。

 そして私は、それを目にする。


 燃えていた。

 里で一番大きな建物――集会場が。

 壁はほとんどが焼け落ち、屋根は半ば以上崩れ、何とか耐え残っている支柱だけで支えられている状態だ。

 普段、里で火事が起きることなどまずない。個々の焚き火はすべて大人たちによって厳重に管理がなされているし、子供達が魔術の練習するとき万一燃え広がっても、すぐさま指導にあたっている大人たちによって消し止められるからだ。

 それなのに、なぜ……?

 近寄ると、激しい熱風にさらされる。眼を凝らすと、炎の精霊たちが舞い踊る姿が見えた。彼女たちに語りかけ、熱を遮断して近づいていく。

「…………うそ」

 思わず声が漏れた。

 集会場の中には、二つの人影が立っていた。いや、正確には、一方がもう一方の首を締め上げ、無理やり立たせていたというべきか。

「リーナ、お姉ちゃん……?」

 首を締め上げていたのは姉。そして、締め上げられていたのは長老の一人だった。

「どうして……?」

 炎の爆ぜる音に混じり、中の声が漏れ聞こえてくる。

「……もうやめてくれ、カトリーナ。これはお前達の為と思って…………」

「わたし達の為?」

 姉は淡々とここ場を紡ぐ。

「里中から疎まれて蔑まれて、あげく殺されるのが、わたし達の為なの?」

「ひぃ…………」

 長老の口から、弱々しい呻きが漏れる。

「まあいいや。……ならわたしのこれも、あなたの為」

 何か乾いたものが折れる音がして、長老はくぐもった悲鳴を上げた。

「黙って。もう、あなたの声は聞きたくない」

 姉の全身を凄まじい量の魔力が覆い、長老の喉を締め上げる手に力が篭る。

「いい? 二度と――手を出そうなんて考えないで。でないと、楽には殺してあげないよ?」

 普段の姉からは想像も出来ないような言葉。吹き上がる怒気と殺気。無尽蔵とも思えるほどに膨れ上がる魔力。一体、ここで何があったのか。温厚な姉を、何がここまで怒らせたのか。

「リーナ、お姉ちゃん……?」

 声をかけるには、非常に勇気がいった。下手に声をかけた瞬間、殺されてしまうのではないか。そんな妄想に襲われるほど、今の姉は尋常な様子ではなかった。

「…………リーヌ……?」

 やけにゆっくりと振り向く姉。その全身から、見る見る怒気や殺気が抜け落ちていく。

「どうして、ここに……」

 どさ、という音は、力の抜けた腕から長老がずり落ちたもの。

 そしてこちらに向けられた姉の顔は、今にも泣き出しそうなものだった。

「リーヌ、カトリーヌ。助けてくれ」

 姉の腕から解放された長老が、芋虫のようにこちらに這い寄ってくる。その姿からは、普段の嫌味なほどの尊大さが掻き消え、生に執着した意地汚さだけが強調され、激しい嫌悪感を催した。思わず後ずさる私を逃がすまいと、必死に腕を伸ばしてくる。

「あいつはワシ以外の長老達を皆殺しにした。それどころか実の親――お前の両親さえ殺したのだ! このままでは、お前も殺されるぞ!」

「……え?」

 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。誰が――誰を殺した?

「見ろ! この部屋の有様をっ! 無念に果てた長老たちやお前の両親の遺体を!! すべてカトリーナがやったのだっ!!」

 言われるまま、指差された部屋の隅に眼を向けると、そこにはかつて人を構成していた様々なパーツが散乱していた。腕、足、同、頭。一見しただけで、それが一人二人の量ではないことがわかる。今更のように血臭が鼻を突いた。

「――ひっ!?」

 そして、眼を見開いたまま転がるあの生首は――

「お母さん……?」

「そうだ、お前の母親だ。殺したのはリーナだ。カトリーナが殺したのだ!」

「うそ……」

「嘘ではない。早くカトリーナを殺すのだ、リーヌ。呪われた双子の片割れであるお前なら、ヤツの魔力にも対抗でき……っ――――、ぎゃぁああ――――――っっっ!!」

 言葉の途中で長老が絶叫を上げる。

 逸らしていた視線を長老に向けると、私に向かって伸ばされていた手が、肩の辺りから消えていた。

 風の精霊による鎌鼬だ――半ば麻痺した頭で、そう認識する。

 そして、そんなことをしたのは――。

 苦痛にのた打ち回る長老を、姉は無造作に蹴り飛ばした。

「汚い手でリーヌに触らないで」

「おねえ、ちゃん……」

「……リーヌ…………ごめん、ね。ごめんね、リーヌ」

 す、と姉の両腕が私を包み込んだ。あんな惨劇を引き起こした直後とは思えぬほどの優しい抱擁。

「ごめんね、リーヌ」

 繰り返される謝罪の言葉。それは、何に対してのものなのか。誰に対してのものなのか。

「ごめんね、リーヌ。愛してる。いつまでも、いつまでも。たとえ離れたって、ずっと――」

 姉の腕が首筋に宛がわれ――

 そして、私の意識は闇に沈んだ。

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