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サラさんの魔術の講義は楽しかった。
知らないことを教えてもらえる、というのはもちろんのこと、わたしもリーヌもどんどんと教えを吸収し、互いに競い合えることが何よりも嬉しかったのだ。
魔力が外に漏れないようにと張られた結界の中で、わたし達はそれまでの分を取り戻すかのように、次々と新しい技術をものにしていった。
サラさんが里に滞在したひと月の間に、わたしもリーヌも非常に多くのことを学ばせてもらった。
それは魔術だけにとどまらず、薬草の知識だったり、最低限身を守る為の護身術であったり、読み書き算術であったりと、多岐にわたった。
もっとも、それらの講義は大人達に隠れながら行われたので、あまり多くの時間を取れなかったことが残念だった。
そして最後の日、サラさんは詠唱を必要としない魔術を教えてくれた。
魔術とは本来、呪を唱え、印を組み、解放の言葉を口にすることで初めて発動する。しかし、呪と印の代わりに大量の魔力を消費して、解放の言葉だけで魔術を発動させてしまおうというのがその趣旨だった。
普通は、そんなことはできない。やろうとしても、必要とされる魔力量が多すぎてとても術者が保たないからだ。最悪の場合、魔術が暴発する。
並外れた魔力を有しているはずのわたし達ですら、一度使えば魔力が枯渇して倒れるほどだった。
何故そんなものを教えてくれたのかと聞いたら、
「いざという時の為の切り札として」
とのことらしい。
「あなた達くらい魔力があれば、扱えるでしょう」
そういうサラさんは、無詠唱で魔術を連発しても涼しい顔をしていた。一体どれほどの魔力があるのだろう。
ともあれ、サラさんが里を去った後も、わたしとリーヌは互いを相手に研鑽を続けた。サラさんは結界をそのまま残していってくれたので、魔術の練習も問題なく行うことができた。その甲斐あってか、五年も経つ頃には、同年代なら多数相手でもまず負けないと自負するだけの力をつけることができた。無詠唱での魔術発動も、日に二回までならなんとか倒れずに使えるようになった。
そんなこんなで、わたしは少し慢心していたのだろう。
だから、事件は起こった。




