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秘密の部屋

作者: 安浦

学校の図書室。


ある一角の席は本棚に囲まれていてあまり人目につかない場所がある。


そこはまるで、秘密の部屋のよう。

松宮翼はいつもそこにいるんだ。


「胡桃?何見てんの?」


だけど松宮翼は知っているだろうか?


「いや。別に何も」


私たち、調理部がいる家庭科室からはその席はよく見えていることに。




私は、そんな松宮翼を毎日探しては、目で追う。


だけども、気のせいだろうか?

松宮翼と私はよく目が合う。



「下準備も出来たし、あとは放課後また家庭科室集合だね」


同じ調理部で仲の良い友達の明音はそう言いながら時計を指差した。


「もうすぐ昼休み終わるから教室戻ろうか」



私たちは少しだけ急ぎ足で教室に戻る。


チャイムが鳴ってしまう。


私はそんなことを考えながら廊下を歩いていると、前から松宮翼が歩いて来たのが見えた。


それだけで、自分でも恥ずかしいくらい緊張して、顔が見たいのに、見れなくて。

だけど気になって、チラリと松宮翼を見る。


それはただすれ違うだけのシチュエーション。


だけどほら、松宮翼も私の顔をチラリと見る。


また、目があった…。


「胡桃?何笑ってんの?」

「え?!笑ってないよ!」


気付かれないように。

でも私はきっと嬉しくて隠しきれていないのだろう。


私は松宮翼に恋をしている。

だから松宮翼も私と恋を始めてほしい。

そんなことばかり考えている。




放課後になり、私と明音は家庭科室に向かった。


「ねぇ明音。シナモン取って」

「はい。どうぞ」


私はボウルを片手に持ちながら、空いた手を出した。


ほら。また松宮翼はいつものあの場所にやって来る。


私はチラチラと図書室を気にしながらシナモンをかけていた。


すると…。


「ちょっと胡桃!入れすぎだよ!」

「え?!あ!ごめん…!」


松宮翼に気をとられていたとは言えるわけもない。


「よそ見してるからだ」

「本当にごめん…」


図星の私は何も言い返せずにいた。


そんな時でさえも、私は目で追っている。


松宮翼は机に項垂れたような格好で1人でいる。


本は持ってはいるけれど、適当にパラパラとめくっているだけのように見える。


藤間胡桃はここにいるよ…なんて心の中で言ってみる。

聞こえるわけないのに。


「…え?」


「え?胡桃、今何か言った?」

「いや。別に…」


松宮翼が気付いてくれたような。


いくらなんでも都合よく解釈しすぎだなと私は小さく首を横に振った。



そのせいか、私1人だけシナモンの匂いたっぷりの焼き菓子が出来上がる。


部活も終わる頃、外はもう真っ暗で、家庭科室から図書室の明かりがハッキリと見えた。


そこをチラリと見ると、松宮翼の姿も見えた。


「胡桃帰ろうよ」


今日は胸がまだいつも以上に高鳴る。


「あ、明音。今日は先帰ってて。ちょっと寄るところあるから」


私が図書室につく頃はまだいるだろうか?


急ぎ足で図書室に向かい、私は一度大きく深呼吸をしてから図書室のドアをガラリと開けた。


図書室はしんとしていて、一見、人はいなさそうに見える。


私はゆっくりとあの場所へ歩く。


しんとした空間に時計の針の音が無駄に私を緊張させていく。


私は、カバンを持ちかえ、松宮翼のいるであろう場所に一歩踏み出そうとしたときだ。


「…シナモンの匂い」


始めてまともに聞いた松宮翼の声にドキドキせずにいられない。


私はひょっこりとその場所を覗いてみた。


そこには松宮翼がいる。


「…あ…部活で焼き菓子を作ったんだけど…シナモン入れすぎちゃって…」


始めて会話をする。


「へぇ。うまそー…」


松宮翼はそう言ってニヤリと笑う。


「美味しくはない…かも。失敗しちゃったし…」


どうしたらいいの。

この心地よい苦しさは。


「シナモンとか、胡桃とかなんか美味そうなもんばっかだね」

「えっ…え?!」


一瞬、時が止まったようなそんな感覚。

私をじっと見てその目は離さなくて。


「…藤間胡桃。でしょ?」


始めて名前を呼ばれて。


「ま、松宮翼くんはどうして昼休みや放課後はここにいるの…?」


私の中では思いきった質問だ。

何でそんなことを知っているのかと思われてしまうかもしれないのが少しだけ怖くて。


「あっ…なんか…家庭科室からよくここが見えるからそれで…」


それで…


私はなかなか言葉が出てこない。


「それで、松宮翼くんが見えて…」


松宮翼は頬ずえをつきながらフッと小さく笑った。


私は緊張して、震える寸前なのに、その瞬間の松宮翼の前髪がサラリと揺れて、私はドキッとしてしまう。


好きって言ったら、松宮翼はどんな顔でどんな言葉を言うのだろう。


「藤間胡桃さんはいつも何を見てる?」


松宮翼の言葉にドキッとする。


少しずつ、気付かれないようにちょっとずつ松宮翼に近付いてみるよ。


だけど、松宮翼はまたニヤリと笑って言ったんだ。


「シナモンの匂いが強くなってる」


もう、私の顔はどんどん赤く染まり、恥ずかしくて消えたいくらい。


だけど。


「ずっと見てたでしょ?」


隠しきれない気持ちが溢れている。


「胡桃。こっち来て」


心地よい松宮翼の低い声に酔いしれて。


だけど私は躊躇してしまう。


「…大丈夫」


松宮翼は私の手をぐっと強く引っ張った。


「ここ、秘密の部屋だから」


そう私の耳元で話す松宮翼に、私は倒れそうな自分の体を松宮翼に預けた。


「ずっと好きでした」


シナモンの匂いがする秘密の部屋で、私たちの恋が始まっていく。



最後まで読んでいただきありがとうございます!!

久々に書きました…何か久々で(;-_-+

これは何となく目があう人…それが一方的な勘違いではないのが前提の恋物語です(笑)

そしてあまり人目につかない場所…そこがポイントにしたかったのです(* ̄ー ̄)

また宜しくお願いします!!

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