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最強文豪-ただの作家に興味はない-  作者: 倉敷(クラシキ)
8/20

命懸けの脱走劇3



振り上げられたナイフが怖くて目を閉じた。





ただでさえ物騒なところだ。





良くて切断、最悪ミンチだろう。






ああ、ミンチと言えばお隣さんから頂いたミンチ、もう腐っていたかなあ。






人は本当にピンチになると、なんとも阿呆なことしか考えられないらしい。






豚や牛が無性に可哀想に思えてきた。








しかし、痛みが走るどころか、なんともないのだ。





これは、もう既にあの世へ行ってしまったということだろうか。





恐る恐る目を開けると俺の前にサギが立っていた。





向きは、枯草の方を向いている。







「枯草。なにしているの?」






「・・・脱走をしようとしていたので、呼び止めました」







「うん、そっか。じゃあ、その剥き出しのナイフは何?」







「こ、これは・・・」








「それに敷地とはいえ、俺はお前にその義手を隠せと言っているよね?」








「はい・・・」









そう言い終わる前に、サギは枯草の脇腹を力いっぱい蹴りあげた。








「がはっ!ゲホゲホ!」








跪き、苦しそうに呻く枯草にサギはもう一発蹴りを入れた。








見ているこっちが苦しくなる光景だ。







「さてっと」








サギがぐるんとこちらを向いた。








ナイフから逃げられて、安心している場合ではなかった・・・








次は間違いなくこっちだ。







サギが近寄ってくるが俺は腰が抜けて動けない。







どうしよう・・・。枯草が脇腹だったのだから、俺は頭か?それとも顔か?






それとも拳銃で撃たれるのか?







恐怖で吐き気がする。









サギが自分の目の前まで来た瞬間







俺の頭は恐怖のあまりスイッチが切れ、ブラックアウトした。












ここはどこだ?






ああ、海だ。






夜の真っ暗な海の見える海岸。なんだかとっても懐かしい。







俺は泳げない。カナヅチというやつだ。






足からブクブクと沈んでいく。







それは家系的なものなのか、家族全員カナヅチだったので海に行くこともなかったし、ましてや友達といえた人間がアウトドアな場所に行くわけがない。







でも、なんだかこの光景は懐かしかった。







明るい青い海ではなく、夜の暗いヘドロのような重い海。








ここで、俺はあいつと出会った。








・・・あいつって誰だ?











瞼に重たい糊が張り付いている感覚。






そしてゆるゆると意識が現実に戻される感覚。





俺はゆっくりと目を開けた。






天井は俺の知っているボロボロの感じではなく、美しい高級そうな模様。






そこがどこかは一瞬では理解できなかったがサギの大きな瞳がこちらを見つめている姿に俺は寝室にいるということがわかった。








「貴生川さん」







「・・・俺どうなった?」







「あの後、俺が近づいたら貴生川さん卒倒しちゃって、


                  ここまで運んできてもらった」







「そうか」







「貴生川さん、脱走は無理だよ」






「・・・わかってる」







というか今回でよくわかった。





この中には俺を良く思っていない奴は平然と殺しにくることを。





そしてサギがこの中でかなりのポジションに居ることも。









「貴生川さん、新作楽しみにしてるから」







サギはそう言うと痛い笑みを見せた。





笑っているけれど泣き出しそうなそんな表情。





新作を書かせたいのは、もしかしたらコイツの気まぐれではなくて、もっと深い「何か」があるのではないだろうか。








「ま、もう少しゆっくり休んで」







俺は読書しているからと、サギは本を開いた。








それは、俺の処女作であった。


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