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最強文豪-ただの作家に興味はない-  作者: 倉敷(クラシキ)
2/20

優雅な作家活動1

六畳一間の何の変哲もないアパート。


そこで空を見上げ、ぼーっと一般人とは違う時間を生きている感覚が嫌いではなかった。





例え金は無くても、時間はある。慎ましくというよりもはや貧乏を極めた生活を送っていくのは俺には苦ではなかった。





俺くらいの年齢だと家庭を築き、マイホームを持ち、午前出社し、午後に帰る。そんなサラリーマン生活をしていてもおかしくはない。





ところがどうだ。現実ときたら、家族どころか彼女も居ない。


言い寄ってくる女が居なかったことはないが、作家という肩書きに何か夢を見ているだけの目がキラキラした、めでたい女ばかりで相手にする気も起きなかった。






マイホームは独り身の男には孤独を増す為の屋敷でしかなく、家賃の安いアパートに住んでいる。住宅展示場にはあまりにもひもじい時にメロンパンが食えるという謳い文句に釣られて行ったきりだ。






午前も午後も関係ない。俺が起きたい時間に起き、寝たい時間に寝る。これはもはや人間として「終わっている」と言われてもおかしくはない。






「落ち着かない」






気がついたら独り言を言っていた。


かつての家に思いを馳せて。


そう、今はあのアパートにはいないのだ。


高級な調度品に、ふかふかのソファ。全体が大正ロマンを感じる何ともセンスのある場所で俺は今、小説を書かされている。







ことの発端はあの青年、サギがやってきた日に遡る。








「俺はサギ。闇社会に生きる人間だ。」


青年は屈託のない笑顔で自己紹介をしてきた。


しかもなんとも信じられない設定付きで。





しばしの沈黙が流れる。


それは俺の理解を待つ時間だった。





「えっと・・・詐欺師さん?」





結果行き着いて発した言葉がこれである。





「詐欺師じゃないよ!サギは名前!」





少しコケる様な仕草をしてサギはツッコミを入れた。





「えっと、それじゃあ外人さん?」





自分の思考には限界がある。自分の理解できる範囲にしか物事は考えられない。必死に頭を働かせて出る答えは俺が一般人だということを再認識させられる。






「ううん。仮名というか偽名というか」





サギというのが名前だとようやく理解したのに彼が言うには本名じゃないと来た。






「でも、貴生川さんも一緒のようなものじゃないか。作家さんは偽名のことをペンネームって言うのでしょう?」





なんてすごい間違いを。ペンネームと偽名は彼にとっては同じものらしい。






「それで、君は俺に何の用だ?」





怪訝そうに聞いてみると





「うん、俺、貴生川さんのファンで新作を楽しみに待っていたんだけれど、


いつになっても貴生川さんは新作を出さない。」





それがどうしたと続けるとサジはにかっと笑いながら





「だから、貴生川さんに新作を書いてもらう為にここに来たんだ。」





と俺の方を向いて言った。


何を簡単な風に・・・言ってくれる。






「あのな、新作が見たいっていうのは分かったが、だからって作家の家に来たところでまず不法侵入だからな!警察に言ったら君は確実に捕まる。」






大人を舐めるなと言う思いを込めて脅しをかけてみたが、彼は表情ひとつ変えることなくこちらを向いている。






「あのね、貴生川さん。俺はちゃんとノックして入ってきたよ。それで貴生川さんは開けてくれたじゃない。これって不法侵入でも何でもないよ。」






わかった?とでも言いたげにサジはこちらを向いてくるが、ここで馬鹿にされてたまるか。







「百歩譲って君は違うとしても、その後ろにいる黒ずくめの男たちは明らかに不法侵入だろう?」







ここで引き下がったら大人としていけない気がした。






「ああ、こいつらは俺のモノだから。モノが不法侵入だなんておかしな話だね。」






「・・・モノ?」







この青年の思考は某マンガのガキ大将か何かなのだろうか。






「とにかく、これからは俺が貴生川さんが新作を書けるようにサポートするから!安心して着いてきてよ」






そう言うとサジは俺の腕を引っ張った。


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