ウサギとカメ(もうひとつの昔話3)
ウサギはカメとのレースに敗北しました。
――カメなんぞに、オレが負けるわけがない。
レース中に昼寝をしてしまうなど、どう考えてもおかしいのです。
――そうか、あのスペシャルドリンクに。
給水用のドリンクに、おそらく眠り薬がもられていたのだろう。
――くそー、カメのヤツめ。
翌日。
給水用のドリンクなしで、ウサギはレースのやり直しをカメに迫りました。
カメは大いにこまりました。
そこで、カメは神様のもとを訪れました。
「神様、お願いします。ウサギよりも速く走れるようにしてください」
「よかろう」
神様はカメの願いを叶えてやりました。
と、そこへ。
ウサギもやってきます。
「神様、お願いします。カメよりも速く走れるようにしてください」
「よかろう」
神様はウサギにも願いを叶えてやりました。
「神様、これではおかしなことに。わたしがカメよりも速く、カメがわたしよりも速いだなんて」
「そうですよ、どう考えても理屈に合いません」
ウサギとカメが矛盾を突きます。
「ワシは万能の神である。できぬことはなにひとつとしてないのだ」
神様が、走ればおのずとわかると言います。
ウサギとカメは、疑念をいだきながらもスタートラインに立ちました。
「レースに不正が起こらぬよう、カメや、オマエは右まわりに走れ。ウサギや、オマエは左まわりに走れ。山を一周するのだから、走る距離は変わらぬ」
「わかりました」
ウサギとカメは反対の方向に向きました。
「どちらが先にもどってくるか、ワシがこの目でしかと見届けてやろう」
こうして……。
神様が審判をすることになりました。
「よーい、ドン」
神様の号令で、カメは右方向に、ウサギは左方向に全速力でかけ出しました。
ここからのレースのようすは、万能なる神でなければ説明できないので割愛させていただく。
とにもかくにも。
カメはウサギよりも速く走った。
ウサギはカメよりも速く走った。
ウサギとカメは不条理を背負い、パラドックスをかかえて走り続けた。
そして。
ウサギとカメは山を一周して、ついにスタート地点までもどってきた。
カメよりも速いウサギ。
ウサギよりも速いカメ。
この命題、神様はいかに解決なされるのか。
ゴールイン!
はたして勝ったのはどちらなのか。
ウサギか、それともカメか。
神様の審判は?
審判員の神様、ゴールイン地点でのんびり昼寝をしていたのでした。