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集まってきた証拠と真実


翌日―― 現場


早朝、鳥の歌声がとても心地の良い朝、警察のテープを潜って薄暗いビルに潜入した4人は1階でヒソヒソと話し合っていた。


「要、まずはどこに行くの?」

「うん、ちょっと見たい所があるからそこを見て、屋上に行ってみる」

「分かった」と3人は頷いて、要が静かに動き出した。


その後を3人は追う。

要が足を止めた場所は、2階の、ある窓の前だった。

その窓は、隣のビルがすぐそばにあるため、薄暗かった。

そのビルとの間は40㎝程度の狭いものだが、反対側の窓の隣は通りなので比較的明るく、1階だったら歩いている人が見える。


「これ見て」


要がそう言って指差した部分を見ると、窓の桟に〝あるもの〟が残っていた。

このビルは使われなくなって長い。

不良が夜に溜まり場にしているから、床のホコリは足跡だらけ。

しかしビル側のすべて窓には触れられた形跡が無い。

なのに、そう、そのホコリまみれの窓のさんだけに 足跡 が残っていたのだ。


その足跡を要に言われて、あかねがデジタルカメラで数枚撮った。

あかねが撮り終えると、要はリュックの中からアルミニュウムの粉末が入った小ビンを(理科室から少量くすねていた)取り出した。

さらにリュックから紙皿を取り出して、そのアルミニュウムを盛った。


「何やってるの?」


何の作業をしているのか解らないあかねは不思議そうに要に尋ねた。

要は小さく「見てのお楽しみ♪」と言って新品の筆をパッケージから取り出した。

ちなみ秋葉も由希も何をしているのか分からないらしく、怪訝そうに要の指先を見つめていた。


要はアルミニュウムの粉末を筆にポンポンとつけると、あかねに「ちょっと持ってて」と言って筆を渡した。

そして窓のサッシと桟の間くらいに足をかけて、窓際に立った。


「ちょ、ちょっと危ないわよ!」

「おい要!」

「要ちゃん!」


3人の焦る声を大幅に無視して、要はくるりと体制を変えた。

窓枠に置いた左手を支えに、部屋から外に体を出す。

そしてそのまま上を見上げた。


「届くかなぁ?」


呟いて、中腰になって部屋の中を覗いた。


「あかね、筆」


言われたあかねは、渋々要の手に筆を渡した。

心配そうに一言告げる。


「大丈夫? 何するか知らないけど、落ちないでよ?」

「うん。ありがとう」


素直にお礼を言った要に、あかねは「あら、めずらしい」と少しだけ驚いた。


「別にめずらしくないじゃんよ~」


ぶつくさと呟きながら、要は3階の窓に手を伸ばした。

しかし、あと3cm、今一歩のところで届かない。


「仕方ない……」


残念そうに呟いて、要は部屋に戻った。

床に足をつけた瞬間、ほっとした表情を見せたが、それよりもほっとしていたのは本人よりも、残されていた3人だった。


「も~!心配したじゃない! 何してたの?」


例の如くあかねがお母さんのように要に問いただし、お父さんのように秋葉が「そうだぜ?」とどっしりと構えていた腕や足を緩めた。


「うん、結局あたしじゃ届かなかったから、3階行きましょ」


また例の如く、曖昧にぼやかした要に「もう!」とあかねと秋葉はため息をついてくるりと方向をかえて、階段に向かった。


後からついていこうとする要の背中が、突如誰かに押されたように前に飛び出し、要は前のめりに転びそうになった。

うまく手で転倒を防いで振り向くと、由希が片足を微妙に上げて立っていた。

どうやら由希に蹴られたようだ。


「あんま勝手に危ない事しないでよね。あんたがケガしたら、美奈が悲しむでしょ!」


そう静かに怒りを滲ませるように言って、由希は歩き出した。

そんな由希を呆然と要は見送って、呆然とした表情のまま呟いた。


「いやぁ……あたしって幸せ者だね」


言ってからニシシと嬉しそうに笑う。

そしてダッシュして由希に追いつき腕を取った。


「由希は?」

「は?」


怪訝に聞き返した由希に、要はにやりと笑って言った。


「由希は悲しんでくれるのかなぁ?」

「……知らねぇよ」


そう呟くように由希が言って、悪態をつくと要はにやりと笑った。


「あっ! 照れた~! 由希って照れると口悪くなるよね~! あははは! て・れ・た♪」


要がそうちゃかしながら由希のほっぺたを突っつくと、由希は眉間にシワを寄せて要の背中を バン! と強く叩いた。


「痛っ!」


小さく要が悲鳴を上げると、由希は「ふんっ!」と鼻をならして歩く速度を速めた。


「も~う、照れ屋さん♪」


嬉しそうに要は言って、由希の後を追った。



要が3階につくと、早速あかねが「遅い!」と怒鳴った。


「はいはい、ごめ~んね」


軽く要は謝ると、あかねは「もう!」と息をつく。そんな2人のやり取りを無視して、秋葉が要に訊ねた。


「なあ、3階のどこにいくんだよ?」


3階のフロアも2階と同じように、広いが何も置いていない、窓しかないフロアだった。

そのフロアを迷わず要は進む。


「確かこの辺かなぁ?」


独り言を言いながら、ある窓の前で止まり、窓を開けて下を覗いた。


「ああ、ここだここだ!」


言いながら顎に手を置いた要に、あかねが言う。


「ここって、もしかして、さっきの窓の真上じゃない?」

「うん、そうだよ。さすがあかね」


あかねを称えて、要はもう一度下を覗いた。

それからリュックからもう一度アルミニュウムと、紙皿を取り出し、筆ペンを握った。

その筆ペンにアルミニウムの粉末をつけると、窓を開けて身を乗り出すようにして、下に向かって手を伸ばした。


後ろであかねの狼狽した声が聞こえたが、要はそれを無視してポンポンとビルの壁にアルミニウムを塗っていく。

それが終わったら、身を乗り出すのをやめ、窓の外側の桟を塗っていった。


「何やってんのよ?」


訳が分からずにあかねは呆れたようにため息をついた。

そんなあかねを「まあまあ」と秋葉がなだめ、由希はじっと要を見ていた。

全てを塗り終わると、要はその手を止めて振り返った。


「ちょっと、これ見てくれる?」


要に下を見るように促された3人は「これ」と言われた通りに要の指の先を見た。

そこには白く指紋が浮かび上がっていた。

その指紋は2階から3階の間の壁に上にのぼってくるようにして点々と数か所についていた。


「あと、これもね」


示された場所は窓枠の桟で、そこにはまるで外からしがみ付くような指の形で、指紋が残っていた。


「あかね、指紋全部撮っておいてくれる?」

「わ、わかった」


言われたあかねは写真を撮るために身を乗り出した。

そんなあかねの後ろに回った要に、由希がぼそりと声をかけた。


「あれって、指紋取るためのもんだったんだね」

「うん、そうだよ」

「一言、言えば手伝ったのに。ウチ、要のそうゆうところ嫌いだな」


呟くように言って由希はあかねの側に寄っていった。

由希の言葉に、内心ちょっと傷ついた要は下をむいた。

その要の肩にズシッとした重みが乗りかかった。


パッと顔を上がると、目の前に秋葉の顔があった。

秋葉は要の肩に腕をまわしていた。

そしてニカッと笑う。


「お前って、本当に完璧主義者な」

「は?」

「なんでも自分でやんなきゃ気が済まない。秘密主義なのは、実はそうゆうことだろ? 悩みがあっても、自分で解決するまでは人には言わないとかな」


要は今まで微塵も自分を完璧主義者で、自己完結型だと思ったことはなかった。でも、なんだか図星を突かれたような思いがした。

要はじっと、秋葉を見据えた。


秋葉はいまだ窓の外の指紋と格闘しているあかねと応援している由希を見つめながら、呟くようにして切り出す。


「でもなぁ……頼ってくれない……相談してくれないってのは結構キツイもんなんだぜ? 周りの人間はさ」


言って、要をふり返りニカッと笑った。

そしてそのまま窓に向かった。

秋葉があかねを「まだ終わってねぇのかよ」とからかい。

あかねは「うるさいわね!ちゃんと撮りたいのよ!」と怒鳴って、それを由希が苦笑しながらなだめる。


そんな光景を要は見ていた。

そして口角をゆっくりと上げる。

嬉しいような、切ないような、申し訳ないような、そんな気持ちになった。

そして思う。

ここに、美奈がいたらな――と。





その後4人は屋上へと向った。

カンカンカンと音が響く階段を上ると、ギイイーと嫌な音をたてる古びた扉を開け、広々とした屋上に出た。

要は一にもニにも呉野が落ちた場所を探した。


下を覗きながら、落下地点と重なる場所を探し出した。その場に立ち止まると、唇に手を当てて何かを考え始めた。

そんな要を3人は静かに見つめる。


「う~ん……」うなり声を上げた要にあかねが「何を探してるの?」と問いかける。


「もしかしたらあるかなぁ? と思ったんだけどね」

「何が?」

「呉野幼子のダイイングメッセージ! 誰かに突き落とされたんなら、何か残してるかなぁと思ったんだけどね~」


言って肩をすくめると、由希が


「殺人未遂の場合にもダイイングメッセージって言うの?」


と、誰にも聞こえないように独り言のようにぼやく。

要はそのぼやきにわざわざ答えた。


「さあ?」


すると、あかねはキョロキョロと由希と要を交互に見た。


「え?何?由希何か言ったの?」


問われた問いには答えずに、由希は顔を引きつらせながら、ぼやく。


「……要ちゃんって、本当に耳が良いんだね……」


そのぼやきにたいしても要はわざわざ返事を返した。


「まあね」


そんな2人を不思議そうに見て、あかねは話を変える。


「まあ……無かったんなら帰りましょうよ。あったとしても、警察が持っていちゃってるわよ」


あかねがそう言って、あかねと由希は屋上を出た。

要は渋々2人の後を追う。秋葉も要の後を追おうと歩き出そうとした、その時目尻の辺りに、白い何かが映り、それが気になった秋葉は顔を左に向けた。

すると秋葉の目は完全にその白い物体を捉えた。


それは紙のようで、屋上の出入り口の壁が一部剥がれ落ちていて、その部分に埋め込まれていた。


「おい、何かあるぜ」


呟くように秋葉が言うと、すでに階段を下りている要の耳がピクリと動いた。

その頃秋葉はクルクルに巻かれたその紙を、慎重に取り出した。

中身を開いてみる、と同時に要が勢い良く屋上の扉を押し開けた。


「何見つけたの!?」


かなり興奮気味の要に気圧されながらも、秋葉は答える。


「いや、まだ見てねぇから、何かは分かんねぇけど……」


するとそこへ由希とあかねも戻って来た。

3人はコレを見つけた経緯を聞くと、4人で目線を合わせてから、その紙を秋葉が開いた。


その紙には、こう書かれていた。




 二階のかい堂ゆくと中、学ぶこともおおかれど。

 陸にうちあげられた、うつくしひ貝をひらうごとく、高みをみるならば。

 南にゆかん、さすれば春にであひ、枝にはなありけり。

y。 

            k・s・k・r・k・d。

              



「なんだこれ?」

秋葉が始めにそう呟いて、首を傾けた。

続けてあかねと由希も首をひねる。


「さあ? おみくじかなんか?」

「……なんだろうね?」


すると、要は顎に手を当てて

「ふうむ……」と悩んだ後「これってさぁ……」とあかねに向かって切り出した。


「普通に訳したらどういう意味になる?」

「う~ん……多分だけど、二階にある会堂にいく途中にも学ぶ事は多いけど、美しい貝を拾った時のような心の美しさが欲しいなら、南にいけ。そうすれば得られるだろう。みたいな意味だと思うけど……」


不安そうに唸りながら答えたあかねに、秋葉が珍しそうに笑った。


「なんだよ。歯切れが悪いな」

「だって、仕方がないじゃない。会堂のかいは、ひらがなだから本当に会堂で良いのかも分からないし、そもそも、二階のかい堂ゆく途中っていう文も、陸にうちあげられた、うつくしひ貝をひらうごとく、高みをみるならば。っていう文も何だかおかしいし……」


お手上げ! と言うようにあかねは片手を軽く上げた。

すると秋葉が難しい顔をして、あかねに訊ねる。


「つーかさ、そもそも会堂ってなんだ?」


「会堂っていうのは、集会に使うための建物や、キリスト教の教会堂のことよ。この場合、後者のことを指してるんだと思うわ」


ほう……そうなのかと、秋葉が納得する前に、要が先に呟いた。


「なるほどねぇ」

「おいおい、俺のセリフ取るなよ」


秋葉が苦笑いしながら要に突っかかると、頭をひねっていた由希が口を開いた。


「ねえ、なんで最初に『 ゑ 』ってあるんだろうね? それに、丸をうつ場所おかしくない?」


秋葉の持っていた紙を見つめながら、そう言う由希を3人は、はっとした顔で見た。

あかねが「確かに!」と歓喜するように言って、続けた。


「『おおかれど』や『みるならば』の後なら、点で良いはずだものね」

「そうだな……なんでわざわざ丸で区切ってるんだ?」


秋葉がこれに同意すると、秋葉の拳を目掛けてにゅるりと手が伸びてきた。


「おおっ」小さく驚くと、その手は秋葉の持っていた紙を、ひょいと取った。

その手は要のものだった。

秋葉は目を丸くしながら、要に文句を言うと、要は悪びれたようすもなく、ごく軽い感じで謝った。


「ごめん、ごめ~ん」


そしてそのまま、掲げるようにしてその紙を仰ぎ見た。

要が押し黙る事、数分。

沈黙を破るようにして、要の口から力強い言葉が放たれた。


「――解った!」


その言葉に、3人は驚いて目を見開いた。

要は3人に向き直って、紙を見せた。


「これ、まず『 ゑ 』ってあるでしょ? これって今の言葉で『 え 』って意味だよね?」

「そうね」


当然でしょ? というようにあかねが頷く。

そんなあかねを試すように、要は切り出した。


「でも、もう一つ意味がある……それはなにかな?」

「……え? なに?」


不安そうに戸惑うあかねに、要は指を差し出した。

そして鬼の首を取ったかの如く、胸を張って答えた。


「――ひらがな、だよ!」

「――はああ!?」


これにはあかねだけじゃなく、秋葉も由希も呆れ返った。

しかし、要は冷静に続ける。


「まま、落ち着きたまえよ。この『ひらがな』ってのが重要なんだよ」


この言葉をうけて、3人は不信感たっぷりな視線を要に送りながら、秋葉が切り出した。


「どういうことだ?」

「二階のかい堂ゆくと中、学ぶこともおおかれど。

 陸にうちあげられた、うつくしひ貝をひらうごとく、高みをみるならば。

 南にゆかん、さすれば春にであひ、枝にはなありけり。

 この文章から、ひらがなを全部取ったらなにが出ると思う? 

 ああ、そう! 丸があるところで区切ってね」


「えっと……」


3人は一斉に考え始めると、一番初めに口をとがらせるようにして、あかねが答えると、由希、秋葉と続く。


「二階堂中学」

「陸貝高」

「南春枝」


言って3人は、はっとするように互いの顔を見合わせた。


「二階堂中学は学校名。たぶん陸貝高は高校名。南春枝は――」

『人物名!?』


要のセリフを取るようにして3人は一斉に吠えた。

3人の興奮を冷静にいなすように、要は続ける。


「だと思うよ。それでね……二階堂中学に通っていた生徒がさ、うちの学校に一人だけいるんだよねぇ……」


その言葉に3人は驚いて息をのんだが、質問したのは秋葉だけだった。


「え!?誰だ!?」


要は3人を手招いた。

輪になってひそひそと、ある人物の名を耳打ちした。

その名に、あかねは目を見開いて呟いた。


「――え?」


あかねのこの小さな呟きは、廃れたビルにこだましたように感じられ、要は哀しげに小さく笑った。



…… …… ……



自宅につくと、要はインターネットで二階堂中学と陸貝高校を調べた。

『南春枝』でも検索してみたが、ヒットはなかった。


本音を言うなら、学校のデータベースなどにハッキングして南春枝の顔や住所を調べておきたかったのだが、帰り道の途中であかねに「違法捜査は――?」とクイズのように聞かれ「ダメよ☆」なんてノリで答えてしまったがために「じゃあ、今回は違法はなしよ」と念を押されてしまったため、調べられない要なのであった。


「あ~あ、ノリであんな約束するんじゃなかったぁ」


そう呟きながら、心の中でふと思う。


(……あかねも段々あたしの扱い、なれてきたか――?)


とりあえず調べて分かった事は、二階堂中学も陸貝高校も、この街から遠く離れた県外にあること、もしも行くとしたら、電車で4時間はかかる事だけだった。


「クソぅ」


要は小さくそう悪態をつく。

そこに、玄関のドアが開く音が聞こえた。と、同時に想一郎の低い声が響く。


「ただいま~」


要はパソコンデスクから離れると、自分の部屋のドアを開けて覗いた。

すると、想一郎が靴を脱いで揃えているところだった。


「おかえり~」


要が部屋のドアを閉めながら言うと、想一郎は鞄からファイルを取り出して掲げた。


「おみやげ~」


言って、要の頭にファイルを押し付ける。


「むう」


少しほっぺたを膨らませながら、ファイルが落ちないように押さえつけて受け取ると、要はファイルの中身を取り出した。

その紙の印刷面にはこう書かれていた。



――指紋、および血液検査結果――



「おお~!!」


早速要は嬉々としながら次のページをめくった。

そこには、要が思ったとおりの人物の名前が「一致」となっていた。


――血液・日吉淳子・99%一致――


(やっぱり、あの血は日吉先輩のものだったのね)


要は確信を胸にしまいながら、次のページをめくる。

するとそこには指紋検査結果の文字があった。

要は滑らせるように文字を読んでいく。


――吉原要・95%一致――

――藍原美奈・99%一致――


そこまで読んだところで、要の目が留≪と≫まる。

次の人物名に、時を奪われた。

しばらく書類に目を釘付けにして動こうとしない妹を気遣うように、声をかける想一郎をことごとく無視して、要は口の端を歪めた。


――やっと、尻尾を掴んだ!


(……あとは、決定的な証拠、証人がいる。これは是が非でも、南春枝に会ってみなくちゃね!)



自分の世界に集中している妹に、想一郎は話しかけた。


「お前さぁ、いきなり職場来るなよ。今日突然来て兄ちゃんびびったじゃん。要は可愛いんだから、目つけられたら俺超ヤダし」


無視される覚悟で言ったが、以外にも返答があった。


「だって、必要だったんだもん。――てゆうか、キモイ」


ふてぶてしく言った要に、想一郎は、はあ――と長いため息をついて今日の妹の言動を叱った。


「あのなぁ――突然来て「この指紋も調べろ!」って言われた時の俺の気持ちを考えてくれよ? この前の指紋検査も血液検査もバレずにやるの大変だったんだぞ。まあ、この前渡された指紋の中に該当する人物がいたから、すぐに誰のか解ったけどさ」

「ありがとう、あに」


ぶつくさと言う想一郎に、要は軽くお礼を言って、意気揚々と部屋に戻った。

その姿を、想一郎は疲れた様子で見送った。




…… …… ……



一週間後――

「何だかなぁ……。もうこんなお守り意味無いかもねぇ」


放課後の廊下で要がぼやく。


「そうよ。結局あの紙の彼女もいなかったし、あれはただのイタズラだったのよ。さっさと捨てちゃったら?」


あかねがそう勧めると、秋葉も便乗した。


「そうだぜ。ただ落ちてて血がかかっただけかも知んねぇし、何か縁起悪いと思わねぇか?」

「でもねぇ、もしかしたらって事もあるし」

「でも、要ちゃん、いつまでも、こだわってても……」


おずおずと由希が言うと、あかねは息巻いて言う。


「そうよ、由希の言う通りよ。いつまでもこだわっていると真実が見えない事もあるじゃない!」


あかねの後押しがあって、要はうんと頷いた。


「……だね! じゃあ、これどうする? 捨てる? でもさ、捨てるのも、何か罰当たりな気がしない?」

「するわね……確かに」

「……うん」


要の意見に賛同した3人は、要と共に「う~ん」と唸りながらどうするかを考えていた。

すると、秋葉が「あ!」と大声を出し、驚いている3人の顔を見つめてから提案をする。


「『捨てる』んじゃなくて、とりあえず『保管』しておいたらどうだ? もしかして、また使う時があるかも知んねぇじゃん」

「そうね、確かに。でも、どこに隠すの?」


あかねの質問に秋葉はこう答えた。


「そうだな……時計塔の中とか」

「それ良いかも!」


要が息巻いて賛成すると「そうね」「うん」と賛成の声が上がり、お守りは時計塔の中に隠されることが決定した。

それから15分くらいして、要達が時計塔から周りを気にしながら出てきた。

階段で疲れたのか、要とあかねは息を切らしている。


「きつ!」


愚痴をこぼしながら要達はその場を去った。

しかしその姿を、ひっそりと木の陰から見ている者がいた――。



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