倶楽部発足
「おっしゃ!クラブ申請終わり~!やっぱ生徒会役員が友達にいると助かるわ~!」
「まあね!」
「たまには役に立つんだな」
「アンタねぇ!一言多いって言ったでしょ!?」
「ああ、ハイハイ」
あかねがガナリ声を上げると、秋葉は適当に受け流して耳を塞いでそっぽ向いた。
その姿を見た要は珍しそうにまじまじと秋葉を見てこう言った。
「あら、珍しい。痴話ゲンカしないの?」
『誰が痴話ゲンカだ!?』
二人に一斉に怒鳴られた要は「おお怖っ!」と視線を外した。
「それにしても、明日には第二資料室が【怪事件捜査倶楽部】になるのねぇ!楽しみ!」
「あの教室ならあんまり使ってないから片付けるの楽よね。でも要、捜査倶楽部って器具なにいるの?」
「それはあたしにまかせて!ちゃんと一緒に申請してきたし!」
「そう」
「明日には全部そろってるはずよ」
(本当はこんなに早く申請完了したり器具がそろったりしないんだけど、やっぱりあかね引っ張って成功ね!生徒会権力恐るべし!ってね)
心の声を口に出しそうになりながらも、ニヤリと要は微笑んだ。
…… …… ……
そのまま要が家に帰ると、ソファーに青年が座っていた。
彼の名前は【吉原 想一郎】要の兄だ。
要は彼の事を「あに」と呼んでいる。
「あに~。今日仕事は?」
「ただいまが先だろ?今日は非番なんだ」
振り向いた兄は中々の美青年だった。
「何だ、聞いてないよ?ただいま」
「おかえり。だって言ってないもん。せっかくだからビックリさせてやろうと思ってな!帰ってからお兄ちゃんがいたら嬉しくてビックリするだろ?」
「全然ビックリしないんだけど。むしろあにの頭の悪さにビックリ!」
そう返しながら冷蔵庫からオレンジジュースを取り出すと、想一郎はがっくりとうな垂れた。
「なんだよ~!二人っきりの家族なのに、要なんか最近冷たくない?」
「そのシスコンなおしてくれたら、優しくしますよお兄様」
「俺はシスコンじゃないぞ!言っとくけど!要が可愛くてしょうがないだけだから!!」
「……じゃあ、その可愛い妹が彼氏連れてきたら?(いないけど)」
「殺す!!国家権力を持って亡き者にする!」
本気で答える想一郎を呆れてみながら、要はため息をついた。
(この人本当に捜査一課の敏腕なのかなぁ?全然ダメダメじゃん!つかそれがシスコンなんだっつの!!)
心の中で毒づいた要に「あっ、そうだ」と想一郎は話しかけた。
「お前の学校の死んだ子いたじゃん、あの……何だっけ、高橋さんだっけ?」
「高村!で、なに?」
「その高村さんさぁ、事故って警部が判定しちゃったんだけど、俺違うと思うんだよねぇ……」
「なんで?」
「不審な点が何個かあるんだよ。まあ、もう終わったことだけど」
「何であにはそうやってヤル気ないかなぁ?もっと本気出したら?」
「お前だってそうだろぉ?」
「あたしはいつでも本気だよ!」
そういいつつも、飄々としているところとか、いい加減で気まぐれなところとか、そっくりな二人だが、要は絶対に認めないだろう。
「捜査するの?」
「しないよ。断定されちゃったもん。断定して発表しちゃったら、警察は間違ってたって解っても動かないよ。恥かくのお偉いさんだもん」
「ドイツもコイツもなさけないなぁ……」
要はそうぼやいて、ある事を思いついてにやりと密かに笑った。
――翌日。
早朝、要とあかねと由希は校舎へと続く桜並木を歩いていた。
もう9月も後半だというのに、蝉がまだミンミンと鳴いていた。
「おはよう」
突然後ろからあいさつをされ、三人は一斉に振り向いた。
「あれ?榎木先輩」
榎木は名前を呼んだ要を見ると、ニコリと微笑んだ。
「おはよう吉原さん」
「あたしの名前をご存知なんですか?」
「ええ。あなたは色々と有名だから」
また二コリと微笑むが、多少嫌味が入っている言い方だった。
「『吉原の情報網に引っかかったら、小さな秘密から大きな秘密を暴き出す』って私達の学年でも有名なのよ」
「そうですか、それは光栄ですね」
そう無表情で言い返す要の顔を見てから、続けた。
「沢松さん、あなたも有名よ。一年で生徒会書記、生徒会長にも期待されてるみたいね。澤田さんもバレー部でレギュラーみたいだし……何かすごいわね」
(完全に嫌味だなぁ、こりゃ。やっぱ性格悪いね、この人)
(嫌味ね!ヤナ感じ!)
要とあかねが「嫌味だな」と個々で感づいたなか、由希だけは全然別の事を考えていた。
(……わたし、挨拶返してないんだけど……大丈夫かなぁ?)
そんな事を考えた時、由希は何かに気づいたように目を細めて榎木を見つめた。
数秒榎木を見つめた後、驚いたように目を丸くして視線を下に落とした。
榎木はそんな由希を不審そうにちらりと見て
「……クラブ、作ったんですってね。まあ、頑張って」
そういいながら要達の横を通っていった。
「嫌味な感じ!ねえ、由希、要?」
「あ?うん……由希、大丈夫?」
「え?……うん」
「そっか。……でもやっぱあの人性格悪かったね」
「だけど、榎木先輩普段は明るくって優しいって評判なのよ。やっぱりアンタの昨日の失礼な態度が気に入らなかったんじゃないの?私まで嫌味言われちゃったじゃないの!」
「そぉかなぁ?だったら心狭~い!だけど、秋葉がいなくて良かったかもね」
「そうね。秋葉が朝練でいなくて正解。いたら今頃先輩と殴り合いよ!」
「……秋葉ちゃん、ああゆう人、嫌いだもんね」
おずおずと切り出す由希の声は消えうりそうに弱々しい。
「そうよ!超嫌いよ!それに短気だしね」
「さすが幼馴染。スミからスミまでお知り合いだこと」
「何でそういう言い方するかなぁ要は!?」
「あかねも十分短気だよねぇ?由希」
「え?……えっと……」
「もう!要なんかほっといて部室行こう由希!」
「待ってよ!怒んないでよ~あかねちゅわ~ん!」
あかねと由希を追いかけながら要は呟いた。
「やっぱ短気じゃん、あかね」
元・第二資料室の前にきた由希とあかねは息を呑んだ。
その原因であるクラブの表札に目を釘付けにされて、心の中で二人して叫んだ。
(表札派手すぎでしょ~!?てか、もうこれ表札じゃないわよ~!!!)
(表札の役目果たしてないかも……!!)
その表札の周りは紙の白いバラに囲まれて、大きく赤文字で
【 私達! 】
と書かれていた。
その下に【私達!】より少し小さめに薄めの黄色い文字で
【 怪事件捜査倶楽部! 】
と書かれていた。
背景の色は白、そう薄黄色の文字が目立つはずがない。しかもその表札はどこかおかしいのだ。
普通の部活やクラブの表札は縦・約20cm、横・約10cmが普通だ。なのにこの表札は縦・約1m、横・約50㎝もある。
果たしてこれは表札と言えるのだろうか?
「これ表札じゃないわよ!もう看板じゃない!」
あかねがそう的確に突っ込みを入れると、要は飄々と言ってのけた。
「え?表札よ。ちなみにあたしの手作りよ!」
「そんなん関係ないし!っていうか絶対表札じゃないわ!」
あかねは激しい口調で突っ込みを入れた後、要に顔を近づけた。
「ワザと!?ねえワザとなの!?」
問い詰めるように言うと、自分の髪を掻き毟りながら半分泣き出しそうに叫んだ。
「いやああ!!私いい笑いものじゃないのぉ!「生徒会の沢松さんって【私達!】っていう看板のクラブに入ってるんですって~!」なんて嘲笑われるんだわぁ!!」」
「落ち着いて、あかね。考えようによっては目立つチャンスじゃない!」
「目立つ!?こんなんで目立ってもしょうがないじゃないのよぉ!!」
そう叫ぶあかねの耳に、隣の階段を上る足音が響いた。
しばらくあかねが押し黙るとすぐ横の階段から二人の女子生徒の顔が見えた。
すかさずあかねは顔を作り、さわやかにあいさつをする。
「おはよう。早川さん、峰緒さん」
さっきまでの顔の崩れが嘘のように、美しい笑顔であいさつをされた女子生徒、早川さんと峰緒さんは
「あっ、沢松さん。おはようございます」
「おはようございま~す」
と、気持ちよく挨拶を返し、要達の横を通り過ぎて行った。
その背中を見送ると、あかねは二コリとしていた美しい笑顔を一瞬のうちに緩ませた。
するとそれを見ていた要は呆れたように、感心したように呟いた。
「はあ……アンタのその早業はいつ見てもビックリドッキリするわ、あたし」
「ふん!何とでも言ってちょうだい!とにかくこの看板、いや表札は、もはや表札じゃないとみなし生徒会が撤去を命じます!」
「はあ!?……そうやって権力をかざすのね!何て卑怯な!!」
「うっさい!大体要はセンス悪いのよ!昔から!」
言い返すあかねに、要は言い返されて言葉を聞き流して、耳に手を当て全然かみ合わない返事を返した。
「なんだって!?「あかねは二重面相の優等生この上ない」って!?なんてこと!皆騙されていたのね!?皆に知らせなくっちゃ!!」
「ちょ!アンタは昔から知ってるでしょぉ!?」
「……」
焦るあかねにむかって、要は黙ったままにやりと微笑んだ。
「ひっ卑怯よぉ!」
あかねが泣き出しそうに叫ぶと、それをオドオドと見ていた由希がとめようと弱々しく切り出した。
「あ、あの、やめようよ。それに私も……あの、その表札は」
そこまで言うと、由希は「はっ!」と何か気づいたように慌てて
「いや!あの……要ちゃんのセンスがどうとかってわけじゃなくって、一生懸命作ってくれたんだなぁっていうのは、わかるし……あの、だから、えっと……」
上手くフォロー出来ないでいる由希の頭に要が手を乗せた。
そして二コリと微笑んで
「由希が言うなら、表札もあかね脅して遊ぶのも今はやめる~!あかねに言われても絶対止めないけど」
「要ぇ!!もお……だけど、私も由希が言うならやめるわ」
『由希可愛い♪』と二人は由希を撫でくりまわした。
秋葉が来るころまでには自称・表札は撤去された。
「ヤース!」
元気良く秋葉が元・第二資料室のドアを開けた。
すると、一番初めに目に飛び込んできたのは、あかねだった。
あかねは暗い空気を背負って、ひざを抱え、机の上に座っていた。
「……なにやってんだ?っていうか、表札出てねえじゃん。どうしたんだよ?」
「それは聞かないで!」
あかねにピシャリととめられた秋葉は訳がわからずに首をかしげた。
「はあ?なんなんだよ?」
すると由希が秋葉に近づき、これまでの経緯を大まかに説明した。
実は撤去最中に手伝ってくれた生徒に笑われ「沢松さん、このクラブに入るの?」とバカにされたように言われたのが相当こたえたらしい。
「なぁるほどね!」
秋葉は納得して数回頷いた。
「で?要は何処にいるんだよ?」
「それが、何も言わないで、出て行っちゃって……」
由希は弱々しくこたえる。
「んじゃ、トイレにでも行ったのかな?」
さっきから黙っているあかねを、秋葉は調子悪そうにちらりと見る。
するとそこに要が帰ってきた。
「あら?秋葉来てたの?そろそろホームルームが始まるから来ないと思ってたんだけど」
「ん、ああ」
そっけなく答えた秋葉に向かって、要は数回頷いた後
「出来たわよ!あかね」
と静かに言ってぶっきらぼうに、手に持っていた板切れをあかねに向かって投げた。
呼ばれて振り返ったあかねの膝の上に、ポトンと板切れが着地した。
それを怪訝そうにあかねが拾い上げ、それに書かれている文字を見た瞬間、目を見開いて驚いた。
「これ……!」
一言小さく呟いて、要をマジマジと見つめる。
「それ取りに行ってたんだ。それはあたしの手作りじゃないからあたしは気に食わないんだけど。それがないと、クラブとしての顔が立たないでしょ」
その板切れは 表札 だった。
今度のはちゃんとした、まともな表札だった。
木の板に、黒字で習字のように格好よく『怪事件捜査倶楽部』と書かれていた。
「シンプルすぎよねぇ、あたしはもっとド派手なのが良いわ!」と、要はあかねが持っている表札を取り上げてマジマジと見つめながら言うと
「でもあれは生徒会に撤去されちゃったし、しょうがないか」と少し残念そうにため息をついて、ウインクしてみせた。
「俺も見てみたかったなぁ」
秋葉も残念そうに呟くと、あかねは少し苦笑した。
「アンタが見てたら爆笑してたわよ」
その時、予鈴のチャイムが響きわたる。
『キ~ンコ~ン カ~ンコ~ン』
要は予鈴の音に少し驚いて肩をすくめた。
その時「ああ~!!!」とあかねの悲鳴が教室中に響いた。
「皆勤賞なくす!!遅刻は厳禁よぉ!!」
そう叫びながら立ち上がると、一目散に駆け出した。
教室を出たところで急ブレーキをかけて止まり
「何やってんの!?早く!!表札みんなでかけるんでしょ?」と声を張り上げた。
あかね以外の3人は顔を見合わせて微笑み、あかねの元に駆け寄る。
それから4人で表札をもって、ドアの隣にあるフックに表札の紐を引っ掛けた。
4人は顔を見合わせて微笑むと、誰からともなく手を前に出して、その手に手を重ね
『おっし!』
気合を入れた。そしてまたお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。
そして一瞬のうちにあかねは再び走り出した。
「遅刻したら、ってかもう完璧遅刻だけど、要のせいだからねぇ!!」
叫びながらガムシャラに走り去るあかねを見送りながら、秋葉はおかしそうにニタリと笑う。
「俺らはゆっくり行くか」
その横で、要が秋葉に負けないくらいにニンマリと顔を歪ませた。
「そうもいかないんじゃない?」
「貴女達!もうホームルーム始まっているでしょ!?」
突然の怒声に、びくりと肩を震わせながら秋葉と由希が振り向くと、いまどき珍しい分厚い眼鏡をかけて、後ろで髪を纏めている中年の痩せ型の女教諭が立っていた。
それを見た3人はお互いに目で合図を送って、走った。
「うわ~い!鬼の教頭だ!」
「おい、要!お前いつから教頭がいるって知ってたんだよ!?」
「表札かけてあかねが走り出した時」
「待ちなさい!貴女達廊下は走ってはなりません!!」
「キョートーだって走ってんじゃ~ん!」
要が叫ぶと、由希と秋葉は「ぷっ」と吐き出して、3人は笑いながら廊下を一目散に走り抜けていった。




