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自供と真相

転校して数週間で、私は人気者になった。

私の周りには人がたくさんいた。

私の『霊感』は、『私は』――ここでも受け入れられたの。


嬉しかったし、楽しかった。

でも、高校に上がってすぐ、私のクラスにはイジメがある事を知ったの。


――皆元綾香。


彼女は、存在感がなくって、他のクラスだった高村や、三枝がたまに様子を見にくる以外は、一人で教室の自分の席でじっとしてるような、暗い子だった。


だけど、クラスメイトは特別彼女を無視している様子はなかった。

用がなければ話しかけないし、皆元ももしかしたらそれで良いと思っていたのかも知れない。

ずっと本ばかり読んでいたから。


私は――皆元が嫌いだった。

『苦手』ではなく、嫌いだった。

だけど、どうかしようという気持ちはまるでなかったのよ。

だけど、あの日――呉野が美術室に忘れ物をして、一緒に取りに戻ったあの日――日吉が皆元をイジメている現場を見てしまった。


 *


「じゃあ、イジメがあったのは本当なんだ。」


榎木の言葉を受けて、要が納得混じりにそう言うと「そうよ」と榎木は頷いた。


「……ムカついたわ。胸が悪くなって、私は帰ったの」

「何で帰ったんだよ! 日吉先輩のことムカついたんだろ?」


秋葉がそう責めると、榎木は眉を顰めて、声を少し荒立てた。


「私が止めに入ったって皆元と日吉のあの性格だもの、イジメなんてなくなりゃしないわ! それに、私がムカついたのは、日吉じゃなくて皆元よ」


『皆元先輩が?』


あかねと由希の声が合わさる。


「そうよ……言ったでしょ? あの子、嫌いだったの。だから――!」


言いかけて、榎木は下唇をぐっと噛み締めた。

怒りのような、憤りのような表情が浮かぶ。

そんな榎木に秋葉と由希が食って掛かりそうになるのを、2人の前に腕を伸ばして要が止めた。

その様子を、ほっとした表情であかねが見つめるが、どこか残念そうでもあった。

あかねも、榎木の態度に感じるものがあったのだろう。

榎木をまっすぐに、要は見つめた。その目にはやはり色はなかった。


「「押入れられた」の噂は?」

「……どうして広まったのかは知らないわ。でも、押し入れられていたのは本当よ」

「どうして噂は広がったのかしら?」


あかねがそう呟くと、あかね達の後ろ、つまり部屋の入り口から、突如声がかかった。


「――私が、答えるわ」


5人が一斉に振り返ると、そこにいたのは、三枝だった。


「三枝先輩!?どうして!?」


あかねが声を荒立たせて驚くと、三枝はゆっくりと部屋に入ってきた。


「あなた達が、この塔に入って行くのが見えたから、後をつけて来たの。ここに生徒が入るのは立ち入り禁止でしたからね」


そこでいったん区切り、三枝は眼鏡をくいっと上げた。


「声をかけようとしたのですが、榎木の声まで聞こえたので、タイミングを見失ってしまって」


冷静に、淡々と言葉を発する三枝に、「ハンッ」と鼻で笑って、からかう様な声を上げてから要はニヤリと笑った。


「ここは最上階だよ? 何でここに来るまでに声をかけなかったのさ?」


そんな要をヒヤリとした視線で一瞬見た後、三枝は皮肉を含んで言った。


「訳を知っていて、言うセリフですか? やはり、吉原、性格が悪いですね」


要は「あっははは!」としばらく爆笑した後「そりゃ、どうも三枝先輩♪」と言いながら不敵な笑みを浮かべた。

そんな要を呆れたように三枝は一瞥した。


「え? なに? 要、どういうこと? 先輩も何か関わりがあるの?」


オロオロとあかねが聞くと、要は数回頷いて「まあ、あとは本人に聞きましょ♪」と口をすぼめて言った。

「……沢松、すみませんでした」

「え?」

三枝はあかねをじっと見つめて謝罪した。

すると今度は、榎木を見つめた。その瞳はどこか悲痛を含んでいる。


「榎木、まさか本当に貴方だとは……信じたくはありませんでした」


そう言った三枝を、榎木はギロリと睨みつけた。


「よく言うわ! 疑っていたくせに!」

「……確かに、私は榎木を疑っていました。だからこそ、あの時――」


何かを言いかけた三枝を「その前に!」と大きな声で要は遮った。


「噂が広がった理由を教えて頂けますか?」


その問いに、三枝は分かりましたと頷いた。


「……皆元と日吉の現場を見た私は、すぐに教師を呼んでこようと、職員室へと走りました。

しかし、そこには人は居らず、部活の顧問ならまだ残っているだろうと、体育館へ行き、そこで片づけをしている教師を見つけ、訳を伝えぬまま、走りました。

しかし、着いた時には誰もいなかったんです」

「なるほど」


要が一言そう呟くと、一瞬三枝は要を見てから、目線を下に向けて話し始めた。


「無事、誰かが助けてくれたのだろうと、ことを大げさにはしませんでした。

……しかし、皆元が自殺し、その背景が気になった高村が、噂を流し始めたのです」

『高村先輩が!?』


5人が同時に驚くと、「ええ」と頷いた。


「私は、誰にも彼女がイジメられていた事を言えずにいました。

――だって、私がその事を言えずにいたから、皆元が死んでしまったんじゃないかと――恐かったのです」


心痛を露にする三枝は「でも」と言って続けた。


「皆元の一回忌の時に、私は高村に皆元がイジメにあっていた事を、告白しました」


 *


一回忌が終わってから、私は高村を喫茶店に誘いました。

そんな私を、彼女は「めずらしい」と言って不思議がっていました。

テーブルに着くと、私は緊張から汗がじんわりと滲むのを感じた。


「た、高村……皆元は、日吉にイジメられていたんだと思う」

「え!?」


驚いた彼女を直視できなくて、私はテーブルの上の自分の手をただ見つめた。


「私、見たんだ。皆元が学校に来なくなる前に、日吉に美術準備室に押し入れられていたのを――」


そこまで言って、はっとなって顔を上げる。


「もちろん、すぐに助けを呼びに行ったわよ!?」


――言い訳がましいと思われたかも知れない。

私はそう思いましたが、高村は表情を変えず、依然として驚いた表情のままでした。


「あ――」


私が何か言わなくちゃと、口を開いた時だった。高村が表情を変えた。


「だって、敦子と綾香と、弘と私一緒の小学校で……敦子だって、私達と仲悪かったわけじゃないわよね? だっててっきり、敦子と綾香は仲良くやってるんだって……だってあの子言ってたわよね!? 敦子とは友達として、仲良くしてるって!」


明らかに混乱している高村をなだめようとした時、高村は何かに気づいたように、はっとなった。


「ねえ……皆元の所に、届いてたよね? 例の、あの――」


高村の問いかけに私は答えなかった。

――口に出して言いたくはなかったんです。

そんな私を一瞥して、高村は遠くを見つめた。


「そう、あれ……あれのせいで綾香は死んだのよね」


まだ遠くを見つめながら、物憂げな瞳をした高村は、悲しそうに語った。

そしてその表情を一変させた。

怒りのままに、喫茶店のテーブルを叩く。


「私は、綾香のことをイジメた奴も、追いつめたやつも許さない!」

「ゆ、許さないって……なにをするつもり?」

「何をって……そんなの分かんないけど、とりあえず謝ってもらう!」

「謝るって、綾香はもう――」

「綾香のお墓の前で土下座してもらうわ!!」

「高村、貴女の気持ちは解る。しかし、日吉はあんな性格だし、追い詰めた者といっても、検討はついてるの?」

「そうね……」


そう呟いて、彼女は言葉を濁した。


 *


「それが今から1年と数ヶ月前の事です。

高村が噂を流し始めたのが、今から3ヶ月程前になりますね」


そう言って、三枝は悲しげに笑った。


「高村が何かを調べているのには気づいていました。

だけど、私は一緒になって調べる事はしませんでした。

出来るのなら、そんな事はやめて欲しかった」

「やめて欲しかった?」


あかねがオウム返しに聞くと、三枝は頷いて悲しげに眉間にしわを寄せる。


「皆元を失って、この上……高村が、何か危険なことにでも巻き込まれたらと思うと……でも、私は言えなかった。高村の、真剣な表情を見たら……何も……」


言葉を詰まらせた三枝に、美奈は少し気まずそうに尋ねる。


「……た、高村先輩は、何故……噂を流したんですか?」

「……噂を広めた理由の一つは『日吉を困らせる』まあ……嫌がらせですね。もう一つの理由は『呉野か、榎木か、見定める為』だったんだと思います」


「見定める?」


秋葉が顔を顰めてそう聞くと、三枝は静かに頷いた。


「ええ、皆元を助けた相手はどちらか、そして追い詰めた相手はどちらか――」

「どちらか?」

「ええ。あの日、私は呉野と榎木が居た事に気づいていなかったんです。

だから、私以外に目撃した者はいないと思っていました。

しかし、高村は調べ上げて、2人が目撃していた事を知った」


そう言って、三枝は榎木を一瞥した。榎木は、俯きながら両手の拳をぎゅっと握り締めていた。


「一回目の、一昨年に流れた『日吉と皆元が美術室に入った』という噂を流したのは十中八九、日吉でしょう。彼女は目立ちたがり屋でしたから、そして――榎木はその噂を利用した……」

「え?」


意外そうな表情の要以外の4人を一瞥して、三枝は榎木を見る。

榎木は黙ったまま俯いていた顔を上げた。


「利用したなんて……人聞きが悪いわね。見えたままを、言ったのよ」

「榎木先輩が、皆元先輩に言った『憑いている』発言ですね?」


要に問われて、三枝は静かに頷いた。


「嫌いだったから――だから、利用したんですよね。

自分の能力を、もっと認めさせるために――」

「だから、言ってるでしょう!? 見えたから言ったのよ!

口が滑ったの! あんな事で――まさか死ぬなんて思わないじゃない!」


声を荒立てて言う榎木は、今にも泣き出しそうだった。

その姿を見て、三枝は静かに俯いた。

その表情を、要達はうかがい知る事は出来なかったが、三枝の眼鏡の奥の瞳は、重苦しく、闇を映したような、黒い憎しみの色が混ざる。

皆元の――静かにそう言いながら、三枝は顔を上げる。


「皆元のところには、脅迫状が送りつけられていたんです」

「え!?」


その発言には、その場にいる全員が目を丸くして驚いた。

榎木に限ってだけ、その驚きの種類が違った。

ぎくりとした突き刺さるような感情が混じる。


「彼女の日記に、書かれているたんです。

この事を知ってるのは、警察とご家族以外は、私と高村だけですが――」


――彼女の日記の初めにはこう書かれていました。



 *



『今日、榎木に『もう一人の私が見えた気がする』と言われた。面と向って言われたわけではないけれど……大丈夫、気にしない。見間違いかも知れないって、榎木も言ってくれたし』


『今日の帰り道、誰かに後をつけられていた気がする。でも、気のせいだよね』


『今日、手紙が届いた『いつでも見てる』って……何なの!?消印は無かったから、誰かがそのまま入れてるの? なんだか気味が悪い』


『今日も届いた。昨日もポストに入っていた。――一体何なの!?』


『今日の手紙の内容は、いつもと違った『早く、早く、私と代わって!!』って、血みたいな色で、殴り書きしてあって……何なの!?誰なの!!?』


『また届いた……これって、ドッペルゲンガー?』


『恐い! 榎木の言った、『もう一人の私』何ているわけはないのに……!』


『もう、何日になる? ひきこもってから……。もう毛布に包まれていなきゃ、安心なんて出来ない。ほんの少しの安心のために、トイレにだっていけない』


『もうダメかも知れない。優梨、弘、毎日来てくれるのに、出て行けなくてごめん! 怖いの! こんなのもう絶えられないの……お願い、誰か……!』


『――ごめん』



――日記は、ここで終わっていたわ。

――そして、最後のページのあの一言……それが皆元の遺書だった。


 *


「脅迫状は、怖がった皆元が全部焼いてしまっていて、残ってなかったの。

だから、誰が書いたものか、警察も突き止めることが出来なかった。

――そして、その死に疑問の点はなく、自殺として処理された」


そう言うと悲しそうに眉を顰めた。


「……そんな事が……」


あかねは眉をひそめて、哀しげに顔を歪める。


「さっきあなたが言ってた『追いつめた者』とは、その脅迫状を送った人物の事ですね?」


要が冷静に聞くと三枝は「ええ」と頷いた。


「結局、追いつめた者は誰だったんですか?」


要の確信をつく質問に、三枝は「それは」と少し言葉を濁した。


「――私は、その事について、聞かされてはいないんです。

誰が、脅迫文を送りつけたのか、私には分かりません。

ただ、私自身は呉野や、日吉ではないと思っているんです。

ただ、榎木である事も――考えられなかった」


苦心する三枝を秋葉は見つめて、怪訝に言った。


「なんで日吉先輩じゃないと思ったんだ?

高村先輩も、呉野先輩か榎木先輩だと思ってたんだろ?

俺は、言っちゃなんだが、日吉先輩が一番『らしい』と思うんだけど」


その質問に、三枝は冷静に答えた。

しかし、その言葉の端は、どこか軽蔑が含まれている。


「あの人は、案外小心者なんです。

だから表立ってイジメたりする事は無いんですよ。

目立ちたがり屋のくせに、誰かに便乗しないと何も出来ない人なんです」


その答えを聞いて、要は軽く頷いた。


「なるほど、だから嫌がらせの手紙は率先して書くことはないだろうと?」

「ええ、自分からやろうとはしないでしょう。

誰かが、初めに出さない限りは――」


誰にも見られないように、榎木は顔を背けた。

大きくひとつ肩で息をする。

生唾を飲み込んで、ゴクリと喉が鳴った。


「なるほど」


要がぽつりと呟いて、三枝に答えを促す。


「で? 先輩は結局、誰が送りつけたんだと思います?

ひとつの結論は、出ていますよね?」


「私は――」


言いづらそうに、三枝は言葉を詰まらせた。

そして、その名を口にする。


「……榎木が、そうなのではないかと……」

「なるほど。だから、駅に行ったんですね?」

「!?」


驚いて要を見つめる三枝に、要はキョトンとした表情で問いかけた。


「さっき言いかけた「だからこそ、あの時」とは、そういう意味じゃないんですか?」


三枝は、驚いた表情をゆっくりと元に戻し、「ええ」と答えた後、訳が分からずにキョトンとしている4人を見た。

榎木は眉を顰め睨むように三枝と要を見た。

そんな者達を一瞥してから、ゆっくりと三枝は過去を振り返った。


「あの日、高村が死んだ日――」



 *



「私、今日待ち合わせしてるの」

「え?」


裏庭の温室の花に水をやりながら、彼女は突然そう言った。


「誰と?」


私の質問に、高村は答えなかった。


「……うん、まあね」


短くそう言って、暫く押し黙った。

おしゃべりな高村が作った、普段にはない妙な間に、私はなんだか不安を感じた。


「――誰となの?」


私がもう一度、今度は少し強く聞くと、高村は軽く笑った。


「弘に迷惑かけたくないからさ、今は言わない。――ごめんね」

「迷惑なんて!」

「確かめに行くだけなの」


――確かめって?

言いかけて、私は尋ねるのをやめた。

皆元の脅迫文の事だということは、すぐに解った。


「……高村――」


――皆元の事だったら、私も行く。

そう言う前に、高村は私の言葉を遮った。


「弘は、今日生徒会の会議あるでしょ?

だから、私が確かめてきて……それで結果を教える。

そのあとに、2人でどうするか決めよう?」


その言葉と、高村の笑顔に私は思わず頷いてしまった。


「それにしても、貴女がドッペルゲンガーを試す意味があったのかしら?」


私がそう呟くと、高村はにこやかに笑った。


「あるわよ! そうでなきゃ『高村はもう一人の自分を見た』って噂流せないじゃない!」

「だから、その噂を流す意味がどこにあるの?」


心底疑問に思いながら、私が聞くと、高村はにこりと微笑んだけど、その目はどこか冷たかったのを覚えている。


「そんなの、ただの嫌がらせよ。榎木があんな事を言ったせいで綾香が追いつめられるきっかけを作ったんだもの――せいぜいその事を思い出せばいいのよ」


そう言って、微笑んだ顔を解いて目線を花に向ける。


(解るよ、解るけど……)


手放しでその行為を喜んだり、応援したりする事が、私には出来なかった。

背徳感とか、そういう事でもなく、私はただ、漠然とした不安を抱えた。


「――カマかけてやる」

「え?」


呟いた高村の声を、私は聞き取る事が出来なかった。

聞き返した私の問いを、高村が返す事はなかった。

――ただ、にこやかに微笑んだだけだった。


 *


遠い目をしながら、三枝は――あの時の笑顔が、忘れられないわ、と言った。


「高村先輩がもう一人の自分を見たって噂、高村先輩自信が流したんですか!?」


驚いたあかねがそう聞くと、三枝は静かに頷く。


「ええ、だから、高村はドッペルの事で何を聞かれても一切否定はしなかったわ」


それを聞いた要は、なるほどと呟いた。


「それから数時間が経ち、放課後になって、私はひどく気持ちを乱されていたの」


 *


私は強い不安感に捕らわれながら、生徒会室へ向かった。

ドアを開けると、もうすでに数人の生徒会委員が集まっていた、そこに沢松もいて、沢松は座っていた椅子から立って、にこやかに私に挨拶をしてまた椅子に座りなおした。

私も自分の席に着くと、カバンを机のフックに掛けようとした。


「あっ」


そこで私は手をすぺらせ、カバンを落としてしまった。


(ああ……)


やってしまった――と、カバンを拾おうとした時、カバンから飛び出たある物に目を奪われた。

それは、一枚の写真だった。

高村と皆元と私で、高校の入学式に門の前で取った写真……。


思わず私は、生徒会室を出た。

そして、一心不乱に駆け出した。

廊下を走ってはいけない、母に口をすっぱくしてよく言われたけれど、この時だけはそんなものどうでも良かった。


駅に向かう途中走りながら、高村の姿を捜したけれど、高村を見つける事が出来なかった。駅について辺りを見回すと、知り合いの顔が目に飛び込んできた。


「榎木!」


私は一目散に、時計の下にいた榎木へと駆け寄ると、榎木は私を驚いたように見た。


「どうしたの? そんなに息切らせて」


言われて初めて、自分の呼吸が荒い事に気がついた。

ぜぇー、ぜぇーと肩で大きく息をする。


「いえ……あの、高村見ませんでした?」

「高村さん? 見てないわよ」


榎木はそう言って不思議そうに首をひねる。


「っていうか、三枝さん今日会議だったよね? どうしたの?」

「あ、ああ、会議ですか? ええ、まあ、ちょっとサボってみました」

「へえ、真面目な三枝さんが珍しいねぇ。何か用事?」

「いえ、別に。……たまにはと思いまして」

「へえ、なるほど」

「榎木は誰かと、待ち合わせですか?」

「ええ」

「そうですか」


私がそう言うと、会話は一度途切れました。

周りのざわめきだけが私達を包み、数秒が過ぎた時、私はふと思ったのです。

――待ち合わせ?

もしかして、榎木が高村の待ち合わせ相手? そう思ったら途端に不安が広がる。


「あの……もしかして、榎木の待ち合わせ相手って――高村ですか?」

「高村さん?」


榎木は怪訝そうに首を傾けた。


「――違うわよ」


言ってにこやかに笑った。

――そうか、そうなのか。

良かったような、残念なような、複雑な心持で私は床に視線を落とした。

しかし、私の中でなにか違和感のような、すっきりしない思いが渦巻くのを感じた。

榎木の先程の笑顔が、なんだか引っかかった。


――この人は、なんだか変だ。

笑っていても、本当に笑ってはいないような、どこか演技をしているような……。

そんな疑念からか、不意に、ある言葉が私の口をついたのです。


「待ち合わせをしている方が、どんな方かは存じませんが、血迷った事はなさらないで下さいね」


そう言った後、放った言葉に私は驚愕し、思わず口を塞ぎました。

疑念や不安がああいった言葉になってしまったのでしょう。

私は、てっきり榎木はとても怒るか、怪訝そうに眉間にシワを寄せるかと思いました。

しかし、榎木はにこりと笑った。


「何の事か分からないけど、受け取っておくわ」


そこでも私は違和感を感じた。

だけど、私は自分が放った言葉が恥ずかしくて、苦笑するしかなかった。

それから私は、逃げるようにその場を去ったんです。


それからは、高村を捜して駅の中や、駅の周辺を走り回りました。

しかし、高村を見つけることは出来なくて……私は自分に言い聞かせました。

この不安は、きっとただの思い過ごしだ――と。

ふと時計を見ると、時計は4時40分を指していました。


(今学校に戻れば、最後の会議内容にはぎりぎり間に合うか……)


私は高村に言われた事を思い出しました。


――弘は、今日生徒会の会議あるでしょ? だから、私が確かめてきて……それで結果を教える。そのあとに、2人でどうするか決めよう?


(――そうね、高村を信用しよう。彼女なら、大丈夫)

そう自分を納得させて、私は学校に戻りました。


――私はバカですね。私が高村を諦めたまさにその直後、彼女は死んだというのに――。


 *


部屋は静まり返り、時計だけがギコギコと古びた音を奏でている。

そこへ「ちょっと、良い?」と要が挙手をして、質問をした。


「帰ったの? 榎木先輩と会ってから、時計の前には行った?」

「いえ……あそこには行きませんでした」

「本当!?」

「ええ、本当よ」


三枝は怪訝そうにしながら静かにそう答える。

すると「あ!」と驚いた声を、美奈が上げた。


「どうしたの?」


由希が美奈に窺うようにして聞くと、美奈は弱々しく言う。


「あの……アップの髪の女の子は、もう一度……ショートの髪、つまり榎木先輩に会ってるはずじゃ……」

『!?』


思い出したように由希と秋葉とあかねは顔を見合わせ、要を見た。


「そうよね、確かにそうよ。

三枝先輩の言ってる事が本当なら、目撃されたあのアップの女は誰なの?」


「あかねの言うとおり、榎木先輩と高村先輩が目撃された後、アップ女はその前と後に榎木先輩といる所を目撃されてる。

三枝先輩が高村先輩と榎木先輩が目撃される前、もしくは、後、だとしたら、アップ女はもう一人、いるってことよね」


要が自分に言い聞かせるように言うと、それを聞いた三枝は

「もしかしたら、それが榎木の待ち合わせ相手だったのかしら?」と呟いて榎木を見つめた。

全員の視線が榎木に向けられる。


「あれは――日吉よ」

「日吉先輩?」


あかねがそう呟くと、榎木に注目が集まり、榎木は無表情のままコクリと頷いた。


「じゃあ、榎木先輩の待ち合わせ相手って、日吉先輩?」


あかねのこの質問に、榎木は首を横に振った。

ゆっくりと唇を動かす。


「私の待ち合わせ相手は――高村よ」


 *


あの日の昼休みの時間に、高村は私の教室へやってきた。

別にめずらしい事ではなかったのよ。

彼女は部活の事で何回か私を訪ねてきた事があったから。

だから、その日もてっきりそうなのかと思った。


でも、高村は真剣な表情で、今日駅の中の時計の前で待っていて欲しい、と言った。

私は何の事を言われるのか、想像もしていなかった。

何かの相談かなくらいで、軽く受け止めてた。

放課後になって、待ち合わせがあるから部活は出ないで行こうと体育館に寄って、その事を伝えようとした時に、日吉に声をかけられた。


「榎木、ちょっと良い?」


言って彼女は私の腕を引っ張って体育館裏へ連れて行った。

そして耳打ちした。


「今日、高村と会うの?」

「ええ、会うわよ」

「そっか……」


日吉はそう一言呟いて、何かを考えるように俯いた。

どうしたの?と声をかける前に、日吉は私に向かい直った。


「まあ、いいや――じゃあね」


そうとだけ告げて、彼女は去っていった。


「本当に自分勝手ね」


呆れて呟いた声は、誰にも聞かれない事を小さく願った。

それから、ほんの少し時間を潰して駅へ向かった。

数分待っていると、そこに現れたのは高村でなく、三枝だった。


三枝はひどく慌てたようすだった。

めずらしいなと思いながら三枝が走ってくるのを眺めていると、三枝はいきなり

「高村を見なかったか?」と訊ねた。


待ち合わせはしているけど、まだ姿を見てはいなかったから私は見ていないと答えた。

いつも冷静な彼女がこんなに汗だくになっているようすをめずらしく思いつつ、そういえば今日は会議があった事を思い出した私は、三枝に訪ねると、彼女はさぼったと言う。


本当に、めずらしい事もあるもんだと私は感慨深くいたわ。

それから少し喋って、待ち合わせ相手は高村か?と聞かれた時、私は一瞬

「そんなに高村が気になるのね」と思ったわ。

でも、同時に思った。


――なんでそこまで?


あんなに冷静な三枝らしくもない行動、やたらに高村を気にし、何故捜しているのだろう……?

何かあるの?

深読みなのかもしれないけど、私はなんとなく不安になった。

だから、とっさに嘘が口をついた。


「高村さん?――違うわよ」


ついた後に、これで良かったのかと少し思ったけれど、わざわざ待ち合わせまでして話したいことだもの、黙ってたほうが良いのよね。

そう私は自分に言い聞かせた。

そう思った時、三枝から思わぬ言葉を聞いた。


〝血迷った事はなさらないで下さいね〟


正直、何を言ってるのこの人?と思ったわよ。

でも、私は上手く笑えてたと思う。

その後三枝が気まずそうにその場を去っていった。

そのすぐ後に、高村がやってきた。

驚いたわよ、だって、日吉が一緒にいたんだもの。


「お待たせ」


言った高村に、日吉は声をかけずにホームへと続く階段を上っていった。私を一瞥して。


「日吉は?」

「ああ、違うの。日吉とは一緒になっただけ」

「ああ、そうなの」


言って高村を見ると、高村はにこりと笑った。

つられて私も微笑むと、高村は「あのね」と言って切り出した。


「榎木、皆元綾香って覚えてる?」

「ええ、同じクラスだったわね」


私がそう答えると、彼女は小さく頷いた。


「そうよ」


小さく呟いた後、私をスッと見据える。そして、毅然と言い放った。


「なぜ――綾香を追い詰めたの?」

「!?」


私は一瞬思考が停止したわ。

そのすぐ後、胸の辺りを、数十匹の虫がザワザワ歩き回ってるような、そんな不快感を覚えた。


「追いつめるって……なに?」


平静を装って、そう私は答えた。

だけど、彼女の瞳は、その凛とした強い光を失わずに、いっそう輝いたように映った。


「正直に言って。何にも無かったら、謝るわ。

だけど、私が思っているコトが、当たっていたら、それなりの罰を受けて欲しい」


高村の、強い瞳を見るたびに、強い言葉を聞くたびに、私の心の中は、虫達に食われて、闇に染まっていくようで……早く、こんな話終わりにして欲しい。

お腹の辺りが、チクチクと痛む。


「だから、何の事よ?」


平静を、装おうとしているのに、つい、イラついた口調になってしまったことに、私は、ハッとして、下唇を一瞬噛んだ。

彼女はなおも、私を凛とした強い瞳で見つめる。

そして、彼女は驚く事を口にする。


「手紙、綾香に出したでしょ?『いつも見てる』とか『早く私と代わって』とか何枚も何枚も!」

「え?」


混乱してぐるぐると思考が回る。


――なに? どういう事?


「ちょっと待って、そんなの出してないわ!」


私は思わず叫んだ。

でも高村は、私の言う事を信じようとはしなかった。

怒りを帯びた瞳で私を見据える。


「あ……」


その瞳に圧倒されて、私は二の句が告げなかった。


――誤解よ!


言いたいのに、声にならない。

そんな私を高村は罵倒した。


「榎木が手紙を出したって事は、わかってるのよ!

それだけじゃない、あなた霊能力ないそうじゃない!?」


――え……?


私が呟いた言葉は、はたして声になったのか、私には分からない。

ただ、頭が真っ白になって、何も考えられなかった。


「それでよくあんなデタラメ言えたね!」

「な、んの話?」


とりあえず、とにかく笑わなきゃ……!

私は、思わず取り繕ったように笑った。

それを受けて、高村はなお激しく責め立てた。


「とぼけないで!

綾香には何も憑いてなかったくせに、あんなことアンタが言ったから、綾香は……!

 それだけじゃない! アンタは手紙で綾香を脅した! 追い詰めた!! 違う!?」


自分の動悸が早くなるのを感じた。汗が、頬をつたう。


「……私は、知らないわ」


目線を下にして、振り絞るように答えた。

声が震える。

一瞬、高村は哀しそうな表情をし、一言、呟くように何かを言った。

私はその言葉を、聞き取る事は出来なかった。


「私には、本当に霊能力があるの。言いがかりをつけないで!

それに、手紙なんて知らないわよ!」


そう睨みつけると、高村は「ふっ」と鼻で笑って「言いわ」と不適に言った。

そしてとんでもない事を口にする。


「アンタに能力なんて無いってこと、みんなにばらしてやる!」

「なっ! なん――」


あまりにも予期しない言葉に、私の言葉は出なかった。


「ばらしたって、本当にアンタに能力があるんなら、別に何も困る事はないでしょ?」


高村はその言葉を残し、横の階段を上って行った。


――なにを言ってるの!?


私はそう心の中で叫んだ。


――やめてよ!そんなコトされたら……またあの頃に戻っちゃうじゃない!!


(何て、女なの!? 悪魔よ、あの女は、悪魔よ!!)


心の中で、黒い感情がとぐろを巻く。その時、聞き慣れた声がふってきた。


「うっわ~、悪い女だねぇ、優梨」

「!!」


驚いて顔を上げると、さっきまで高村がいた場所に日吉がいた。


「ごめんねぇ。話、聞いちゃった」


自分の顔が、サァ―― と音をたてながら、青ざめて行くのが、分かった。


「ああっと!待った!」


日吉はそう言いながら、自分の手を私の顔の前にかざした。


「あたしはねぇ、榎木、あんたのこと信じてるよ。あんたに霊能力が無いなんてありえないよ!」


そう言って微笑む。

その言葉に、光が差したように心が暖かく、同時に心がざわついた。

だけど、私はその感情は見ないふりをしたんだ。


(そうよ! 高村が私に『霊能力は無い』と言いふらしたって、みんなが信じる訳が無い!)


そう自分に言い聞かせると、日吉が「でもね」と不安そうに私に言った。


「あたしは、信じるけど、皆が皆、信じるとは限らないよねぇ、それが心配だな」


言って、私を静かに見つめる。


「でもまあ……あたしはアンタを信じるけどねぇ! でも、高村も、性格悪いよ――ねえ?

〝ばらす〟なんて言うことないのに……ねぇ?」


窺うように、私に投げかけられる言葉……その言葉のすべてが絡みつく蛇のように、私に巻きつく。


「そう、なにも〝ばらす〟なんて――」


あとから思えば日吉はそう言って、口の端を歪めた。

だけど、私はその時、日吉の放った〝ばらす〟と言う言葉が、脳裏を駆け巡っていて、そんな事は気にならなかった。

再び私の胸を、虫がうようよと歩き回り、私の光を食らい始めた。

どんどんと、暗闇が広がる――と、そこへ日吉が声を上げた。


「ああ! あたしちょっと、コンビニに用があって下りて来たんだっけ! そんじゃね!」


そう言って、日吉は改札口付近へと向った。

一人、取り残された私は、日吉の言葉と、高村の言葉の間を行ったり来たりしていた。その間は、数秒だったんだと思う。


だけど、私には、とても長い時間に感じた。

その間に、私は、一つの結論に達した。

――あの女がいる限り、私の不安はなくならない!

虫はいつまでも私を蝕む。

あんな生活に戻るのはイヤ! 何てヒドイ女なの!?

私の人生を奪う気ね!? 許さないわ!

早く、早く、この虫を取り除かなくちゃ……。


――あの女を殺さなくちゃ!!


私は静かに階段を上った。

心は、不自然なほどに、静かだった気がする。

辺りを見回して、高村を見つけた。

高村は、ホームに立って、携帯をいじくっていた。


――幸い、後ろには誰もいない。

周りの人々は、誰も高村を気になどしてはいない――私は気配を消して、そろそろと高村に近づいた。

――そして、その背中を押した。


重い背中の感触と、「あ」という私と高村の言葉が耳についた。

私は急に、恐ろしくなった。

そして、高鳴る鼓動を無視して駆け出した。


(だ、大丈夫よ。きっとすぐに、誰かが助けてくれる――!)


階段に足を掛けたその時だった。


――ガンッ!!


突如響いた、大きな、大きな……衝撃音……。

……なにかが、ぶつかった音……。


「誰か轢かれたぞ!」

「きゃあああ!!」


誰かの悲鳴が背後で響いた。

人の波が、私を押し戻す。

その波を懸命に押して、私は階段を下りた。

ほんの数十秒の出来事……なのに、身体が重くて、いう事を聞かない。

足がもつれて、何度も転びそうになった。


息を切らして、走って、走って、まだ遠ざからないような不安で、何度も後ろを振り返る。

迫ってくるような恐怖が、あの黒い虫を目覚めさせて、駅と一緒に私を追いかける。

私はいつまでも走った。


息が切れた頃、やっと足が止まってくれた。

――ふいに、笑いがこみ上げてきた。


「はっ、あはは、はは……嘘でしょ!?」


――ちょっと脅かそうと思っただけなのに!

なのに、なんで なんで!?

――電車が来るの!?何でこんな事になったの!?


ああ……そうか、電車の確認はしてなかった――来るなんて思わなかった!

本当は、そうよ、殺さなきゃって、思ったけど、本当は、ただ、脅そうと思って……電車が来なければ!


――来ないと思ったのに……!!

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう――。

――捕まりたくない!!



 *



「私はそれから家に帰ると、ジャージに着替えて夜中まで一心不乱に走ったわ。

何かを振り切りたかったのかも知れないし、逃げたかっただけかも知れない。

――あれから、私の身体には黒い虫がウヨウヨと巻き付いてる。

――貴方達には解らないことね」


「でもね」榎木はそう言って、悲しそうに続けた。


〝血迷った事はなさらないで下さいね〟


「この時、完璧に抜け落ちていたこの三枝さんの言葉を、思い出していれば良かったと、今になって後悔しているわ」


榎木はそう自嘲した。

そんな榎木を三枝は奥歯を噛み締めて見つめた。


「だって、思い出していれば、日吉の罠に引っかかる事はなかったんですもの」

「罠?」


要がそう呟くように聞くと「ええ」と頷いた。


「高村は事故死と断定され、やっと、私は少しだけ安心したの。

だけどそれは、ほんの一瞬で終わった。

あなた達は変なクラブを作り、高村の事について調べ出し、

そして日吉は……私を脅した」


 *


高村の死から、4週間近くたった、ある放課後、私は日吉から裏庭に呼び出された。


「どうしたの?」


私が裏庭に行き、校舎の壁近くにいた日吉の背中にそう聞くと、日吉は振り返りながら


「う~ん?」と高い声でうなった。

「どうした? それは、こっちのセリフよ」


日吉は微笑みながら歌うようにそう言うが、私は何の事だか分からずに首を傾げた。


「え?」

「ふふふふ」


私の反応がさもおかしいというように、日吉は哂う。


「榎木ちゃぁん――どうして高村殺しちゃったの?」

「え?」


冗談なんだか本気なんだか解らなかった――冷や汗だけが流れる。


「今日、くわしくお話しようか? そうね、12時くらいが良いかな」

「え?」

「あたし、見てたんだ。アンタが高村、突き落とすところ。携帯で撮ってたの」


そう言って、携帯を取り出し、軽く横に振った。


「バッチリ撮れてるわよ?」

「あ、あなたあの時、コンビニに行くって――」


言いかけて日吉に遮られた。


「あんな嘘信じたの?」


悪びれる事もなく、日吉はバカにしたように鼻で笑った。


「もしかして、あんたを信じるって言った言葉も信じてんの?」


次の言葉を予期して、私の鼓動は高鳴った。

――次の言葉を聞きたくはなかった。


「あんなの嘘よ、アンタがついてるのと同じ」

「わ、私は嘘じゃない。あれは高村が勝手に!」


そう叫ぶと、日吉はふと笑った。


「案外、正解だったんじゃないの?」

「違う!」


大声で否定した私を、日吉は冷ややかな瞳で見た。

そして、私の言葉などどうでも良いというように抑揚のない声で言う。


「……そうね、夜、12時に学校の近くの公園に来てくれるかしら? まずは、2万持って来てもらおうかなぁ」

「ちょっと! なに言って――」

「アンタに!! 文句言われる筋合い無いわ!」


そう怒鳴ってまた私の言葉を遮った日吉は、見下したような眼つきをした。


「あんたはもう、あたしに逆らえない。そうでしょ?

いつだって、警察に言ったって良いんだから。証拠もあるしね!」


携帯を見せ付けるようにして振る日吉を、私はただ睨みつけた。


「わかったわ」


それだけ言って、私はその場を離れた。

乱れた気持ちを直そうとトイレに入って初めて、私はあることに気づいた。


――なぜ、日吉がコンビニに行くと嘘をつく必要があったんだろう?


そうだ……あの時、日吉が私に「なにもバラすなんて言うことないのに」と言った時、彼女は確かに、笑ってた。

それに気づいた時、私は日吉を理解した。


あの女――私を利用したんだ!


高村が言っていた脅迫状なんて、私は出してない!

もしかしてあれは――日吉が出した!?

私に罪を擦り付けるために「高村に会うの」と聞いて、私と会う前に高村にある事ない事吹き込んだんだ!


――そして私を――追い込んだ?


(真相を確かめなくちゃ――たとえ脅してでも!)

そう決意した私は、家から果物ナイフを持ち出して待ち合わせ場所へ向かった。



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