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激モテ男子副会長

遅れました


寝落ちです

「……それでは、俺が昨日受けた暴力についてですが、そこの不良四人と男子副会長によるモノでした」


「「「っ!?」」」


 報告をするため黒板の前に立った俺が一言目に放ったこれにより、全ての視線が御宮副会長に向けられる。


「……次の説明に移りますが――」


「待て。桐谷、それだけなのか?」


 俺が次に移ろうとすると、黒板の脇に立った諫山先生が制止の声を上げた。


「……はあ。さっき四人のスキルについては説明しましたし、『絶対防御』の弱点も説明しました。他に何か報告することがありますか?」


 俺は曖昧に頷き、少し首を傾げて聞いた。……他に重要なことがあるとも思えない。


「……お前がそう言うなら良いが、やはり他のヤツは聞きたいだろう。お前に日頃から暴力を振るっていたと言うあの四人ではなく、何故御宮がお前に暴力を振るっていたのか」


 諫山先生が、青褪めた顔をして俯く御宮がピクリと肩を震わせた。


「……それは簡単です。と言うか、先生達が知らないだけで御宮副会長も度々暴力は振るっていますよ」


「「「っ!?」」」


「……そ、それは……!」


 俺がそう告げると、全員が目を見開いて驚いていた。それに御宮はバッと顔を上げ慌てたように言う。


「……てめえ!」


「……待ちなさい」


 思わず拳を握り締めて立ち上がる夏代を、一見冷静そうな美夜が手で制す。


「……どう言う訳か説明してもらおうか」


 諫山先生が厳しい口調で尋ねるが、御宮は俯いて答えない。


「……諫山先生、無駄ですよ。御宮副会長は自分が悪いことをしたなんて全く思っていませんから。自分が正しいと思っているからこそ自覚がないんで答えられません」


 俺は諫山先生に向かって言う。……こいつは俺に暴力を振るうことに対して罪悪感なんて全く感じちゃいない。なら今は何故怯えているのか? 答えは簡単だ。今まで自分に好意を向けていた(と思っている)ヤツらから嫌われるのが嫌なだけだ。


「……桐谷には分かるのか?」


「……はい。御宮副会長の言動や環境からして、簡単に分かりますよ」


「……話せ。だが事実だけを、だぞ? 推測なら前置きはちゃんとしろ、良いな?」


 諫山先生がそう言うので俺は素直に頷く。……元々嘘をつく気もない。


「……先ず言っておかなければならないのは、御宮副会長の人格についてですが、顔がよくイケメンでも頭一つ抜きん出ている。スポーツは何をやっても上手いと評価される程運動神経が良い。料理や洗濯などの家事もそつなくこなせる。吸収力が凄いため素早く上手くなれる。――以上のことから、少なくとも否定されたことなんてないでしょう。寧ろチヤホヤされ褒められ甘やかされて育ったと思われます」


「……それが、どうかしたのか?」


「……四人姉妹もそれに該当するかと言えば、彼女達は幼い頃から厳しい指導の下武道をやっていたので叱られることもありましたが、何でも出来るようになってしまうが故に叱られることも否定されることもなく育ってきた。それが人格形成に影響され、自分を否定されるのが怖い、だから自分に都合の良いように否定されそうなことを解釈して逃げる。勿論これは無意識のことでしょうが」


「……それが真実だとして、何がお前への暴力を肯定させる?」


「……先生も、この場に居る誰もが知ってるとは思われますが、御宮副会長は四人姉妹と白咲書記に好意を向けられ誰かまたは全員と付き合ってると言う噂があります。真偽の程は知りかねますが――」


「……事実無根よ」


 俺が諫山先生に促され話していると、途中で美夜が俺の言葉を遮った。


「……噂の真偽は本人達の問題なので俺は知りませんが、少なくとも男子で一人だけ生徒会に入れていることから――男子副会長と言う生徒会に男子を一人は入れなければならないと言う特別な制度の措置があったとしても廃止にすれば良いだけのことですから――そう言う噂が立つのは防げないでしょう。ですがそう言う噂を御宮副会長も耳にして、五人が自分に好意を抱いているのではないかと思い始めた。その証拠に、その噂が流れ始めてから御宮副会長は一緒に登校したり下校したり昼食を食べたりと公私問わず五人の輪に入りました。そこから更にその噂は加速していき付き合っていると言う噂が真実味を帯びます」


 俺は美夜の言葉を半ば無視して話を進める。それの真偽はどうでも良い。重要なのはその先にあるのだから。


「……確かに、そう言う姿はよく見かけたな」


 諫山先生が俺の言葉に同意して頷く。他も隣同士で囁き合ったりと教室がざわめく。


「……だが、それは生徒会のことについてだと思っていたのだが?」


 諫山先生が言い、五人も頷く。


「……それは口実でしょう。五人と自分が常に一緒に居ることで、もしかしたら真実は違うかもしれないと言う疑念を、更なる噂を流させることで上書きして消した。それが自然になっていけばなっていく程、拒絶されない限り御宮副会長がそれに気付くこともなく噂を信じていく――。そこで聞いたんでしょうね、自分が最も親しい筈の五人の内、四人と同棲している俺のことを」


「……同棲? 家族なんだから当然だろう?」


 俺が話を進めていき一旦切ると、諫山先生が不思議そうな顔で尋ねてきた。


「……言ったでしょう? 御宮副会長は『自分に都合が悪いことを良いように解釈する』と。このクラスでは周知のことですが、俺とそこの四人は血の繋がった姉弟(きょうだい)です。ですが御宮副会長が聞いたのは、「目立たない癖に“四女神”と関係のあるヤツが居る」や「一年に“四女神”に付き纏ってるヤツが居る」と言う噂でしょう。つまり俺が四人の弟だと、知らなかったんです。勿論少し考えれば分かりますよ? だって高校生で恋人が同棲してるなんて余程の事情があるでしょうし、名字が違うからって居候させてもらっている他人とは限りません。母屋家が養子を貰ったと言う話も居候が居ると言う話も聴いたことがない。それは家族だと理解する人も居るかもしれませんが、自分に都合が悪いんですよね、それじゃあ。「何故か分からないが四人に付き纏い同棲しているヤツ」と解釈した方が良いに決まってます。自分はもう既に付き合ってもおかしくはない段階に入ったと思っていた御宮副会長は、「俺」と言う存在が邪魔だった訳ですよ。だからある日俺を校舎裏に呼び出し、「……君が誰かは知らないが、彼女達に付き纏ってるなら止めろ。彼女達傷付けるような真似をしたら――殺すぞ」と言われた訳ですが」


「「「……」」」


 俺が再び言葉を区切ると御宮は全員から非難の視線を向けられる、姉四人と白咲書記からは軽蔑した視線を向けられていたが。


「……別に姉四人が誰と付き合っていようと俺には関係ないんで、俺は前にも増して距離を取った訳ですが、ある日会長と二人きりで話している場面を見られまして。話している内容は「親が出張で居ないから今日の夕飯は何が良いか」でしたが、学校でも家でもボロが出ないように話す時は人目のない場所で、と言う暗黙のルールが災いし、密会していると思われた訳ですね。勿論それを目撃した御宮会長は既に血の繋がった姉弟(きょうだい)であることは知っていたようですが、話していた内容なんて耳に入らず、下校しようとした俺を校舎裏に引きり込んで殴る蹴るの暴行を加えました。弟なのに話しちゃいけないとか、頭おかしいんじゃないかと思いましたが御宮副会長が俺を引き摺るのを見た人が居ますから、そこから更に悪化するのは当然です。俺が反抗したら俺は悪くないと言う証拠が全くないので逆ギレして暴行を加えたとか思われそうなんで抵抗しないでいると、こう言われました。「……もう二度と関わるな。弟だろうが関係ない、次関わったら俺は君を許さないからな」、と。まあ仕方ないんで学校でも家でも無視しましたよ。家で話しても次の日には「……昨日話しただろう」と言われて暴力を受けるので、仕方ありませんよね」


 俺は最後に肩を竦める。……クソみたいな話だが、実際にあったんだから仕方がない。


「……家で話したことが御宮に分かるのか?」


「……はい。だって盗聴器が付けられていましたから。まあそれに四人が気付いても何かは分からないので外して不燃ゴミにぽい、ですし、そこから聞いたり盗聴器が無理なら張り込めば良いことですからね。庭に侵入したり風呂場の外に居たり。俺が見つけたのはそこだけですから他は分かりませんが」


 俺が更に続けると、特に女子からの軽蔑の視線を多くなった。


「……ち、違う! 俺はそんなことしてない!」


 だが流石に否定しないとマズいと思ったのか、今まで俯いていた御宮は立ち上がって訴える。


「……全部彼の想像だ! 最初に言ったのだって勘違いをしてだけで、それ以降は暴力なんて――!」


「……黙りなさい」


 御宮が必死に弁明するが、美夜が冷徹な声で遮った。


「……み、美夜は分かってくれるよな? 俺はそんなことしてない!」


 御宮は美夜に対し情けない程に必死になって言う。


「……名前で呼ばないでくれる? ポケットに入っていた小さくて見覚えのないモノ、あれが盗聴器だったなんて。しかも何? 灰人に向かって私達と関わるななんて言ってたの?」


 ……ああ、ヤバい。キレてる。いつもは制止する立場である美夜は、感情に任せて怒りをぶち撒けない代わりに一度キレると手が付けられないのだ。


「……ち、違う。誤解だ。美夜、俺を信じてくれ。彼と俺、どっちを信じるんだ?」


 ……。


 その二択はマズいな、と俺は思う。美夜は今あいつを軽蔑しているが、俺を信じてくれるかどうかは怪しい。四人の中でも俺の嫌い度が高い美夜は、常に過ごしてきたあいつと弟と言うだけで最近は話をしてもいない俺、どっちを信じるかが分からない。


「……勿論灰人よ。弟と好意も寄せてないし本当は生徒会にも入れたくなかったあなたでは、信頼出来る度合いが違いすぎるわ」


 美夜は冷めた目で御宮を見据えて言った。……良かった。俺への信頼度は低いだろうが、御宮への信頼度はもっと低いようだ。


「……そ、そんな……」


 美夜にきっぱり拒絶されガックリと絶望に暮れる御宮。……いや、ストーカーはそっちだろうと言う行為を働いておいて自業自得だろうに。まあ俺から四人を守るため、と言うことで盗聴器を仕掛ける罪悪感を消していたから自覚がなかったんだろうが。


「……もう次に移って良いですか? 無駄に時間を費やすのはどうかと思うので」


「……ああ」


 諫山先生は険しい表情で頷いていた。……どこか御宮に対して思うところがあるのかもしれない。


「……えーっと、俺は昨日窓から放り出された後、モンスターと戦ったりスキルを試したりしてました。それで行けるとこまで行ってみようかとこっちを真っ直ぐ進んでみたのですが」


 俺は窓側を指差す。


「……段々モンスターが強くなっていきました。それでステータスの筋力と体力が100を越えた時点でも苦しくなってきたところで木の上に立って遠く眺めてみたのですが、こっちを向いて右が山、左には何も見えませんでした」


 俺は黒板を向きチョークを手に取ると、長方形を書いてその中に教室と書き、窓を左に廊下を右に書いて窓側と書いた方の上に山と書き左には何も書かない。


「……あとスキルを使えばまだ楽なので更に進むと横に右から左へ流れる川がありました」


 俺は窓と書いた方の少し左に二本の縦線を引き、川と書いて上から下への矢印を書く。


「……つまり、山へ向かうと人里がないのは確実だが、川に沿って行けば恐らく海があり、孤島なのかは分からないがその途中で人が居るかもしれないと言うことだな?」


 諫山先生が顎に手を当てて考え込むようにしながら言う。……流石に理解が早い。


「……はい。山へ向かえば更に森が続くばかり。途切れているかは分かりませんが、川に沿って進めば良いかと。そして廊下側の方は見てないから分かりませんね」


 俺はそう言って黒板前から退く。ここからは諫山先生の仕事だろう。俺はそのまま自分の席に着いた。


「……分かった。ではこれからの予定を発表する」


 諫山先生は俺に変わって黒板の前に立ち、教卓に両手を着いて言った。

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