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ステータスとスキル

 十メートルはある巨大な猿(蝙蝠のような翼と角あり)と対峙する俺。……と言うか俺が見下ろされている。


「……こいつ、何で飛んでこなかったんだろうな」


 翼の意味あるんだろうか。


 俺は脅威になりそうなそいつを見ても、そんな感想しか抱かなかった。……教室は寝静まり、一向に誰も起きる気配はない。疲れていたんだろう、グッスリ寝ているようだ。俺も眠いけどな。


 それよりも翼の話だ。こいつは走ってここまで来た。じゃあ翼いらないじゃん、って言うことだな。


「……ふむふむ。そう言えばスキルは回数を使えば使う程経験値があるんだったな」


 他のヤツなら攻撃力が高いか殺すための使い方しか出来ないスキルばかりだが、俺のは違う。


「……『紫電』」


 俺は呟いて、それを発動させる。紫色の落雷がそいつに直撃する。だがそいつは絶叫するだけで、一向に死ぬ気配はない。……そりゃそうだ。だって今俺が使った雷は、ただ相手を麻痺させるだけのモノだからな。

 そう、俺のスキルははっきり言って御宮の『電竜迅雷』よりも応用が利く。普通の雷よりも威力の高い雷として使えるだけでなく、磁力の発生や電熱、帯電や麻痺などもある。かなり便利だ。まあ『電竜迅雷』にどこまで応用が利くかは知らないので分からないが。


「……更に、っと」


 俺は独り言を呟きつつ、更に『紫電』を追加する。今度は電熱を帯びた柵だ。……これで二回使ったな。俺の魔力がどれくらいあるのかは分からないが、話に聞くと魔力は消費すると疲労を起こすらしい。それを目安にしておこう。


「……次は実験だな」


 俺は麻痺し『紫電』の柵に閉じ込められたそいつを無視し、試してみたかったことに挑戦してみることにする。


「……」


 俺は右手をかざし『紫電』を纏わせる。……そう言えば赤崎って一々全身に『絶対防御』使うよな。魔力の消費が変わらないのか、それともただのバカなのか。まあどうでも良いか。

 バチバチと音を立てる『紫電』は、地面から砂鉄を引き寄せていく。ザー、と勢いよく集まるので凄い磁力なのかもしれない。俺はその集めた砂鉄が充分かな、と思ったら磁力を弱め電熱を強くする。

 すると砂鉄が融け始めた。……良い調子だ。

 それを更に磁力『紫電』であれやこれや形作ってみたもののしっくりこなかったので無難に槍を作ってみる。……槍と言っても細く長い鉄の棒の半分ぐらいまで円錐を刺して取り付けたような感じだ。槍って言うよりはランスだな。長さは約二メートルぐらい。


「……う~ん、イマイチ」


 デザインが。だって砂鉄を融かして固めただけだから一色だし。


「……ま、いけるか」


 こんな武器持ち歩いたら目立つし、一発屋として使おう。


「……くらえ」


 俺は槍投げの要領で鉄のみの槍に『紫電』を纏わせると、利き手である左手で放った。狙うはモンスターの右肩だ。


「グアアアアァァァァァァァ!!」


 見事にモンスターの右肩を貫き、『紫電』を纏わせた効果で穿った穴が大きくなったので腕がげる。……なかなか『紫電』の効果も大きいな。じゃ、これから電熱の網とか麻痺とか砂鉄降らせるとかでスキルランク上げ続けてから殺すか。


 俺は他のヤツがやらないような、モンスターのイジメを開始する。


 ステータスを見ていて分かったんだが、スキルランクは初級(ビギナー)下級(ローヤー)中級(ミディアム)上級(ハイヤー)最上級(スパーラティブ)と上がっていくようだ。残念ながらこの先は分からない。

 魔法ランクは古い漢数字で階位があり第何階と言う風になっていて、それとは別にスキルランクがある。女神達のようなスキルは技がないのだが、魔法には技がある。それもスキルランクと同じように上がっていく。


 そして漆黒の森が白み始め、少し薄暗いような明るさになった。……どうやらあれは夜だったらしい。


「……んあ? っ!? おい、起きろ!」


 その中で最初に目覚めたのは母屋夏代だった。口端からよだれを垂らして寝ていたが、直ぐにそのだらしない表情を引き締め焦燥感に駆られたような顔になる。


「……ぅん?」


 騒ぐ夏代に、段々と他のヤツも起き始めた。……さて、と。俺はどうしようか。


 昨日(?)夜に周辺を探索したのは良いが、モンスターを苛めるのはスキルレベルを上げるのに作業と化してしまう。無双してこそのファンタジー世界じゃないだろうか。


 無双出来るっちゃ出来るんだが、残念ながら群れが居ないと無双が出来ない。


「……何だ? 朝っぱらから騒がしいな」


 諫山先生が目を軽く擦り寝起きのまどろみタイムから直ぐに切り換えると、いつものキリッとした表情で聞いた。……俺でも「……あと五分寝かせて」と言う気持ちが理解出来ると言うのに、何故かこんなところでも素晴らしい人だった。


「灰人が……、灰人が居ねえんだよ!」


 夏代は慌てたように怒鳴る。……それを見た赤崎達不良四人と御宮がニヤリとする。


「何っ……?」


 諫山先生は眉を寄せて険しい表情になる。


「昨日私が見張りで起きていた時には居た。他に見張りで起きていたヤツ、見てないか?」


 慌てたように諫山先生が教卓に両手を着いて尋ねるが、誰もが首を振った。……そりゃそうだ。だって赤崎達が狙って皆が寝た頃に俺をリンチし始めたんだからな。


「居ない、か。見た限りでは窓の鍵は閉まっている。ドアも閉まっている。桐谷が自分から出てドアを閉めてしまったか、それとも誰かに追い出されたか」


 流石諫山先生。もうそこまで行き着くとは。もう直ぐ真実に近付くぞ。


「便所でも行ったんじゃないっすかねー」


 赤崎が適当な口調で言った。……おいおい。こいつはどこまでバカなんだ? まるで自分が犯人ですと自供しているようなもんじゃないか。


「ところでお前達四人――と御宮。昨日は付着していなかった血が付いているぞ。どう言うことだ?」


 諫山先生は険しい表情を崩さぬまま、尋ねた。……流石。感情に振り回されないで物的証拠を突き付けるとは。


「何のことっすか?」


 だが赤崎は余裕そうな態度を崩さない。……御宮はビクッとなったが。


「……まあ良い。今は桐谷の捜索が第一だ。本人に聞けば何をしていたのか分かることだしな」


 諫山先生は唇を噛み締めてはいたが、ワナワナと震える身体を抑えるように息を吐き、生徒の安全が第一と言った。


「せ、先生。あれって男子の制服じゃ……?」


 そこに、怯えた様子の女子の声が上がった。……ああ、きっとあれだ。俺が汚れていたので捨てた制服のブレザーのことだ。適当に放っておいたからな。血塗れでズタズタのヤツ。


「……っ! まさかもう!?」


 諫山先生は息を呑み目を見開いた。……いやいや、俺の強さを信頼して欲しいもんなんだが。仕方がない。面倒な大群も来てることだし、姿を現すか。


 俺はそう思って一っ跳びで黒い森の木の枝の上から窓際まで移動する。……だが教室に居る全員が唇を噛み締めたり青い怯えた顔をしたりと窓の方を向いていなかった。


 コンコンコン。


「「「っ!?」」」


 仕方なく俺が窓をノックすると、バッと一斉に顔を上げた。……因みに二回でも良いがそれをトイレのノックと同じ回数になってしまうので、三回が良いのだ。


「か、灰人……!」


 奏が先ず俺の名前を呼び、波紋が広がる。


「な、なっ……!?」


 中でも俺を昨日拷問してくれやがった五人の反応は傑作だった。俺の姿を見た途端に怯えたような顔で椅子から転げ落ちやがった。……どれだけビビってんだよ。


「桐谷、無事だったのか?」


「……見ての通りですが、入れないので開けて欲しいです。あと面倒なのが来ます」


 俺は変わらぬ無表情で諫山先生に答える。


「面倒なのだと?」


「……はい。――ああ、来ました」


 諫山先生が訝しむような顔で聞いてくるのに頷き、俺は背後を振り返る。……しばらくしてドドドド、と言う足音が聞こえる。


「っ! モンスターの群れか!」


 諫山先生が逸早く察してくれる。……その通り。約百体のモンスターの群れだ。


「桐谷、直ぐに中に――」


「……いえ。面倒なので一分で終わらせます」


「「「っ!!?」」」


 俺の「一分で片付ける宣言」に全員が驚く。……そりゃそうだろうな。だって昨日(?)までは戦いに参加さえしないし何かやっているようなことも見受けられなかったヤツがモンスターの大群を相手にするなど、誰もが信じられないだろう。


「いや、待て。桐谷、いくらお前が外で戦闘をこなしたとしても、あの数が相手では無理だ。私達も出るから焦るな」


「……焦ってなんていませんよ。ただ俺には報告したいことがいくつかありますので、話の邪魔になるヤツを排除するだけです」


「出来るのか? 大体、今お前はレベルいくつだ?」


 諫山先生は俺の淡々とした口調に段々説得されていった。


「……出来ます。俺の今のレベルは10ですね」


「そうか。だが危なくなったら加勢するからな」


 諫山先生は僅かにピクリと反応するが、加勢すると補助を申し出て、俺に任せてくれた。


「……はい。――ああ、それと先生。俺が外に出る前、なかなか強いスキルを持った四人を見つけたんですが、今日からは探索隊に参加させてはいかがでしょう?」


 俺は無表情に不良達の方を見ず迫りくるモンスターの大群を見据えて言う。……後ろで「ひいっ!」と言う情けない声が上がるが、正直どうでも良い。


「……誰で、どのスキルは言ってくれるのか?」


 諫山先生はチラリと四人を見て言った。だが五人目――御宮は俺が挙げなかったのもあって見ていない。……まあ挙げないだろ。だって新しく発見した訳じゃないし。


「……先ずは『絶対防御』ですが、今ではスキルランクが上がったので攻撃を遮断し、何倍にもして反射出来るようになっています」


「……次に『破砕』ですが、これは加減しなければ一発で大型のモンスターが砕け散るくらいの威力ですね。名前は知りませんがそこに居る青の中シャツを着た彼です」


「……次は『偽癒』ですが、これは攻撃すると痛み倍にしたそのまま残し傷を治せると言うモノです。名前は知りませんがそこに居る黄の中シャツを着た彼です」


「……最後に『獣の本能』ですが、これは五感を何倍にもする効果があり重ねがけも可能です。名前は知りませんがそこに居る緑の中シャツを着た彼です」


 俺は手をグーパーして調子を確かめながら、淡々と告げていく。それに四人は恐怖の滲んだ顔をする。


「……いやぁ、彼ら四人の拷問連携は良いと思いますよ? 二人が攻撃、『偽癒』をかけ、痛覚を倍にする。これを繰り返されればどんな大男でも発狂するでしょう」


「じゃあ何でてめえは発狂して死なねえんだよ!」


 俺が言うと、怯え切った赤の中シャツを着た不良が怒鳴ってきた。……こいつアホだな。こいつの名前も覚えてないが、バカすぎる。自分がやったて明言してんじゃねえかよ。


「お前達……!」


「……そう言えば先生は魔力を精神的な強さかもしれないと言っていましたが、それは当たりかもしれません」


 諫山先生がギリッと歯軋りして光の奔流を噴き出すのに構わず、俺は続ける。


「……俺、魔力が桁違いに高いんです。例えばこれは『力魔法』と言う所謂系統外と思われる魔法なんですが。――パワーボール」


 俺はそう言いながら魔法を放つ。『紫電』以外のスキル効果でモンスターから奪った『力魔法』だ。


 ボール系魔法のは通常ヘルメットぐらいの大きさだそれを質で大きくなったり数が増えたりする。

 つまり魔力の質ってのは、同じ魔力の消費でどれだけ強い魔法が撃てるかってことだな。


 俺が左手を前に突き出して魔法を唱えると、巨大な赤黒い魔方陣が無数に展開され、そこから赤黒い巨大な球体が無数に放たれる。……どれくらい魔力の質があればこんな理不尽が通るのか。


 赤黒い巨大な球体はモンスターの大群に向かって飛んでいき、当たることで大爆発を起こし強力な力によってモンスターを平らになるまで圧し潰した。それで約半数が絶命する。……良かった、まだ離れてて。近かったらかなりグロテスクだろう。


「……魔力の質が桁違いすぎて、ボール系一発でこれだと……?」


 諫山先生が呆然としながら驚き、教室にざわめきが広がる。


「……次は俺の固有スキルの『紫電』を見せます。今まではもしものことを考えて自分のスキルを隠し逃走する時に備えようと思ったんですが、これがあれば身体強化が出来るので問題ありませんし、俺だけ見せないのは卑怯ですからね」


 同胞が殺され怒り狂って突進してくるそいつらに、左手を向ける。


「……俺の固有スキル『紫電』は通常の雷よりも高い威力を持ち、磁力、電熱、帯電、などの効果がある」


 よって、魔力の質が高い俺が使うと、


 バリバリバリバリバリッ!!


 黒い森を消し炭にしながら大量の『紫電』がモンスターの群れを消し飛ばす。


「「「……」」」


 唖然とする教室に、俺はモンスターの殲滅を終えたので窓を開けて欲しいと指で窓を叩く。


 窓際に居た女子が遠慮がちに窓を開けてくれて、俺はやっと教室に入ることが出来たのだが。


「っ!」


 俺の強さにか、それともこれからの告げ口によって自分がここを追い出されることをか、怯えた表情で『絶対防御』を纏って俺に殴りかかってきた。


「っ!?」


 流石にこれ以上天狗にさせると可哀想なので、俺は右手でそれを受け止めてやると、放してそのまま席に着いた。


「……どう言うことだ? てめえ何で身体が吹っ飛ばねえ……?」


 赤シャツ男は呆然としていた。


「……簡単なことだ。これがお前の持つ『絶対防御』の弱点の一つだ」


 俺は無表情に告げる。それに教室中が驚くが、そう驚く程のことでもないだろう。


「……まあだが、これらはスキルじゃなくお前のせいで弱点になってる訳だが、今のは拳と掌が衝突する時に起きる衝撃を何倍かに反射する攻撃だ。だが俺はその跳ね返ってきた衝撃を、ただの握力で相殺した。ただそれだけのことだ」


「ふ、ふざけんな! 俺の『絶対防御』に弱点なんてねえしただの握力で相殺出来る訳がねえ!」


 喚く赤シャツ。


「……いくらスキルランクを上げても、絶大なステータスの差は埋まらない。つまりは、お前の筋力で俺を殴った衝撃を倍にした拳よりも俺のレベル10の筋力が勝った。ただそれだけのことだ」


 相手の攻撃を反射して攻撃するなら良いが、自分から攻撃するそれには自身のステータスが関係してくる。


「……弱点二つ目。これもステータスの差で、この場に居る誰もが出来る」


 俺は震える赤シャツを余所に話を進める。


「……それはこんな感じで――」


 俺が右手を向けると赤シャツは薄い膜で全身を包んだ。……ふむ、良い判断だ。避けられないと判断し、『絶対防御』を使うとはな。まあ避けると言う考えがないのかもしれないが。『絶対防御』なんて言う傍目からは(この場合は本人もだが)弱点がないと思われるスキルを持っているからそんな慢心が生まれる。


 バチバチッ。


 弱い『紫電』が赤シャツに帯電する。だが『絶対防御』に遮断、反射される。


「あ?」


 だが『紫電』は強くなるばかりで一向に反射される気配がない。それを不思議そうにしている赤シャツだが、種明かしをすれば簡単だ。


「……大体、『何か』を意のままにを操るスキルを持っているヤツに、この『絶対防御』って言うスキルは相性が悪すぎる。だって跳ね返ってきた攻撃も、その元々放ったヤツの支配下にあるんだからな。因みにこれは対象が死ぬまで帯電して地味にダメージを与えていく――まあスキルレベルが上がっているから手加減している訳だが。この設定を行うことによってこの『紫電』はずっとお前に帯電しようとする訳だ。つまり、『絶対防御』に遮断され反射されても『絶対防御』のせいでどんどん攻撃力が上がっていく。分かるか? 『絶対防御』が切れた時がお前の死だ」


「……っ。はっ! それがどうしたよ! 俺の『絶対防御』が無敵なことには変わりねえだろ!」


 死と言われて少し怯んだ赤シャツだが、結局何の解決にもなってないと俺を見下す。……だから、ステータスの差だって言ってるだろ。何でまだ理解出来ないかな。

 ステータスによって見えない制限が付くのはどのスキルでも同じ。俺はそれを露呈させてやるだけだ。


「……確かに『絶対防御』と言うスキルは無敵だ。だがお前がそうやって踏ん反り返っている内はただの時間稼ぎにしかならない」


「ああ!?」


 俺は内心で軽蔑しながらも丁寧に解説してやる。……凄むのは良いが、もう『紫電』で姿が見えないんだよな。顔見えないから特に怖くない。ってか俺に恐怖なんて感情は残ってないし。


「……前提が違う。確かに無敵のスキルだが、この中に居る誰でも破れるスキルではある。何故なら、それはお前が弱いからだ」


「はあ? 何を言うかと思えばそんなことかよ。『絶対防御』を持ってる俺が最強だ!」


 ……チッ。こいつ理解力が乏しすぎるだろ。


「……いい加減理解しろよ。スキルを発動させるのに必要なモノ、分かってんだろ? 『絶対防御』はその強さに比例して省エネらしいが、そろそろ切れるぞ」


 俺は不機嫌を隠そうともせずに言う。


「……そうか、魔力切れだな」


 俺の言葉によって教室に理解が広がっていき、少し思案したらしい諫山先生が明言することによって、完全に理解する。


「……はい。諫山先生が言っていたことですが、『戦闘中の魔力切れには注意しなければならない』。それは対人の戦闘においても同様ですし、まだレベル1で魔力が1のお前では、永続効果を持つこれにあらがう術はない。解除しても魔力が切れても、その瞬間に死ぬからだ。分かっただろ? くらった瞬間からお前の死は確定していた」


 俺は諫山先生に頷きつつ、赤シャツを無表情に見据えて告げる。


「……あ、あああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 赤シャツの顔に強者として元の世界ではでかい面をしてきたから無縁だった、死と言う名の恐怖が広がっていき、カードを取り出す。


「あ――」


 恐らく魔力の数値が0に変わったんだろう。小さく声を上げ、全身を覆っていた薄い膜が消え度重なる反射によってどれくらいになったか分からない『紫電』が襲いかかる――その瞬間に『紫電』を解除した。


「――」


 赤シャツは一秒にも満たないが強烈な『紫電』をくらったので、かなりダメージを受けたようだ。シュー、と煙を噴いていた。だが死んではいない。手加減した甲斐があったと言うモノだ。


「……殺されかけたのに、許してやるのか?」


 まだ微妙に生きている赤シャツを見てか、諫山先生が聞いてくる。


「……何を言ってるんですか? そんなことはどうでも良いんですよ。まだもう一つ弱点があるのでそれを見せないといけませんから。大体、街中でカツアゲされてその後そいつらにキレますか? 俺は生憎とキレません。何の関係もなくどうでも良い赤の他人にたった一日暴力を振るわれたからと言って殺意を抱く程短気ではありませんので」


 俺がそう言って苦笑すると、他全員が「……は?」と言う顔で俺を見ていた。よく分からない。


「桐谷……っ」


 諫山先生は何故か悲しそうな顔をしていた。……何でだろうか。何で皆は俺を可哀想なヤツを見る目で見ているのだろうか。

 俺はただ、事実を告げているだけだと言うのに。


「……水谷先生、回復かけてくれます? 『絶対防御』と言う絶大なスキルがあっても三つ目の方法では死ぬ可能性が高いので」


「はぁい、ヒールぅ」


 水谷先生は俺に言われていつも通り間延びした声で、赤シャツを淡い黄緑色の光を包み回復させてくれる。……因みに魔力の数値は休んでいれば三十秒程で1回復する。もうそろそろ大丈夫だな。


「……おい、いつまで寝てるつもりだ? 更に弱点教えてやるから立って『絶対防御』発動しろよ」


「てめえ……っ!」


「……別に発動しないならしないで良いぞ。その場合、お前の腹を9もレベル差があるステータスで殴ることになるが」


「っ……! てめえ、後で覚えておけよ。絶対(ぜってえ)殺してやる!」


 赤シャツは睨んでくるが、俺が言うと恨み言を言って大人しく『絶対防御』を発動する。


「……水谷先生。俺の腕がダメージを受けたら回復お願いします」


 俺はそう言ってから、左拳を構えて力を溜めていく。……先ずは何もない状態で、だ。


「……っ」


 俺が高速で、およそ人の目には見えない速度で拳を放つと、『絶対防御』の遮断と反射の前に頑丈になっている筈の腕はバキバキに折れていた。


「……ふむ、まだ無理か」


「ヒールぅ」


 水谷先生は俺に言われた通り回復をかけてくれて、直ぐに元に戻る。……ヒールは多く使ってるからな。ランクが上がってるんだろう。俺には『力魔法』があるから分かったことだが、スキルにもランクがあれば技にもランクがある。だからヒールのランクが上がっていれば効果や範囲が上がっていく訳だな。


「……はっ。何だよ、無理じゃねえか」


 恐怖に怯えていた赤シャツは、俺の拳が自分に届かないことを見ると嘲笑った。


「……次は『紫電』を纏わせて」


 俺は呟き再び左拳を放つ。……今度も同じようにバキバキになった。頑丈さも上がっているが攻撃力も上がっているからだな。


「ヒールぅ」


「……次はそうだな。『力魔法』で強化してみるか。――パワーブースト」


 俺は魔法ランクが上がって手にした筋力強化の効果を持つパワーブーストを使う。左腕に赤黒い魔方陣が通ると、赤黒いオーラが纏われる。治った腕で再び殴り付けるが、また反射され今度はグチャグチャになる。……頑丈にはなってないからか。


「……ヒールぅ」


 直ぐに回復されるが、これでは一向に破れない。


「……パワーブーストパワーブーストパワーブーストパワーブーストパワーブーストと『紫電』」


 俺は五つのパワーブーストと『紫電』で頑丈さを上げる。……流石に腕がグチャグチャになるのはグロテスクだからだ。周囲への配慮ってヤツだな。


「っ――がっ!?」


 すると、俺の左拳は『絶対防御』の薄い膜を破って赤シャツの腹部に突き刺さる。赤シャツは瞬時に壁まで吹っ飛んでいき、吐血したりと息も絶え絶えになる。


「……分かったか? どのステータスに影響があるのかは分からないが、『絶対防御』には遮断出来る上限がある。別に殴らなくても、レベル差が大きくて魔力を全部込めれば誰だって出来ます」


 一方の俺には『絶対防御』の反射がないため腕は無事だ。だが遮断の影響で威力がかなり落ちたため、赤シャツを殺すには至らなかった。


「……涼羅、赤崎を治してやれ。これで『絶対防御』を破る方法は分かった。もう反抗する気も起きないだろう。起きても鎮圧出来る」


「…………ヒールぅ」


 間があって、水谷先生は回復をかけた。完全に回復したが、赤シャツは気絶しているため動かない。


「……やり方は感心出来ないが、今までに受けた痛みと比べれば更にやっても返し切れない程だろうな。だが分かっただろう? ステータスの重要さが。――桐谷。昨日お前が何をやっていたか、されたか報告しろ。……どうせここからが本番とでも言うつもりだろう?」


 諫山先生は気まずい空気を取り払うように、話を進めるためそう言うと、俺に悲しそうな笑みを向けて言ってきた。……流石に諫山先生は察しているか。こんなどうでも良いことに無駄な時間を費やしている場合ではないと言うことに。


「……はい」


 俺はそう言って黒板の前まで歩いていく。……さて、じゃあ俺が独りになるように仕向けるため、事実を交えて報告しますか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすい文章でした。下のような矛盾があること以外はおもしろいです。 [気になる点] リンチされても、興味ない(笑)とか言いながらも心の中で文句垂れ流して改善しようともしないクソキモドM主…
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