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国王との会議

 謁見の間から会議室のような場所に移った。そこにはレーナ専属の給仕を務めるオリヴァ含めて三人のメイドがいる。国王も問答はしたがある程度受け入れることを視野に入れていたのか、俺達が到着した段階で人数分の紅茶と茶菓子が用意されていた。


 横に五人並んで座れる大きなテーブルが置いてあり、オリヴァに案内されてレーナ、俺、フーア、ルーリエ、キルヒの順で座る。向かいにはスヴィエラ、国王、ヘレナ、文官が座った。


「カイト君。早速結婚式の予定を決めようではないか。国民への正式な発表も早い方がいいだろう。加えて即位式も同時に行おうかと思うのだが――」

「お父様。そのように捲くし立てられてはカイト様も困ってしまいます。順序良く説明していきませんと」

「そ、そうだな。すまない……」


 開口一番に結婚式だとか即位式だとかの話が早口で出てきたので、半分くらい頭に入ってこなかった。前置きもなにもなく語られるとは思ってもみなかったというのもある。

 国王はレーナに窘められて恥ずかしそうに謝っていた。


「陛下。何度も申し上げますが、即位はまだ早いでしょう。急に現れた彼がいきなり王位を継承することを好ましく思わない民は多いと思われます」


 眉間に皺を寄せた気難しそうな文官の男性が国王を窘めるように発言する。


「あら、リーガル様。カイト様は今でも充分民の皆様に支持されていると思いますが?」

「それは冒険者としての彼の話でしょう。国を治める者としての評価ではありません」


 レーナの言葉に、文官の男性はきっぱりと返した。……なんだろう。二人の間で火花が散ってるような気がする。


 レーナはさっさと俺に王位を継いでもらって国を自由に動かしたい。

 文官のリーガルというらしい男は結婚は認めざるを得ないが王位継承だけは阻止したい。


 こんなところだろうか。まぁその辺の腹の探り合いは勝手にやってくれればいい。


「しかしリーガルよ。私ももう歳だ。そろそろ王位を退く必要がある」

「陛下の公務量を考えれば、すぐ他の者に引き継ぐことはできません。いくらレーナ様が優秀とはいえ、そう簡単に移譲できるモノではないでしょう?」

「ふむ……」


 リーガルの発言には一理あるのか、国王は考え込むように黙ってしまう。終始向こうのペースだ。人々の感情さえ制御しようとするレーナにしては珍しい。


「仕方ありません。ではこうしましょう」


 レーナはいいことを思いついたとばかりに手を合わせて微笑んだ。


「まず私とカイト様の婚約を大々的に発表します。その後、お父様の公務を私が引き継ぎつつ、カイト様には王としての支持を得ていっていただく。様子を見てカイト様の即位式を執り行う。冒険者としてではなく、国王としての支持が得られれば問題ないのでしょう?」


 あたかも今思いついたとばかりに発言しているが、元からこういう風に提言する予定だったのだろう。それがわからない国王は感心していた。ただし、リーガルにはそれがわかったのかやや苦い表情になっているが。


「……まぁ、それで構いません。国民にも国王が代わる心構えをさせる猶予もできますし、もし支持が得られなければ即位させないということができます。現実的な提案ですね」

「ご理解いただけて嬉しいです」


 リーガルは不満そうだったが、レーナの提案を呑んだ。最初からそう提案しておけばいいものを、わざわざ遠回りした理由はよくわからない。俺の浅知恵など及ばない領域だ。


「カイト君はそれで良いかな?」

「……はい。ご存知の通り私はただの冒険者ですので。国に関係するところは、余計な手出しをしない方が賢明かと思います」


 国王に聞かれて、俺は頷いた。わからないのでやりません、を基本的に答えるようにとレーナに言われている。実際俺にはわからないし、面倒な公務を好んでやりたいとも思わない。


「当然ですが、ずっとそのままでは困ります。国を背負って立つ以上、貴方にも最低限の知識を持ってもらわなければ」

「そのことは重々承知しております。追々、私の方からカイト様にご教示いたしましょう」


 棘のあるリーガルと、微笑んだレーナがぶつかり合う。……ふむ。異世界に来ても勉強から逃れられるわけじゃないか。


「それで、レーナ。カイト君との結婚式はいつにするつもりだ?」

「そうですね……。どれほど大きな式にするかにもよりますが、一週間後から二週間後ほどが良いかと」

「そうだな。では早速準備の話を進めていこう」


 国王としては早く結婚の話をしたいようだ。愛娘の結婚だからだろうか。


「……仕方ありませんね。日取りや式典会場の準備は私の方で進めておきましょう。レーナ様とカイト様に置かれましては採寸がありますので、この後別室に来ていただけますか? 職人をお呼びします」


 リーガルは納得していない様子ではあったが、国王も乗り気だからか反対はしなかった。この人が内政業務の大半を管理しているのだろうか。


「すまないな、リーガル」

「いえ、いつものことですので」


 国王に応えるリーガルの様子を見るに、彼は国王を心から慕っているのだろう。だからこそ、急に現れた俺が王になることに反対している。


「お二人をそれぞれ別の部屋に案内するように」


 リーガルは席を立つと、オリヴァに顔を向けて指示を出した。全員に対して一礼した後、早速準備に取りかかるのだろう、足早に部屋を出ていく。


「カイト様、レーナ様。別室へご案内させていただきます」


 オリヴァが深々とお辞儀をして告げてくる。レーナが立ち上がったので、俺も続いて立ち上がった。


『……かいと』


 不意にフーアの声が頭に響いた。見ればこちらをじっと見上げてきている。やや不安そうにも見える表情だ。頭に手を置いてから、隣に座っているルーリエを見た。彼女は小さく頷くとフーアの手を握る。


 それを確認してから俺はオリヴァとレーナに続き部屋を出ていった。


 城内の別室に案内されると、結婚式用の衣装を見繕うためだろう。後からやってきた職人が俺の身体を採寸した。当たり前だがレーナとは別室だ。

 予想していたよりも仰々しいことになりそうなのは面倒だが、まぁ人間やりたいことだけやって生きてはいけないからな。


 衣装のデザインは派手すぎなければいいと言っておいた。俺にファッションセンスなんてないし、考えるのも面倒だ。時間の無駄と言い換えても過言ではない。

 採寸を終えてレーナとオリヴァに合流する。


「カイト様。お住まいはどうしますか? 城にという話はしましたが、こちらと私のいる方、どちらが良いかと思いまして」

「……お前のいる方でいいだろ。なにかと都合がいい」

「ふふ、ええそうですね。ではそのように手配を」

「かしこまりました」


 今いる城の方は広すぎて迷う。それにこうして歩いている分にはいいが、ここで生活をするという感覚がよくわからない。元の世界でこんなに広い場所にいたのは体育館くらいだろうし、こっちに来てからも高すぎない宿屋に泊まっていた。おかげで貯金はあるが、広すぎる場所での生活にどことなく違和感を覚えてしまう。


「他のお三方も、カイト様と同じように部屋を宛がう形でよろしいですか?」

「……ああ」


 オリヴァに聞かれて頷く。三人はそれでいいと言っていた。


「では部屋に戻りましょう。合流した後で、後宮へと向かいます」


 オリヴァが先導する形で部屋に戻ると、国王とスヴィエラがなにやら温かいモノを見る目でルーリエを見ている。ルーリエは顔を真っ赤にして俯き、フーアはにこにこと嬉しそうだ。キルヒの様子は変わっていない。……? なにかあったんだろうか。確かに俺達がいない間、ずっと黙って座っているわけにもいかない。なにか話でもしていたのかもしれなかった。


「なにかお話しされていたのですか?」

「いいや、大したことではないよ。カイト君のことを、少々聞いていただけだ」


 なるほど。まだ二回しか会ったことがないからな。娘の婿になると考えれば人柄も知っておこうとするのも当然か。なにか余計なことを言われてなければいいんだが、部屋の空気からして悪くはなさそうだった。


「お父様。皆様は私と同じ後宮にお住みになるようです」

「そうか。レーナは後宮暮らしで良いのか? 折角の機会だ、王城に戻っても……」

「いえ。公務を行う時は王城に参りますが、住まいとしてはあちらに慣れてしまっているので」

「そうか……」


 国王は断られて少し悲しそうだった。娘と一緒に暮らしたい親心だろうか。


「ではお父様、これで失礼します」

「ああ。準備の話でまた声をかけよう」


 俺もレーナに続いて頭を下げる。三人も椅子から立ち上がって礼をしてから、部屋を出た。


 そのままレーナと共に後宮へ向かう。住む部屋を決めなければならないのだ。


「後宮には現在、レーナ様と私しか住んでおりません。ですので皆様が住むようになっても余りある部屋数となっています。レーナ様が最上階、私が最も入口近い部屋に住んでおりますので、その二つ以外でしたらどこでも構いませんよ」


 後宮に着いてから、オリヴァが説明してくれる。


「……かいと、どこにする?」


 きょろきょろと後宮内を見回していたフーアから尋ねられた。……どこ、か。特に好みはないんだが。


「……強いて言うなら、二階の東側の角部屋だな」


 確か、その位置に元々俺の部屋があったはずだ。夕日は射し込まないが、朝日が射し込んできたので合っていると思う。


「二階は四部屋ございますね。実際に上がってみましょうか」


 オリヴァの案内で二階に上がった。四つ部屋があって、それぞれ東西南北の方角に分かれているようだ。


「東側なので、こちらでしょうか」


 オリヴァが部屋の扉を開けてくれる。中は家具が一式置いてあるだけの簡素な様子だったが、置いてある家具が高級そうなのでそこまで簡素にも見えない。ただし造られた部屋という雰囲気はしている。人が住んでいないからだろう。


「二階の部屋はどちらも同じ広さとなっております。他の部屋も見てから決めますか?」

「……いや、ここでいい」


 同じ広さなら迷う必要はないだろう。朝日と夕日が射し込むかどうかの違いだけだ。異世界に来てもその辺りが元の世界と同じ方角なのは既にわかっている。


「ではこちらをカイト様のお部屋としましょう。他のお三方は――」

「ふーあも、かいとといっしょ」


 オリヴァが俺以外の三人に尋ねようとすると、フーアが先んじて告げた。


「えっ? あ、いえ、それは……」


 フーアの突然の発言にオリヴァは困窮しているようだ。これから結婚しようという女性を差し置いて他の女性と同室というのは良くないことだから、なのかもしれない。


「……いっしょ、だめ……」


 オリヴァから許可が貰えなかったためか、フーアはしょんぼりと肩を落としてしまう。オリヴァはある程度しっかりした様子しか見ていなかったが、今はどう対処すればいいかおろおろしている。こんなところは初めて見た。


「カイト様と同じ部屋で構いませんよ」


 そこに、レーナが助け船を出す。


「よ、よろしいのですか?」

「ええ。フーア様でしたら構いません。これまでもカイト様と一緒に暮らしていますからね。フーア様以外でしたらお断りするところですが、フーア様はそういうの(・・・・・)ではありませんので」


 レーナはにっこりと微笑んで許可を出した。彼女が許可すれば、フーアも許される。ぱぁと顔を明るくして喜んでいた。

 かなり含みのある言い方だったが、要は妻になる者として問題があるか否かの話をしているのだろう。フーアはまだドラゴンの幼体だ。成長が早く見た目も少女なので大きく見えるが、実際には生後一年経っていない。鳥が最初に見た生物を親と思う、のとそう変わらないのだと思う。


「カイト君とフーアちゃんが同じ部屋なら、その隣にしよっかな~」

「儂はどこまでもいいんじゃが、折角じゃし反対側の隣にしようかの」


 ルーリエとキルヒもあっさりと決めていた。キルヒはもっと広い自分の家があるので、そこまで執着がないのだろう。俺としてもフーアを預けられるルーリエが近くにいてくれるのは有り難い。もう少し自由に動けるかもしれないしな。


「ではお部屋も決まったことですし、皆様でお買い物にでも行きましょうか。家具は一通り揃えていますが、他にはなにもない部屋ですからね」


 レーナがいい提案とばかりに言って、俺達は街へ出ることになった。

 当然だが、レーナが行った宣言のこともあって注目を浴びる。しかもどうやらレーナは滅多に外に出てこないらしい。“人形姫”と称されたレーナがにこにこと笑顔を振り撒きながら城下町を歩く……これもまた、俺の支持を高めるための演出なのだろう。

 暮らしに必要なモノを買うという名目で私は黒帝によって変わりましたよということをアピールする。相変わらず抜け目がない。


 ともあれ、驚かれはしたがレーナがいい方向を向いていることがわかったためか概ね歓迎されているようだった。

 人形のように美しいと言われた彼女が華やかな笑顔を浮かべるようになった、というだけでも効果が高いのだろう。


 国の金で全員分を支払い、城まで届けるように頼み、一日中歩き回った。

 レーナは非常に楽しそうな雰囲気を醸していたが、フーアは逆に難しい顔をしている。彼女はレーナの外側と相反する心を読み取り、不思議に思っているのだろう。


 その日の夜は今まで食べたこともないほど豪勢な食事を王城で食べることになった。新たな一員を歓迎するためなのだろう。最も歓迎される立場なのでレーナの隣、主賓席に案内されてしまった。食事マナーについては事前に教わっていたが、教わっていなかったら王になるような人物ではない、と思われていたかもしれない。

 随分と気の張る生活になりそうなので、これまで通りある程度冒険者として活動したいが、どうなることやら。


 とりあえず、大きな変化のあった一日を終えて新しい部屋のふかふかな大きいベッドに入り、眠ることにした。

 明日からやるべきことが大幅に増えそうなので、今日のところは休むとしよう。

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