神になるために
昨夜更新し忘れていました。……GE3に夢中になってたとか言えない。
『それが、許されると思っているのですか?』
俺が部屋で独り目的を掲げていると、頭の中に直接響くような女性の声が聞こえてきた。瞬間、目の前の景色が一変しベッドに寝転がっていたはずだが立ち上がっている。真っ白くなにもない空間が広がっていた。ただ俺から少し離れた位置に髪や瞳、衣装など全てが白に包まれた女が佇んでいる。だがただの人とは思えない。身長からして俺の三倍、六メートルくらいはあるだろう。
「……誰だ?」
聞き覚えのない声と見覚えのない姿だった。干渉されるまで気づかなかったということは、かなりの強者と判断できるかもしれない。
『現在あなたがなりたいモノとして掲げている存在です』
胡散臭さが滲み出てきたが、どうやら神のようだ。確かに全身から神々しいオーラが出ているような気がしなくもない。あと純白の鳥のような翼が背に生えている。飾りだろう。
「……神か。俺になんの用だ」
『なんの用だなんて、白々しいですね。あなたが神になるということは、私を殺してその地位を奪うということですよ』
「……できるならこの場で殺りたかったんだがな」
どうやらスキルが発動しない。おそらくこいつの創り出した世界だからとか、そういう理由だろう。
『傲慢な人。ですがそれでこそ歴代最強の黒帝。いつかの黒帝は弱くて退屈したモノですが、あなたは『蠱毒』がありますから大丈夫そうですね。あなたを呼んだ甲斐がありました』
薄ら寒い笑みを浮かべて神が言う。
「……俺達を召喚したのはお前だと?」
『いいえ。欲していたのは女神のみでした。その者は黒帝が世界を牛耳るために足りない女神を補おうと考え、召喚を行いました。黒帝には宛てがあったようですが』
「……そこにお前が干渉して、より強そうな俺を召喚させたと?」
『ええ、その通りです』
こんなところで召喚の謎について一つ情報が得られるとは思ってもみなかった。そういえば、確かに考えたことがなかったな。誰が俺達をこの世界に召喚したのか。
「……要はお前が退屈凌ぎに強いヤツと戦いたいから黒帝を選んだわけか。とんだ戦闘狂だな」
『永らくいるとたまには運動もしたくなるというモノですよ。特に下界の人々が必死になって戦っているのを見ていると』
人が昆虫を戦わせて面白がっているのと同じ感覚のようだ。俺もこれからその立場にいこうというのだから否定はしないが。
「……そうか。なら要望通り、お前を殺しに行こう」
『楽しみに待っています。ですが私に挑むには条件が必要です』
宣戦布告にも動じない。俺のスキルを知った上でこの余裕なのだから、単純にステータスを上げ続けるだけでは敵わない可能性が出てくるな。
『女神を全員集めてください。そうすれば神の城への道が開かれるでしょう』
女神、か。姉達に加えておそらく既にいた者達も含まれるのだろう。時元の女神は街に住んでいるという記述があったのは知っている。そいつらを俺の下に集わせるとなると、交渉か侵略か。なんにせよ回りくどい手順には違いない。
「……質問だ。女神ってのはスキルが基準になると思うが、俺が『蠱毒』でそのスキルを手にした場合は考慮されるのか?」
女神と名のつくスキルを男の俺が持つというのは奇妙な状態だが。
『はい、問題ありませんよ』
そうか。なら最悪の場合は皆殺しでいいわけだ。
『ただ、そう簡単に集まるとは思わないことですね』
笑みを崩さないままに告げてくる。わざわざ教えてくれるとはお優しいことだが、どうせなんらかの細工をしているのだろう。おそらくこいつの手が加わった人物が立ちはだかるとか。
しかし逆に言えば、それらを乗り越えることさえできれば神に挑戦するに値する実力は持っているということになる。折角得た目的だ。障害は全て排除するとしよう。
「……まぁ、十全に準備はする。精々待ってろ」
『はい、精々頑張ってくださいね』
言い合うと、来た時と同じで瞬時に宿の部屋へと戻ってきた。
……神か。どんな能力を持ってるのかもわからんが、最終目的を達成するために立ちはだかる敵としては充分だろう。
特にあいつの言葉を信じるなら、だが俺はあいつとまともに戦えるまで強くなれる素質があるらしい。多分だが『蠱毒』だろう。『黒皇帝』は今までもいた。『紫電』なら天龍とかいうヤツでいい。
この『蠱毒』を活用してステータスを上昇させ続けること。そして有用なスキルを入手し続けて万能を創り上げること。それが神になるために必要な手順だろうか。
高難易度ダンジョンも、あいつが俺を呼んで暇潰しをするためと考えれば納得がいく。神というからにはこの世界を管理しているヤツなんだろうが、随分と民に優しくない神様だ。不干渉という意味ではなく、干渉した上で優しくない。問題のある神だが、そうでもなければ暇潰しに異世界から強くなりそうな人材を連れてこないだろう。傍迷惑なモノだ。
さて。とりあえず当面の目標を立てたいが、国を使って動けるならそれが楽か? 一度レーナと話してみるか。ただ世界を巡って女神を殺すだけなら簡単だが、もしまだ女神になっていない人物をなんらかの拍子に殺してしまって永遠に機会が訪れない、とかなったら手間だ。急激にやるよりは慎重に動いたようないい気もするが、それを読まれていて神が手駒を忍ばせる時間を作ってしまうのもな。
「……まぁ、世界の全てを管理している神だから気にする必要はないか」
こうして作戦を立てている俺の頭も読み取られている可能性がある。そうなったら考えるだけ無駄なので成り行きに任せた方がいい。……それだと今までと同じでは?
俺は深く考えることをやめ、一度レーナに会いに行ってみることにした。話を受けたのが昨日のことなので週一だったと考えると間隔は短いが、行ってみるとすんなりと通される。おそらくレーナが答えが出たらすぐに来ると予想して、次の来訪間隔は短くなると周囲にそれとなく広めていたのだろう。
「では、お話を聞かせていただけますか?」
いつも通り私室で落ち合うと、少しわくわくしたような、期待したような表情で開口一番問うてきた。期待するようなことではないと思うが、俺は一部異世界人にはわからなさそうな単語を伏せながら結論を伝える。
「……っ!」
するとレーナは背筋をぞくぞくとさせながら顔を恍惚に歪めた。どうやら、俺の目的は彼女の琴線に触れてしまったらしい。
「嗚呼、やはりあなたは素晴らしい! あなたを見込んで良かったと心から思います」
珍しく大仰な身振りも加えて、歓喜を身体全体で表してくる。
「黒帝、カイト様。私はあなたにこの国を献上し、また世界各国をも手中に収めることを宣言します」
律儀に膝を着いてまで礼を尽くした。
「……別に各国を手中に収める必要はないだろ」
「いいえ、ありますよ。なにせ女神とは、見目麗しく力ある存在。ただの民でいられるような者でもありませんので。これから増えるにしろ、今判明している方を中心に侵略するにしろ、重要なポストを得ている可能性が高いです。むしろ今となっては各国が強い種族をどのくらい多く有しているかによって戦力が左右されます。カイト様が黒帝として国を統治したことを発表し、更には世界を統治することを宣言した場合、抵抗する国が出てくるでしょう」
「……そんな大それたことをさせるつもりか」
「はい。黒帝という種族を最大限利用しましょう。さて、それはまだ国を手に入れたからのお話です。まずは国取りの作戦から立てていきましょうか」
にっこりと、国を治める王族の一人である彼女が言った。
だが国を経由して世界を統治するのであれば、民の信頼を得ることは不可欠だ。果たして俺にそんな大役が務まるかどうか。なにせ統治など一切したことのない高校生だったのだ。
「普段から依頼を多く受けているカイト様には、現在働き者であり困った者を助けることに躊躇しないという評判があります」
そんな大層はことはしてないんだが。確かに報酬が少なくても回ってきた依頼は適当に受けるようにはしてると思う。今までは特にやりたいこともなかったからな。だがフーアのお守りをするのも面倒だった。
「後者の評判はそれを実際に行っている冒険者パーティとの交流があるため、そういう共通点があるのではないかと噂が立ったようですね」
こんなところでルグルスが役に立つとは。というかあいつは確か王都に行ったことがないとか言ってなかったか? それなのになぜこんなところまで噂が立っているのか。レーナの情報網が広いにしても有名すぎる。
「彼の影響力は強いですね。カイト様なら大丈夫だと思いますが、くれぐれも彼の反対を受けるような真似はされない方が良いと思います。私で印象操作できるならいいのですが、彼の行動は人の心を動かすようですので」
レーナはどうやらルグルスを一目置いているらしい。この心を弄ぶことを生きがいにしている姫様が懸念している存在か。スキルもないのに凄いことだな。
俺も程々の付き合いで留めているが、気をつけた方がいいかもしれない。
「……まぁ、気をつけとく。で、具体的にはどう道筋を立てるつもりだ?」
「国王を悪に見立てる案があったのですが、評判上難しいと思いました。なので第二案として、カイト様には順当に王になっていただこうと思います」
「……順当?」
俺になにをさせるつもりだろうか。
「簡単です、私と婚約すればいいのです」
「……とんでもない罰ゲームだな」
思わずそう口にしてしまった。紛うことなき政略結婚とはいえ、目の前にいる見た目だけはいいが中身がおどろおどろしいヤツと結婚はしたくない。というよりも結婚というモノに対してあまり肯定的でないというのはある。誰かと一緒にいることなど俺からしてみればなんら意味のない行為だ。遠くで勝手にやっていろ、と思う。
「罰ゲームだなんてそんな、酷い言われ様です。ただ間違ってはいません。カイト様には国王として、加えて英雄として衆目を浴びていただかなくてはいけませんから」
確かにそれは酷い罰ゲームだ。俺にとっても周囲にとっても。
「……英雄か。すぐにバレそうだな」
「一度王になってしまえば割と上手くいきます。私が手を回しますので、カイト様はなにかわかりやすく人に誇れる偉業を成してください。民に英雄を認められればあなたを支持してくれる民も出てくるでしょう。その兆しがあった時に、私からカイト様のおかげで人の感情を取り戻せたとお父様に伝えます。その時に今までの政策から民を慮る気持ちを足した政策を打ち出します。そうしてカイト様の支持を高めたところで婚約し共に国を統治していくのです」
「……そう上手くいくか?」
いくらレーナの印象操作が上手くいったとしても、どこかでボロが出ると思う。
「はい。細かなところは私にお任せください。カイト様は印象を悪くしない程度に、今まで通り過ごしていただければ。カイト様の裏事情の噂なども流しておけば印象は大分良くなるはずです」
「……そうか。まぁ、そう言われたら任せるしかないな。どっちにしろ俺にはできん」
人の心を読み取ることはできたとしても、人の心を操作するようなことはできないのだ。だが人の心を弄ぶのが好きで得意なレーナがいればその辺りをカバーできる。
「……ちなみに婚約しないで王にはなれないのか?」
「不可能ではないと思いますが、その場合は私が国を手中に治めるという個人的目標が達成できませんので、協力はしません」
なるほど。俺の支持を上げる目的と、レーナが政治を行うという目的のために婚約する必要があるわけか。それなら合点がいく。
結婚にそこまで肯定的ではないが、利害の一致でなら構わないだろう。どうせこれから先行うことはないはずだ。
「……わかった。その作戦には乗ろう」
「ありがとうございます」
「……だが一つだけ、俺がやっておきたいことがある」
「なんでしょう」
レーナの話と俺が思っていることを踏まえて、一つだけ障害が起こりそうだった。もし俺が王になれたとして、その後の方針次第では反乱を未然に防ぐことにも繋がる。
「……わかりました、お好きなように。ただ充分お気をつけて」
俺の提案を聞いたレーナは若干眉を寄せつつも、俺がやりたいようにやっていいと言った。
さて、これからが本番だ。神になるために、まずは女神集め、をするために国を手に入れようか。