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ダンジョン攻略後

 結局、三日目には王都からドルセンの街に戻ってきてしまった。せっかく国が宿泊費を出してくれるのだからもっと泊まっていれば良かったとも思うが、その間も部屋を借りている関係で元の宿屋の宿泊費を無駄にしていると考えると長く滞在すればするほど損になる。

 金に困ることはなくなったのかもしれないが、変なところでケチな部分が出てしまう。限られた資金でやりくりしてきた関係だろうか。金が増えたからといって一気に贅沢をすることはできないようだ。

 金が増えたらいい宿でいい飯を、という思惑もないので構わないだろう。


 ドルセンに戻ってからフーアをルーリエに押しつけることが増えてきたため、代わりに冒険者としてクエストをこなす量が増えた。国王と謁見したことが影響しているのか俺宛に依頼を出す者が増加傾向にある。また国から通常より報酬金額が五割増しのクエストが舞い込むようにもなり、金銭面で困ることはなさそうだ。

 実力についても例の肉塊を倒した時の『紫電』が話題になっているのか、それまでより難易度の高いクエストが依頼されるようにもなった。


 王都から戻って思いついたのでタイミングは悪かったが、ギルド経由で国に高難易度ダンジョン攻略許可を貰うことにした。普段から行って有用なスキルを獲得してはいるのだが、正式に俺が突き進んでもいいかという許可を得るためだ。これで攻略できれば次のダンジョンも俺に回ってくる可能性が高い。

 そうなればステータスやスキルを効率良く集めることができるだろう。どうやら一度行った高難易度ダンジョンのボスは新たに出現しないらしい。おそらく討伐した時に貰える報酬がいいモノだからだろうが。


「いやぁ、しっかしもう俺とは住む世界が違うよなー」


 俺がルグルスと歩いていると、彼が不意にそんなことを言った。


「……そうか?」

「そうか? って反応薄いな、相変わらず。だってそうだろ? SSS級冒険者ってのは会った頃から変わってないけど、あの時とは知名度が違うっていうかさ」


 彼はそう言って屈託なく笑う。別段そのことに対して負い目はないようだ。そんなことをしている間にも通りかかった男性に「よぉ、ルグルス。こいつぁ手土産だ」となにかの素材を渡されている。


「おう、ありがとな。で、高難易度ダンジョンの攻略も任されたんだろ? そんなヤツが今俺と話してるなんて不思議に思えてくるぜ」


 言いながら、野菜を売っている女性から「昨日の残り分だけど貰っていきな」と野菜の入った袋を渡されている。


「……そうでもないと思うんだが」


 彼に応えつつも、少し後ろからルグルスの方を見やった。

 なぜだろう。こうして街の通りを二人並んで歩いていても、知名度が高くなったらしい俺に話しかけてくる者はいない。いないこと自体に問題はないが、ルグルスには誰もが声をかけていくように見えた。


 ……スキルじゃなくて、ただの人望か。


 アルコールが入った時に所持スキルについて聞き出してみたのだが、『カリスマ』というようなスキルは保持しておらずまた存在しないという。つまりスキルにはない彼の人望が今の状況を生み出しているのだろう。ただ強いだけでは英雄になれないのだろう。そもそも英雄は人望あってこそそう呼ばれるべき存在だ。俺がそれになりたいと思うことはないが、人々から憧れられる存在になるようなことは今後ともないだろう。

 実際に、いつだったかある家が倒壊した時は彼が一声かければ道行く人が手伝っていた。誰よりも率先して助けようとする彼に引っ張られるように参加していた覚えがある。


 ……スキルだったら、確実に抹殺してたんだが。


 慕われたくはないが俺にいいイメージを持っている者が少ない中そんなスキルを所持すれば相殺されてどうでもいい存在になれる気もした。とはいえ今は叶わぬこととなったわけなので、あまり気にしないこととする。


「今日はどこ行くんだ?」

「……ダンジョンだ」

「マジかよ。……俺だけにこっそり何階層まで行ってるか教えてくれないか?」

「……明かす必要はないな。攻略されたら攻略だ」

「お前は変わんないよな、そういうとこ。すげー強くてすげーことやってる癖に、やけにこうドライっつうか周囲の評価を気にしなさそうっつうか」

「……気にしたってしょうがない」


 周囲の評価を気にするのはレーナくらいでいい。俺は適当にやって常に仕事が舞い込んでくるようになればいいと思っている。現状維持でも問題ないくらいだ。そう考えると有名になりすぎて持ち上げられるのは遠慮したいところだろうか。


「そうなんだけどな、やっぱ周りが自分のことをどう言ってるかってのは気になるもんだぞ?」


 ルグルスの日頃の様子を見ている限り、心配なさそうなのだが。本人はあまりそう思っていないようだった。


「でも俺カイトのそういうとこ、好きだぜ」


 爽やかな笑みを浮かべてそんなことを言ってくる。


「……そうか」


 こいつに好かれてもいいことはない。いや、いいことはあるがそうならなくていい。というよりこいつと付き合いを持って気づいたことは、こいつを嫌うまたはこいつが嫌う人物が一切いないことだ。

 俺より少し年上程度でその域に達しているとは、こいつの人徳は凄まじいモノがある。


 とはいえスキルとして奪えないのなら放置することになるだろうか。


「じゃあ俺は仲間達と一緒に行くわ。またな」

「……ああ」


 ダンジョンへ行くということもありルグルスとは別れた。王都に招かれてからというもの、門で見張っている衛兵が俺を見て敬礼するようになっている。そこまで畏まる必要はないだろうが、余程黒帝は敬われていたのだろう。今代の黒帝も同じだとは思わない方がいいと思うが。


 そして俺はそれから、高難易度ダンジョンを制覇するまで潜り続けて、無事攻略を果たした。

 最終階層のボスはそれなりに強かったが、おそらく『竜眼』を解放したヘレナよりもステータスが低いぐらいだろう。騎士団長をそこかしこに派遣するわけにはいかないのだと思うが、正直これくらいなら黒帝でなくてもいけそうだ。無論敵も強化スキルを持っているので単純なステータス度合いで勝負が決まるようなことはないのだが。

 しかしかなり有用なスキルを獲得したと思う。後で整理しておかなければならない。


「高難易度ダンジョン攻略を祝ってぇ、カンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」


 俺が街に戻ったその日の夜。急遽冒険者が集うギルドで宴が開かれることになった。

 とはいえなんの感動もなく攻略できたので俺としては欠席したい気分ではある。ただ主役が欠席することを許さない癖に主役の意思を無視して宴を開くのは、どこの世界も変わらないようだった。


 最終階層は五十だ。その五十階層のボスはそれまでと比べれば強かったが、正直に言って俺の今のステータスでは相手にならない。よく使っている剣、トリニティ・トライデントで両断して終わりだった。

 攻略した後ダンジョンが消えて地上に戻された時は貴重な体験をしたと思ったくらいだろうか。他には攻略報酬という特別な報酬があり、十階層毎に貰える報酬とはまた別でアイテムを獲得した。この世界の常識を勉強中の身ではあるが、それがとても凄いアイテムであるということは理解できたので、そういうモノがあるという報告だけをして売らずにおく。持っているといつか使うことがあるかもしれないと思って備えることはこの世界では重要だ。

 三十階層で獲得したのはトリニティ・トライデントよりも基本性能が高い武器だったが、武器種が槍だったためギルドに売り払った。どうせ俺が使わないのなら精々有効活用してもらおう。それで面倒事が減るのならそれでいい。生活できるだけの資金を稼げればそれでいいのだ。……にしても最近は稼ぎすぎてるな。もう少しクエストをこなす頻度を減らすとするか。あるクエストを全て受けてそれらを達成したら戻ってきて、次の日に達成報告をしてあるクエストを受けて、の繰り返しだ。休む必要があまりない身体になってしまったからか、行ったり来たりするのが面倒だとそうなってしまう。


 主役だと持ち上げられてしまったが、結局のところただ楽しく騒ぎたいだけの連中だ。適当に付き合いあしらうだけで満足する。あとこういう場で盛り上がらないヤツには声をかけはするがしつこく絡んでこない。結局自分が楽しめる相手を探すのが基本だった。

 飲み会のようになっているのにフーアが連れてこられていて、酒を飲まされていた。だが幼くてもドラゴンだからか全く酔わずに酒豪を名乗るおっさん達と飲み比べをして五人ほど倒している。その後はふらふらと俺の方に来て上に乗り寝てしまったので、全く酔わないわけではないのだろう。酒樽一気飲みとか、成人式でやらせたら間違いなく誰か死んで問題になるだろうに。というかドラゴンとはいえ未成年だ。人の法律は適応されないと言い訳を挙げればいいのかもしれないが、問題視されそうではある。


 十騎士の面々も来ていたが、冒険者達と喧嘩腰で飲み比べをして全員倒れている。私服までそれぞれのイメージカラーに沿っているので、同じような場所に倒れていると一角だけカラフルに見えた。最近はエリオナぐらいにしか会っていなかったが、人数は変わっていないらしい。普段の仕事が忙しかったのだろう。


 ギルドマスターとエリオナが同じ席で飲んでいる。最初会っている時は険悪だったが、実は気が合うのかもしれない。

 フィシル含む受付嬢達はウェイターの補充要員らしく、忙しなくあちこちを歩き回っていた。


 カサンドラもなぜか参加している。神官だが脅威の飲みっぷりを発揮して周囲を驚かせていた。

 ……あいつについてはイマイチ真意の読めないとこがあるので、実を言うと『心象掌握』を使ってある。そもそも最初から信用はしてない。大体、この世界での神官ってのは神を信奉しその教えを広める存在だ。まぁ当然と言えば当然なんだが。しかしこの世界で黒帝は神に仇なす愚か者としても知られてる。特にどっかの宗教国は黒帝の出入り一切を禁じ徹底抗戦の構えを取っていた。


 なにが言いたいのかと言うと、神官が黒帝である俺をわからないはずがなく、そして俺に様をつけて接するあいつは信用ならない。


 だからこそ最大限に警戒して『心象掌握』を使ったのだが。

 とりあえずまともな思考回路はしていなかった。

 信奉者という点では変わりなかったのだが、警戒に値する人物だ。とはいえスキルは大したことがなさそうなので殺す価値がない。だが野放しにしておくと厄介、というようなヤツだった。俺に正当性が得られればいいが、そう簡単にはいかないだろうと思うので事故に見せかけて抹殺するのがいい。ただし俺もそこまで構ってやる気はないのだが。


「……そろそろ戻って寝る。疲れたしな」


 適当にギルドマスターへと言って、俺は宴が一旦落ち着いたところでフーアを背負い宿屋に戻った。疲労なんて感じないので疲れてもいないが、ダンジョンに挑んで帰ってきた次の日だ。人を納得させるにはいい理由になるだろう。


 とりあえず今日は寝て、明日王都へ行こう。魔術師団団長に『紫電』について尋ね、レーナに会おう。

 『紫電』を持つ強いモンスターがいるのなら警戒すべきだ。生息地や規模などを知っているなら教えてもらう。そして可能なら『紫電』を強化するためにそいつらを狩りに行く。若しくはそれと同等のスキルを持っているようなモンスターがいるなら控えて倒しに行くとしよう。


 まだまだ、やることはいっぱいあるのだ。

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