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黒帝の眷属

週一更新はしばらく続けられそうです。

 一旦泊まっている宿屋へ戻ってきた。

 ルーリエはフーアを宿屋で見てくれていたようで、二人共部屋にいる。


 忘れない内に聞いておこうと思いフーアに尋ねた。


「……フーアはステータスカードを持ってるか?」


 ステータスを確認するにはカードを見るのが丁度いい。


(……こてん?)


 しかし小首を傾げられた。質問の意味がわからないような顔をしている。


「カイト君~。モンスターはステータスカードを持ってないんだよ~? いくら人型でもそこは変わりないと思うけど~」


 フーアの代わりにルーリエが答えた。文献を見る限りで載っていなかったのは、おそらく書くまでもない常識だからだろう。


「……そうなのか。じゃあフェザードラゴンのステータスはどのくらいだ?」


 結局はステータスが確認できればいい。クリスタルドラゴンは体感で3、40万といったところだった。ドラゴンの中でも上下があるのでフェザードラゴンも同等なのかはわからないが。


「う~んとね~、成体だと20万くらいって言われてるね~。幼体のフーアちゃんは5万くらいだと思うよ~」


 成体は20万か。黒帝がレベル50の時の平均ステータスと同程度と考えられるな。しかしいつ成体になるのかや今のステータスについて全くわからないのは不便だ。


「……ステータスカードがないと不便だな。フーア、じっとしてろ」


 俺はある考えが浮かんで、フーアの頭に右手を乗せる。左手を胸の前に掲げつつ、右手から黒を溢れ出させた。黒が彼女の身体を覆う。『黒皇帝』が他のスキルよりも干渉できる範囲が広いというのであれば、今まではやってこなかったが他人のステータスにも干渉できるかもしれない。『黒皇帝』によるステータスへの干渉ができるのであれば、無理矢理ステータスを向上させた軍隊を作ることも可能になるかもしれない。俺が誰かを従えるようなことがあるかはわからないが、まずはスキルでできることの把握も必要だ。

 右手から出した黒によってフーアのステータスに干渉し、干渉したステータスを元に左手がステータスカードを創造していく。


 欲しいのは人が持つカードと同じ項目に加えて、成長度というような数値だ。EXPと同じでいくつ分のいくつと表示されるようなら尚良し。残念ながら『黒皇帝』では同じ白いステータスカードにはできないが、そこは大目に見てもらうしかないだろう。

 神が創らないというのであれば無理矢理俺が創ってしまえばいい、という大雑把な考えだ。


 左手に少しずつ黒いカードが形成されていき、赤い文字でステータスが刻まれていることを確認した。一枚のカードが完成したのを確認してから右手をフーアの頭から離す。


「……これでいいか」


 創った者の特権としてフーアのステータスを一通り確認してから、問題ないことを確認した。きちんと指で下にスクロールでき、スキルも表示されている。動作も問題ないようなので、フーアへと黒いステータスカードを手渡した。


(……?)

「……ステータスカードだ。ここにフーアが持っている力が数値で表されていて、スキルなども書かれてる。使い方は後で説明するが、失くさないようにな」

(……こくん。だいじ、する)


 失くしたら一旦解除してもう一度創り直せばいいだけだが、だからといって何度も創るのは面倒だ。


「ま、待ってカイト君。今なにをしたの?」


 慌てたようなルーリエが声を上げた。驚いているのかいつもの間延びした口調ではなくなっている。


「……黒帝の持つスキルでフーアのステータスカードを創ったんだが」

「す、ステータスカードを創るって、そんなこともできるの?」

「……やったことはなかったが、『黒皇帝』は他のスキルを書き換えることも可能だったからな。他者のステータスを一時的に強化することもできる可能性があると踏んで、ステータスに干渉して同じようなステータスカードを創ったんだ」

「同じカードってことはもしかして、レベルもあるの?」

「……ああ。イメージしたのが俺の持ってるカードだからな。後は不便だからどれくらいで成体になるのかのステータスも加えた」

「お、おかしいよそれは! だってモンスターにはレベルがないんだよ!? モンスターにレベルの概念をつけ加えたら成長できるってことになっちゃうから……!」


 ルーリエは普段の余裕が全くない状態で取り乱していた。あまり親しい付き合いをしていないとはいえ、普段の様子からしてもこんなに取り乱すことはないと思うのだが。


「……落ち着けって。だがフーアは幼体なんだから成体に成長するんだろ?」


 なにを取り乱す必要があるのかと思う。

 俺に言われてルーリエは三度深呼吸をして、無理矢理心を落ち着かせていた。


「……うん、ごめんね~。でもレベルの概念と成体までどれくらいかのステータスを別にしちゃったなら、もしかしたら普通のフェザードラゴンとは全く異なる成長をする可能性があるんだよ~。成体になる条件はわかんないけど~、年月だったらそれまでに20万以上にまで上げられる可能性もあるし、ステータスの数値が条件だったなら成長度合いを示す数値がいらないから変えちゃったことになるし」


 普段と同じ口調だが、おそらく意識的なモノだろう。自分を落ち着かせるために使ったのだとは思うが。


「……なるほど。まぁ別にいいだろう。強くなる分には」

「そうかな~」


 ルーリエは納得していないようだが、俺にとってはどちらでも構わないことだ。レベルがあることで通常のフェザードラゴンを超えるようならそれもいい。レベルがあっても世界の修正力のようなモノが働いて20万までしか伸びないということも考えられる。

 ステータスカードを創ったこと自体は史上初かもしれないが、通常より一線を画す強さになるかはレベルが上がってからだ。先程見たが面倒なので今のステータスをレベル1として仮定して創ってある。他の違いは成長度というステータスがあることくらいだ。

 筋力のステータスがやや低めで魔力と魔力の質が高かった。ルーリエの予想である5万を平均で考えれば僅かに上回るだろう。6万くらいにはなるはずだ。


「しかし凄いんだね~。黒帝はこんなこともできちゃうんだ~」

「……歴代と変わったとこはないと思うから、多分思いつかなかっただけだろう」


 モンスターの幼体を育てる機会にそう恵まれるとは思えない。モンスター使いやテイマーなどという存在もあまり聞かないので、モンスター=倒すべき存在という図式が定着し切った世界なのかもわからない。


「ねぇ、カイト君。もしかしてカイト君なら私を今以上に強くすることもできるのかな」


 動揺は見受けられなかったが、笑顔を消した真顔で俺を見据えてくる。


「……そんなことをしなくても充分強いんだろ」


 SSS級冒険者ばかりといると忘れそうになるが、ルグルスの話を聞く限りでは既に彼女含め天上人だ。高難易度ダンジョンの出現などがあるせいで弱く見えてしまうかもしれないが、実際には並ぶ者が少ない強者である。


「ううん。全然強くないよ。私が引退したのだって、凄く強いモンスターに殺されそうになったからでもあるし」


 しかし彼女自身はそう思っていないらしい。まだ全力中の全力を見ていない俺にはわからないが、そのモンスターとやらは相当強かったのだろう。ルーリエが相打ち覚悟で死力を尽くせば一緒に戦ったシオナスぐらいは倒せると思う。つまりステータスにして10万以上、直近の話題では成体のドラゴンなどが挙げられる。彼女の言い方だと手も足も出なかったように聞こえるが、そうなると三倍から五倍のステータスは欲しいところだ。多めに見積もっても50万のステータスがあればいいか。

 しかし現役を引退して久しい今の彼女しか知らない俺の予想だ。もう少し強かった可能性も考えるともっと高い可能性もある。


「それでどう? カイト君なら強くできる? 多分レベルを上げる、スキルを鍛えるだけじゃ劇的に強くはならないと思うの。勝ちたい相手がいても、自分の限界が見えてるから」


 余程レベルが高い状態なのだろう。一応100で打ち止めになるらしいが、80後半から90代はあるのかもしれない。

 それはそうとルーリエを今以上に強くできるか、という質問について考えるとしよう。

 実際にやるかどうか置いておいて、できるかどうかは考えるべきだ。


 あまり深くは考えないで答えを出すなら、可能だとは思う。

 ルーリエのスキルを『黒皇帝』で強化してやればいい。もしくは新たなスキルを一から生み出すことが可能なら、スキルを新しく授けてやればいい。実験のために一度スキル作成はやってみる価値がありそうだが。

 しかしその程度で彼女が望む三倍から五倍のステータスを得られるかとなると微妙なところではある。黒による強化だけでは精々一・五倍から二倍が関の山だろう。


「……今可能だと判明してる範囲でなら、大きくても二倍までの強化にしかならない。それ以上の強さを望むなら色々と実験する必要は出てくるが」

「二倍でも充分だよ~。でも私の今の実力だとそれでも足りないから、他の手段も試して欲しいな~」

「……わかった。その代わりいくつか条件を出すが構わないか?」

「うん~。強くなれるなら、なんでもするつもりだよ~」


 元の笑顔に戻ってルーリエが頷いた。おそらく彼女にとって大幅な強化は是が非でも得たいモノなのだろう。


「……そうか。じゃあ身体を好きにさせてもらうがいいか?」

「はぇ!?」


 なぜか驚かれてしまった


「……嫌ならいいんだが」

「え、あ、いや……でも、なんでもって言ったのは私だよね。わ、わかった、いいよ?」


 動揺しているようだったがルーリエは頬を染めて意を決したように頷いた。


「……そうか。ならモンスターで実験した後に種族を改造できるか試してみよう」

「えっ? も、もしかして身体ってそういうこと……?」

「……? 他になにかあるのか? スキル以外ならまず種族というステータスの根幹から変えるべきだと思ったんだが」


 なにを勘違いしたのだろうか。身体からの連想なら、そうか。モンスターのように作り替えられるとでも思ったのかもしれない。できなくはないだろうが種族の強制的進化よりはリスクが高そうだ。ミスして俺より強い化け物が生まれてしまっても困る。


「……そうなんだ~」


 少しほっとしたような残念そうな微妙な表情をしている。


「……後は定期的にフーアの面倒を見て欲しい。『送信』だけでなく言葉を発するように覚えさせ、ある程度鍛えることも考えてるからな。その辺りの協力だ」

「それくらいならいいよ~。フーアちゃん、これからもよろしくね~」

(……るーりえ、いっしょ、うれしい)


 ルーリエにフーアが抱き着いていた。これならいざという時に彼女へ押しつけることも視野に入れられそうだ。


「……じゃあ早速スキルを創ってみるか。どんなスキルがいい?」

「急に言われても悩むね~。足りない部分を補うよりは長所を伸ばさないとダメだと思うから、ステータス強化スキルがいいとは思うんだけど~」

「……そうか。なら早速創ってみるか」

「もう~? わかったじっとしてるね~」


 単純な強化スキルだったなら簡単だろうと思い、ルーリエの頭に左手を乗せる。


 ……スキル名はなににするか。黒はつけるとして。シンプルな名称でいいと思う。今後も使うかどうかはわからないが、わかりやすいモノにしよう。『黒獣』と名づけた。

 スキル効果は常時少しのステータス強化と、黒の獣になることで大幅に強化される効果の二つは必須だ。強化スキルというのであればそれだけでもいいのだが、なにか付属効果があってもいい。確か最初ルーリエが“災害の嵐”と呼ばれていたと言っていたか。ならそれに合わせて、黒の嵐を発生させる能力も付随させておく。


 俺はそれらのイメージを『黒皇帝』に乗せてルーリエへと流し込む。異物が流れ込んでくる感覚なのかルーリエは終わるまで微かに呻き声を漏らしていた。

 しばらく経ってようやくスキルが定着したらしく、発生していた黒が収まっていく。完全に出なくなったことを確認してから手を離した。


「……ステータスカードを確認して、スキルに『黒獣』があるか見てくれ」


 俺に言われた通りステータスカードを取り出したルーリエはそこを眺めて指で操作を行う。


「ホントだね~。追加されてるよ~」

「……そうか。単純な強化スキルだが追加できることがわかれば充分だな」

「凄いんだね~、黒帝って~」


 実際にやってみないとわからなかったことだ。あまりにも強くなりすぎるようなら今後は控えよう。


「あと『黒の眷属』っていうスキルが増えてるけど、これは授かったんじゃなくて授かったことで増えたみたいだね~。説明にて黒帝の恩恵を受けた者の証って書いてあるから~」


 ルーリエが続けて言った。どうやら黒帝がなにか力を与えた場合にはスキルとして証拠が残るらしい。

 感心していると服の袖を引っ張られるような感覚があった。


(……るーりえ、けんぞく、ずるい)


 フーアだ。少し不満げな顔をしているようにも見える。黒帝の眷属というのがどんな意味合いを持つのかはわからないが、フーアにとっては羨ましいモノのようだ。


「フーアちゃんもカイト君の眷属になりたいよね~」

(……こくこく)


 ルーリエの後押しもあって、俺は仕方なくフーアにもスキルを創ってやった。

 単純な強化スキルで『黒竜』と言う。ステータス上昇に加えてドラゴンの力を増幅させる効果もつけておく。

 スキルが追加されていたらしく喜んでいたのだが、これ以上強者を増やすリスクを鑑みて、二人には誰にも話さないことを条件にした。おそらくできるとは思うので、広めるようならスキルは回収するとも告げておく。スキル自体が『黒皇帝』の眷属のようなモノなので、回収は可能だと思っている。

 二人が何度も頷いていたので、とりあえずは放置しておくとしよう。


 フーアに戦いを教える役目はルーリエに任せて、どんな成長をするのか経過観察を行う必要はありそうだ。


 とりあえず今回王都でやるべきことは終わった。一週間後くらいにレーナと会うのとスヴィエラの研究室に行くくらいはすると思うが、一旦ドルセンに戻るとしよう。

 国王からの報酬はギルド経由で貰えるそうなので確認してクエストを受ける量を減らすかどうかも考慮しなければならない。二人(特にルーリエ)が目立つこともあってあまり王都に居続けるのも面倒になりそうだ。エリオナは王都に実家があるという話を聞いたので放置していいだろう。帰りの馬車は必要ないので、明朝には帰るとするか。


 そんなことを考えながら、招かれた王都での二日目が終わった。

 スキルについての理解を深めることは強さを手にする上で重要だ。他者の強化が必要になるような事態はないだろうが、精々実験体として使わせてもらうとしよう。


 強さを手にしたところで、それをなにに使うかという目的はないのだが。

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