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蟻退治

 ツヅカの森南にある岩山を見て、山としては小さく岩としては大きいといった感想だ。森の中に草木一本すら生えていない茶色の岩山があるのだから、高く跳んで方向を確認すればすぐに到着できる。

 着地には翼でも生やして勢いを殺せばいい。


 さて、岩山の周囲に洞穴があり、そこから通常よりやや大きなジャイアント・アントが姿を現したとのことだったか。

 まずは適当に周囲を歩いて回り、ジャイアント・アントを見かけたら討伐していこう。繁殖速度が高いらしいので、あまり時間をかけると殲滅までが延びて面倒だそうだ。特に一度攻め入って一旦撤退などをすると敵が現れた、種族の危機だと言わんばかりに繁殖するらしい。なのでできることなら一気に攻め滅ぼすのが推奨されている。


 本来なら数人で入って色々な部屋を回りながら殲滅するそうだが、俺は一人だ。複数人自分を創ることは可能だろうが、その後の始末を考えるとあまりいいとは言えない。時間がある時にでも分身を創って吸収し直せるかを検証しておこう。


 茶色い岩山の周囲をしばらく歩いていると、穴があった。

 岩山の手前の地面を大きく掘ったような穴だ。横幅は約十メートルぐらいだろうか。縦幅が五メートルくらいと考えても一体が通るには大きな穴だ。穴の奥は暗くてよく見えな――暗がりで光る一対の赤い目と目が合った。


「キィ!」


 甲高い鳴き声を上げてそいつが勢いよく出てくる。見た目はまんま蟻だ。俺の知る蟻との違いは大きいこと、二本足で立っていること、手で器用に槍を持っていることだろうか。体長約三メートル。先程の熊と同じだ。熊は元の世界でも大きな個体がいるためあまり変わった印象はなかったが、蟻は小さな生き物だったもで変化が著し感じる。

 仲間に知らせるという行動に出なくて良かった。俺は剣を抜くそのままの勢いでジャイアント・アントを両断する。


 ジャイアント・アントは群れで行動する魔物だからか、個体毎に役割が設けられている。人で言うところの職業に当たるだろう。

 最も多い巣の中や巣の外にいて巣を守る役割を持つ兵士。

 巣の外に出て食糧を調達する狩人。

 巣の中で子供の個体を訓練する教官。

 卵、生まれたばかりの子供を育てる乳母。

 訓練中の子供の個体である見習い。

 そして、全てのジャイアント・アントの産みの親であり最も大きい女王。

 今のところこれら以外の役割は発見されていない。昔、一国を食い物にして滅ぼしたとされる史上最大のジャイアント・アントの巣でさえ上記の役割から外れた個体はいなかったという。確かその時は今切ったヤツと同じ兵士が約五メートルの大きさだったと言うので、今回はそこまで異常な巣ではないようだ。


 さてと、兵士にも見つかってしまったので、早々に片づけるとしよう。

 単独で攻略するのであればしらみ潰しに巣を回るのが確実だが、生憎そんな時間のかかることをする気はない。

 ではどんな手段を以って殲滅するのか? 答えは簡単だ。蟻の巣を殲滅するのに適した攻め方はと聞かれれば、小学生でも答えられる。


 水攻めだ。


 小学生男子だった頃、庭や公園の蟻の巣に如雨露などの水をかけたことがある覚えのある者はいるのではないだろうか。俺はやったことがないが、巣の出入り口が一つしかなく、穴を掘ることでしか巣を作れないなら水攻めという選択肢を取るのが手っ取り早い。この世界の住人には水攻めを思いつく人がいなかったのか、それとも実行できる者がいなかったのか。前者はわからないが後者はないだろう。水を操る女神が度々現れているのなら、水を大量に生み出すのは造作もなかったはずだ。


 とはいえただの水では巣から慌てて這い出してきたジャイアント・アント達を片っ端から切り倒すことになるかもしれない。それはそれで構わないのだが、もっと手っ取り早く、一網打尽に殲滅した方が楽だ。

 それに俺には、こういう時に適した能力がある。


「……黒水」


 ただの水では敵を漏らす可能性がある。なら自分で創ってしまえばいい。


 俺は穴へと右手を向けると掌から真っ黒な水を放出した。黒水と名づけたこれは、もちろん水なのだが、そこに能力を付随させてある。

 触れた生物に絡みつき、飲み込むというモノだ。これで一網打尽にできるだろう。溺死させられなければ絞め殺せばいいわけだし、後は水が溜まり切るまで放置する。


 魔力の数値が高く、おそらくこの世界の人達が考える中では無尽蔵に近い量だからこそできることではあるが。


 日も暮れてきた頃。


 ようやく穴の中が黒い水でいっぱいになった。暗くなってくると岩山の影で穴が見えづらくなっている。大きさはあるが暗がりで隠れる場所に作ったのだろうか。

 身体に疲労感や虚脱感を少しだけだが覚えた。これが魔力を消耗した時の感覚だ。魔力量が多いとはいえ流石に魔力を消費したと実感できる。連日連戦以外で実感があったのは初めてだ。


 これでおそらく一網打尽にできたはずだ。黒水も巣全体に広がっていることは感知できる。

 ここから、死骸の引き上げを行う。黒水の中を運んでいく形だ。俺の意思でコントロール可能なので、吐き出すように死骸を一体ずつ巣から引き上げていく。


 結局日が落ちるまでかかってしまったが、かなりの数回収できた。ジャイアント・クイーンアントに関しては他の個体よりも遥かに大きく穴に突っかかってしまったのでそこで苦労したぐらいだろうか。引き上げた数と放出した水量を鑑みても、かなりの深さと広さを持っていたことがわかる。

 ……崩落してこの依頼を受けた俺の責任だなんだと言われては面倒だ。黒水の大半を黒土へと変換、再利用する。黒い土では怪しさが外へ滲み出てしまうので、岩山を切り取って穴のを途中で塞ぎ、その上に辺りの土をかけることでカモフラージュする。

 これで良し。埋め立てれば誰が見ても巣があったとは思わないだろう。証拠として多くの死骸があるので大丈夫だろうが、念のためだ。完全に殲滅したと見てわかるようにしておこう。


 日が落ちて暗くなってしまったので、一旦帰るとしよう。告げずに日を跨いでフーアが周囲へ不安を伝えて大騒ぎになったことがあったからな。あまり騒ぎの中心になるようなことはしたくない。

 俺としては早くフーアに一人立ちしてもらい身軽になるつもりなのだが。そのためには今の状況を見目良く脱する必要がある。成長したから必要ない、と周りに判断させるように仕向けるのだ。


 教官の役割を持つジャイアント・トレーナーアントがいたから『訓練』やら『教育』やらのその辺りに有用そうなスキル獲得した。フーアもドラゴンなので知能は高いはずだ。上手くいけばその内一人前になるだろう。


 俺はある程度算段をつけながら、走って帰路へとついた。

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