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『絶対防御』

寝落ちしました

「えーっと、道具がなくても発動出来ますか?」


「ふむ。難しいかもしれないな。誰か、裁縫道具を持っているヤツは居ないか」


「あっ、私持ってます」


「お前に裁縫のスキルはあるか?」


「いえ。大丈夫です。はい、貸してあげる」


「あ、ありがと」


 どうやら『裁縫』のスキルを持っている女子が諫山先生に相談しに行ったようだが、道具がないと難しいようで、裁縫道具を持っているヤツが居ないか呼びかけると一人居たので裁縫道具を借りてその女子に渡す。


「え、えっと……?」


「もう、じれったいわね。ここをこうやって……」


「……こう?」


「そう、やれば出来るじゃない」


「ありがと」


 裁縫なんてしたことがないのか何をどうしてフェルトを縫うのか分からないようなその女子に、裁縫道具を持っていた女子が見本を見せる。……スキルを持っていないのに『裁縫』が出来るのか?

 と言うか今時フェルトさえ縫えないヤツなんているのだろうか。俺の中学では全員やった。家庭科の裁縫制作実習、最初の課題だった気がする。


「んっ? あ、先生。私、ちょっと裁縫やったら『裁縫』のスキルが増えてました」


 指導役としてその女子と向き合って座る女子が、挙手をして言った。


「……そうか。お前は裁縫部か?」


 諫山先生は少し思案してから頷き、指導役の女子に尋ねる。


「はい」


 女子が頷く。


「そうか。なら裁縫をやったことがなくて『裁縫』のスキルもない女子。ちょっとやってみろ」


 すると諫山先生が考え込むように顎に手を当てて指示する。すると一人の女子が挙手しながら名乗り出て、裁縫をやってみる。


「……『裁縫』のスキルは増えてません」


 恐らくそれが聞きたいのだろうと察したその女子は、首を横に振って言った。


「なるほどな。つまり、裁縫をやったら『裁縫』のスキルを得ると言う訳ではなく、元々持っていたのを除けば一定の実力がないとスキル取得は出来ないようだな。お前達三人には、裁縫をやってもらう。これも使って良いぞ」


 そう言って諫山先生は自分のスーツの上を脱ぐと、三人の方へ投げた。……男前だな。


「特に『裁縫』のスキルが手に入らなかったヤツは、裁縫部のお前が縫い方や何かを教えながら一つ一つ出来るようになっていき、一つをマスターする毎にカードを確認し、どの程度でスキルを取得出来るか、または出来ないかを試してもらう」


 諫山先生が指示を出し、その三人は仲良く裁縫に勤しむ。……つまり、剣技の心得のある者は剣を振るえば『剣技』のスキルが増える。そう言うことだろう。だがここには剣もない。家事のスキルを持っていても道具がない。掃除くらいは出来るかもしれないが、『掃除』のスキルが増える程の掃除技能を持ったヤツが居るとも思えない。


「恐らく全員が私の『時光女神』のような特殊なスキルを持っているだろう。それがお前達の種族に関係してくるかもしれない。注意して扱え」


 金色の女神となった諫山先生が忠告する。……だがまあ、あまり効果はない。だって諫山先生や四人の姿を見れば淡い期待を抱く者が少なからず居る。


「……はぁ。お前達に分かって欲しいのは、人間じゃなくなると言うことについてだ。家族が居る者は変わり果てた姿でも受け入れてくれるとは思うが、普通の生活には戻れないだろうな。大体ここがどこかは今調査中だから分からないが、少なくともあんな怪物が居る時点で地球ではない。どこか別の遠い星だとしても戻る方法がない現時点では再び会えるかどうかも分からないのだ。あまり生き急ぐなよ」


 諫山先生は浮ついた空気に溜め息をつきつつ忠告を更に厳しいモノとする。それに多くの生徒が逡巡するような様子を見せたが。


「……でも、俺は戻るために強くなりたいです」


 一人の男子が不安そうにしながら、しかし真剣な表情で言った。


「それなら良いが。まあ。人間を止める覚悟があるなら問題ないだろう。勿論人間を止めると言っても異形の怪物になりそうな名前だったら止めておけよ」


 男子の言葉に仕方がないと苦笑しつつ、冗談めかして言った。


 ……空気が和み、教室内も上手く回っているようだ。だがそうやってやることをやっていても、問題が露呈するのを先送りにしているだけで、いつか崩れる。それは諫山先生も分かっているようで、晴れやかな表情はしない。


「あとスキルは応用を利かせられるように理解を深めておけ。特に光を操ると言う私のスキルようなスキルは理解と応用を深めなければならない。形を作ったり現象を起こしたりと言ったことだな。自分に付与させてステータスが上がるかどうかも試さなければならない。面倒だが必要なことだ」


 特に魔法ではないスキルとしてあるスキルを持っているヤツらに視線を向けて言った。だが全体を見渡しているのでスキルの理解を深めるのは誰でも必要なことだからだろう。……俺も実際に使わずどう言う使い方をするかだけは考えておかなければならない。


 そうして場が回っていき、どれくらい経っただろうか。教室の時計は秒針がやけに早く狂っているし、スマホは時間情報を通信する場所の圏外なため時間はズレているだろう。だがそれでも時計が全く動いていないので時計だけ狂っているようだ。勿論ネットも通じないし、充電は雷属性が使えるヤツしか出来ない。連絡は取れないし、携帯は充電が切れても無駄に魔力を使うだけなので所持しているだけになるかもしれない。


 俺はジッと椅子に座っているだけなので若干退屈しないでもない。俺にはこの場でレベル上げをすることが出来ない。そのためやることがないのだ。掃除や裁縫なども俺みたいなヤツがやっているし、不良共は何やら固まって相談している。コソコソと姑息なヤツらだ。

 それは兎も角、ここがどこなのかと言う調査が進んでいる。俺が最初に考察したように電気系統は恐らく魔法でまかなわれていることが分かり、外には出られるがドアが閉められていると中には入れないこと、魔法は外からでも遮断されドアが開いていても遮断出来ること、異形の怪物――モンスターと名付けられた――は結界内に入れないこと、素手でも窓ガラスなどを傷付けられないことなどが分かっている。だが森には恐らくモンスターがウジャウジャと居るのでレベルの低い今では全員での脱出は不可能だと言う結論に至った。


「……腹減ったな」


 懸念していた問題が露呈したのは、そんな不良赤崎の言葉だった。


「そう言えば……」


「って、食料ないじゃない!」


 その言葉を聞いた生徒達は騒然とし始める。……食欲は人間の三大欲求だからな。まあ三大欲求の内、この場で一番最悪なモノが爆発しなければ良いんだがな。


「落ち着け」


 そんな騒然とする教室に諫山先生の冷静な声が響く。


「お前達の心配も最もだ。時計が狂っているため正確な時間は分からないが、緊張の中過ごせば体力の消費も早い。食事は必要なことだ。だが今の私達には食料の宛てがない。分かるな? 幸い水は魔法やスキルで補充出来るが、魔力が切れるくらいに分けていればダメだ。それに水のみでは餓死してしまうだろう。これは当初から予定していたことだが――周辺への探索隊を出そうと思う」


 諫山先生は空腹を訴える生徒達に向けて、肯定しつつもそれに関する対策を告げた。それに生徒達は目を見開いて驚愕する。その瞳には不安が露わとなっていた。……それもそうだ。外が危険なことぐらい、ずっとここに居ても分かる。あれから何度かモンスターの襲撃があったため、不安にもなるだろう。


「……そう不安そうな顔をするな。レベルが上がっているヤツも居る。私も必要なら戦う。先程様子を見ながら戦ったヤツの力は拳の一発で人一人が寝転べるぐらいのクレーターを作る程度だった。その程度なら既に母屋会計がなっている」


 諌山先生は不安げな生徒達の表情を見渡して苦笑し、ちゃんと安全を確保することを口約束した。

 人一人が寝転べるぐらいのクレーターを作るって、結構な力だと思うんだが。人間には無理だろう。地面を殴った拳圧でそんなことになるなら空手なんて凄いことになりかねない。人体がへこむだろう。


「探索の目的は三つ。この森の出口はどこにあるのか――これはまだ段階が早いが急いだ方が良いだろうな。レベル上げをして強化する――これはこの森を脱出するにも必要なことだ。食料を探す――これは生き抜くためには必要だ。やらなければ餓死を待つのみだからな」


 諫山先生は探索の意義を説く。……まあやらなければ死ぬだけだからな。ここで死ぬまで過ごすのも嫌だろう。


「どうしても怖いヤツは戦わなくて良い。探索隊と居残りで主戦力は半分にするつもりだから、最悪の事態は回避出来るだろうな。私の考えでは、居なくなってはいけないヤツ――水と回復が使えるヤツはここに残ってもらい、一人はついてきてもらうかもしれないが、大半は残ってもらう。涼羅は特に、だ」


 ポヤポヤした雰囲気を放ち続ける水谷先生に対して念を押す。「は~いぃ」と間延びした口調がそれに応えた。


「魔法よりも操るスキルの方が応用が利くのは分かったと思うが、水の確保に必要だ。戦っても強いと思うが怪我を治せるヤツは温存するのが良いだろう。だが戦いで傷付き連携が取れなくなってしまうのは避けたい。回復の魔法が使えるヤツを一人混ぜ、主戦力になるヤツを一人か二人。あとは勇気のある者の少数で二つ程隊を作る」


 諌山先生は探索隊メンバーの選考基準を告げる。


「……だが場合によっては戦いたくないヤツばかりで人数が少ないと言うこともある。その場合は一つにして人数を減らし探索隊とする予定を立てていたのだが」


 しかし、覚悟がない者はここに残って良いと許してくれた。言葉にすると言うことはそれなりに安心感を生ませる。良い手だと思う。……それにホッとした者や、考え込むような者も居る。


「センセー。別に俺達が外に出なくても、先生や会長が出れば良いんじゃないっすかー?」


 そこに赤崎が手を挙げ、ニヤニヤとした笑みを口元に浮かべながら言った。……こいつは何を考えているんだろうか。恐らくスキルに自分固有のチートスキルがあって、誰も自分に逆らえない状況を作り出すために動いているんだろうが、空腹の訴えと言いこの言動と言い、こいつは今この場の指揮官である諫山先生を突き落とし自分のモノとする作戦だろうな。多分ことある毎にケチ付けてくる。


「それでも別に問題ない。と言うかだな、ただ探索するだけなら私一人でも良い。だがそれではお前達のレベルが上がらないだろう。私がこの場で最強になったところで、私が死ねばここは脆く崩れ去ることになる。一人が特別強くても、更に強い敵が現れれば崩壊する」


 一人が戦うことの危険さを説いていく。


「だが全員が同じくらい強ければ連携することで倒すことも可能だ。若しくは強いヤツが数人居ることでな。――分かったか、赤崎」


 赤崎に探索隊を編成する理由を説明しつつ、ギロリと睨んだ。……諫山先生が「お前」ではなく名前で呼ぶ相手は、特別な思いがある場合だけだ。俺が名前で呼ばれるのは面倒見が良いため世話の焼ける生徒だからだろう。

 だが赤崎に向けられた諫山先生の視線には、敵意が宿っていた。それに少なからず教室中が驚く。諫山先生は怒ることがあっても、敵を認識するような真似はしなかった。そんな人が赤崎に明確な敵意を向けている。それは相当怒っていると言う証拠だった。


「……はっ。先生、言っときますけど、先生じゃ俺には勝てないんで、そんな目で見ないでくれます?」


 だが赤崎は諌山先生に明確な敵意を向けられて若干怯んだが、面白そうに嘲笑うと言った。


 ……余程自信があるらしい。今絶大な統率力を見せている諫山先生に反抗するとは、針の筵になりかねない。だが自信に満ちたその表情は、人々の不安を掻き立てる。しかもこいつは諫山先生のスキルを知っている。何か対策があるのかもしれない。


「それは『俺が最強だからお前は俺に逆らうな』と、そう言っているのか?」


 諫山先生は全身から光を迸らせ、赤崎を睨み付ける。……ヤバい。かなりヤバい。相当お怒りのようだ。


「そう聞こえたんならすんません。事実っすから」


 だが赤崎は余裕そうな態度を崩さず答えた。……どんなスキルを持っているんだろうか。少し気になってきた。

 赤崎と同じように連れの不良もニヤニヤと笑っている。……面倒なことになりそうだ。早めに死んだフリでもしてここを出たいな。


「そうか。余程自信があるようだな」


 そう言うと諫山先生は光を収めた。


「だがお前のようなクズがのうのうと生きていられる程、世の中は甘くない」


 光も収めた。敵意も収めた。ただ冷徹に呟いたその一言が、一番驚きを広げた。余裕の態度を取っていた赤崎が、クズと言われて怒っていた。


「俺がクズだと!?」


 赤崎は椅子を倒して勢いよく起き上がり、怒鳴る。……唾は飛ばすなよ。汚いから。


「ああ、クズだ。こんなことを言うヤツは教師失格か? それでも良い。だがクズは必ず報いを受ける。覚えておけ」


 諫山先生はあっさり肯定し、失笑して言った。


「てめえ……っ! もう良い、てめえはジワジワやってやろうと思ったが、作戦変更だ! 俺のスキルは『絶対防御』! 効果は全ての攻撃を遮断する! しかも攻撃を反射出来る! 良いか? てめえが俺に攻撃した瞬間――」


 調子に乗って嫌な笑みを浮かべながら話し続けた赤崎だが、途中が不自然に言葉を切る。


「ふむ、反射して私に跳ね返ってくるか他のヤツに当たる、だろう? 随分と自信があるようだが、こうやって発動前に時を止めてしまえば簡単に倒せると思うぞ」


 呼吸を止めてから再び息を吸うまで時を止めることが出来るのだが、対象の大きさが大きくなる、人数が多くなるにつれて止めていられる時間は短くなる。この場合赤崎の時だけを止めていたので、話すことも可能だ。

 喋っていることもあって早口だった。


「――反射しててめえに当たるか他のヤツに当たるってことだよ! それにこんな使い方も出来る!」


 諫山先生の言った通りに言い、更に拳を振り上げ透明な薄い膜を纏う。


「っ! 避けろ桐谷!」


 攻撃して弾くことは出来ないので、回避するように諫山先生が言うが、俺は微動だにしない。そのため後頭部に降ってきた物凄い衝撃を受け、机に思いっきり顔面をクラッシュさせた。……痛いし目眩めまいがする。恐らく触れた時に反射して弾き、吹き飛ばすんだろう。厄介だ。


 ……ヒビの入った机に顔面を着けて、生温かい液体がドロリと広がるのが分かる。痛みからして鼻が折れて血が出ているようだ。


「お前……っ!」


「……こうして、俺から攻撃してもその衝撃は遮断され相手に反射される」


 諫山先生がギリッと歯軋りするにも関わらず、赤崎は少し溜めを作って得意げに、ニヤニヤしたまま言った。


「……」


 俺は何事もなかったかのように起き上がるが、鼻からドクドクと血が出ている。


「ヒールぅ。ひょいっとぉ」


 緊迫した雰囲気の中でも、間延びしたいつもの口調で、水谷先生が俺の足元に淡い黄緑色の魔方陣を出現させ、淡い黄緑色の光が鼻を包んだかと思うと、血が止まり痛みが消えた。違和感もなくなったので鼻の骨折が治ったんだろう。更に水が血を洗い流してくれて、綺麗になった。……その水は血が混ざったまま消えていく。何と便利なスキルなのだろうか。その人が一人居れば洗濯が楽チンになるのだ。


「……ありがとうございます、水谷先生」


 俺は軽く頭を下げて礼を言う。軽い怪我なら一瞬で治せるのか。血は戻ってこないから貧血になりそうだが。


「……てめえ、嘗めてんのか?」


 何故か赤崎が苛立ったように眉をピクピクと跳ねさせ、額に青筋を浮かべて俺を睨み付けていた。


「どっちがだてめえ!」


 だが憤怒の声が聞こえ、赤崎が斜め上に吹っ飛んだ。


「がっ!?」


 赤崎を吹っ飛ばしたのは、眉の間にしわを寄せ赤崎に対し怒りを爆発させた、燃えるような赤髪ショートカットをして燃えるような赤い瞳になった火の女神。明るく快活な性格で男女隔てなく接することで有名。スタイルは巨乳と言える程の大きさを誇っており、肢体は運動が得意なせいか引き締まっていて弾力がある。

 母屋夏代である。


「……てめえ、何してんだよ」


 メラメラと赤い炎を全身から滾らせた会計の夏代は今まで誰も見たことがないような憤怒の表情で、しかし瞳だけは絶対零度にまで冷え切っていた。……この人は正義執行のためなら暴力もいとわないってところがあるからな。周囲からは引かれても、マジで鉄拳制裁って言葉が合う。


「……ぐ、あ……」


 赤崎は呻いて壊れなかった窓に叩き付けられ床にずり落ちた身体を起こす。


「まだ生きてんのか。『絶対防御』ってのが発動する前に不意打ちで一撃決めればいけると思ったんだけどな」


 夏代は右拳を左手で覆うようにして指をポキッと鳴らして一歩一歩ゆっくりと赤崎に近付いていく。


「止めなさい」


 それを手で制したのは会長を務め、艶やかな漆黒の長髪と瞳は健在であるが、黒の深さが増したように思える闇の女神。常に冷静沈着だが諫山先生とは違い妖艶や綺麗と言う字が当て嵌まり、一部では「お姉様」と呼ばれ慕われている。四人共スタイルに差はなく、巨乳と言える。合気道をやっているので運動神経も悪くない。

 母屋美夜である。


「……何だよ。美夜は怒ってねえのか?」


 美夜に止められて夏代は少し落ち着きを取り戻す。


 因みに誰が三年で二年で姉で妹かを言うと、美夜と木と風の女神、響が三年の双子で美夜が姉。剣の女神、奏と夏代が二年の双子で奏が姉。つまり美夜、響、奏、夏代の順だと言うことだ。


「怒ってるわよ? 自分の実の弟がまるで試し打ちの的のように扱われてキレない姉が居ると思ってるの?」


 ……ん? どうやら俺が殴られたことに怒っているらしい。優しい姉だ。出来るだけ俺の事情に首を突っ込まないで欲しいと言った時にもあまり表情は変えなかったし、イジメが判明した時にも「私を頼りなさい」じゃなく「嫌なら言葉にしなさい」って俺が悪いみたいなことを言ってたから俺に対して弟への愛情みたいなのは皆無だと思ってたんだが。それとも人前だからだろうか。まあどっちでも良い。


 だが確かに闇が全身から溢れている。


「じゃあ何であのままやらせてくれねえんだよ」


「今人を私達が殺したら、恐怖で支配しているようにしか思われないわ。混乱が起こるのは出来るだけ避けたいの。分かるでしょ? それに夏代が一番短気だからって、奏も響も我慢してるでしょ? 一番妹だからってそんなに変わらないんだから、夏代も我慢しなさい」


 一番上の姉が一番下の姉を必死で説得している。……だがそのいつもと同じように聞こえる言葉の中に「殺す」と言う単語がサラッと入っていたことがどれくらい怒っているかを表しているようだ。


「……チッ」


「はっ! 不意打ちじゃなきゃ俺は攻撃出来ねえとか、大したことねえな」


 夏代は少し逡巡してから舌打ちして拳を収めるが、調子に乗った赤崎が挑発する。


「それより夏代。あなたあんなの殴っちゃダメでしょ。汚いわ」


 だがクルリときびすを返して美夜が言うと、不満そうだったが渋々夏代もそれに従った。


「ああ!?」


 だが美夜の言葉は赤崎を挑発するのに充分なモノだった。


「水谷先生、水下さい」


 だが怒鳴る赤崎も無視して美夜は水谷先生に声をかける。


「てめえ、殺す!」


 赤崎がキレて美夜に殴りかかろうとすると、いきなり赤崎の時が止まった――いやよく見ると微妙に動いている。恐らく時の流れを遅くしたんだろう――諫山先生のスキルだ。……恐らく赤崎は『絶対防御』でスキルも遮断する。それは諫山先生も予想していると思うので、赤崎の周囲の時を遅らせたんだろう。これを使うと一時的に人は宙に浮くことが出来るのだ。


「……赤崎、いい加減にしろ」


 嘆息混じりに諌山先生の声が聞こえる。


「時を止めたらお前に聞こえないから遅くして言うが、お前が発動する前に時を止めれば簡単に倒せる。さっきお前がそのスキルについて説明している時も止めた。気付かなかっただろう? なら、死にたくなければ大人しくしていろ」


 諫山先生はそう言って時間の遅らせを解除する。再び通常の時で赤崎が動くが、既にスタスタと美夜と夏代は歩いているのでその攻撃は外れ、時間を遅らせても言葉はしっかり聞こえると言うことは分かっているので赤崎は諫山先生の方を睨んで舌打ちし、ドカッと椅子に腰を下ろした。


 こうして赤崎が起こした反乱は、諫山先生のおかげで鎮圧された。……いや、火種を先送りにしただけかもしれないが、最悪の事態になることだけは避けられた。

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